テラーノベル
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練習試合当日 朝 球場朝の8時前。
まだ選手たちはロッカールームで着替え中の時間だった。
翼は勇人と二人、球場に一番乗りで入っていた。
手押し車に山積みになった横断幕やメガホン、塩飴、スポーツドリンク、簡易スコアボード……
マネージャーとして必要なものを、すべて自分で運び込んでいた。
「翼、重いだろ? 俺が持つよ」
勇人が笑いながら荷物を分けようとするけど、翼は首を振った。
「いいよ。今日は俺が全部やるって決めたから」
勇人はため息をついて、横断幕の端を持ってくれた。
二人はグラウンドの外野フェンスに、大きな横断幕を広げた。
白い布に黒いマジックで書かれた文字——
竜皇高校硬式野球部 初陣!
甲子園への第一歩を、みんなで!
翼は脚立に上り、慎重にテープで固定していく。
風が少し強くて、何度も幕がはためく。
それでも、翼は笑顔だった。
(いよいよ……)
まだ誰もいないグラウンド。
土は朝露で少し湿っていて、朝陽が白いラインをキラキラ照らしている。
マウンドは新しく、ホームベースはまだ誰のスパイクも刻んでいない。
翼は脚立から降りて、グラウンドの中心に立った。
風が頰を撫でる。
(ここから……始まるんだ)
まだ見ぬ甲子園の景色を、翼は胸の中で思い描いた。
巨大なスタンド、満員の観客、アルプス席からの大声援、
そして——マウンドに立つタクの背中。
(俺はもう、投げられない。
でも、応援できる。
みんなの声になって、みんなの力になれる)
翼は深く息を吸い込んだ。
胸がいっぱいだった。
勇人が隣に並んで、同じ方向を見ながら言った。
「なあ、翼。
今日から本気で始まるんだな……甲子園への道」
翼は小さく頷いた。
「うん。
俺、ちゃんと支えるから。
みんなが全力で戦えるように」
そのとき、グラウンドの入り口の方から声が聞こえてきた。
「翼ー! 早いな!」
タクだった。
ユニフォーム姿で、グローブを片手に歩いてくる。
後ろにはアキ、真琴、みとら、井上……
少しずつ、チームのメンバーが集まり始めていた。
タクは翼の横に立って、横断幕を見上げた。
「……いい出来だな」
翼は照れくさそうに笑った。
「みんなが来てくれたら、もっと大きくなるよ」
タクは翼の頭を軽く撫でて、
低く、でもはっきりと言った。
「今日からだぞ、翼。
俺たち、一緒に」
翼は頷きながら、胸の奥で誓った。
(絶対に、みんなの力になる。
俺にできることで、精一杯)
朝陽が、グラウンド全体を優しく照らしていた。
竜皇高校硬式野球部の、
本当の始まりの日だった。
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