爽やかな風がそよそよと、優しく頬に当たる。
この前、優羽(ユウ)の家が全焼したらしい。もう何も残ってないと言う。
青華(アオハナ)は扇子を片手に2階の窓から顔を覗かせていた。
青華の家は珍しく、平屋ではなかった。
その為綺羅星がより近くに見える特等席だった。
朗らかに暮らしたかった青華は、人里から離れた場所に家を構えた。
それに人里は物騒な噂が絶えないので、人里から離れて良かったと思っている。綺羅星も見えるし。
風鈴の音が響く。
それが、周りに誰もいないことを際立てている。
優羽は初色を実らせ、夫になった。綺麗な娘を嫁に貰い、さぞかし嬉しそうだった。だが、それを恨めしく思った者がいたのか家に火をつけられたらしい。
そんな愚かな輩を探すついでに、青華は自分の真名を探そうと思った。
青華は疾うの昔に真名を落としてしまった。
それだから、青華には青華と呼ばれる前の記憶ががらんどうだった。
自分がどのような人物だったのか、自分は何処でどうやって育ったのか。そういう記憶が一切無かった。
だから、知りたかった。
どうして死ねない体になったのか。
風鈴の音が青華の記憶に鮮明に残る。
遠い昔に、青い薔薇を貰った記憶さえ、朧げにしか浮かばないがそれが青華の名前の由来だった気がする。
噂を巡れば真名が、この特性が、どのようなものだったか、知れる気がした。
知れる気が。
青い薔薇は噂を巡りて真名を知る 第壱話 放火の噂と真名の行方 完
コメント
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まず題名で興味が湧くの凄すぎる