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眠っている頭に包帯を巻いたスミスを降谷は見下ろしていた。
ガラッ!とドアのノックもなく入ってきた風見が、つかつかやってくる。
がしっ。と胸元を掴まれて降谷は素直に驚く。
「どういうことです」
「風見、落ち着けよーー」
「あなたは彼女を守ると言った!」
握りあげる拳に力がこもる。
「それなのにっ……」
スミスを見て、ばっと手を離す。
「もちろん守る。命をかけてもな……だが今回に関しては大丈夫だ。脳波も異常ないし、ただ当たったときの血が出ただけで…」
きっ!と風見は珍しく、かなり怒っている。当たり前だよな、と降谷は思う。
「怪我をさせても生きていれば守っているうちに入るとでも!?」
彼は降谷から距離をとる。
「許さない」
「風見」はあ、とため息まじり言う。
「彼女はあなたのためなら死ぬ。私も彼女のためなら死にます」
だからこそ!と風見はぎゅっと目を閉じて拳を握る。
「簡単に…傷つけないでください……」
「!」
「お願い……します……」
風見は蚊の鳴くような声で言って、頭を下げる。
「う」とスミスが目を開ける。「おっきいのはあそこだけでいいわ、風見…」
「スミス!」
「うるさいわよ…いたっ。すごい大きなタンコブできてる」
「悪かった。守ってやれなくて」
「大丈夫。それよりーー」
「子供らは怪我ひとつない」
スミスはほっとしたように笑う。
「ならいいわよ、風見…あなたも。来て」風見はすぐ駆け寄り、素直にスミスをかき抱く。
「無事でよかった……あぁ」
「ありがと」
「今夜」と降谷はそれを目を細めて見たまま言う。
「1晩は入院だ。明日には退院でき…」
風見が振り向く。
「なら、わたしが残ります」
「おい風見…」
ずい、とさらに近づいてくる風見の圧がとてつもない。
「いいですね」風見はまた拳を握りしめる。
「こんなことは…言いたくない。降谷さん…だが、わたしはあなたの協力者である前に男です……そう言ったのはーー」
「僕だ」はぁ、とまた肩を落とす。
「ならーー」
「風見!」とスミスはベッドから叫ぶ。
「っ…」苦しそうに風見は目をそらす。
降谷の隣に来て、風見は呟く。
「…傷つくのがあなたならよかったのに……」
ドアは激しく閉まった。
雷鳴で目が覚める。土砂降りだ。電気は消えていて、何時かはわからなかった。
目の前に風見が寝ている。自分には布団がかかっているのに、風見のほうははだけている。
そういう男よね…あなたは。
布団を風見にかけると、す、と目が開く。
「起こした?」
「いや…」
起き上がろうとする風見に、「大丈夫」とそれを止める。
「わたしトイレも見られてたから」
ふぅー、と息をつくと、雨の音がした。
「あなたには悪いけど、誰とでも眠れるから…」
そのまま抱き寄せられ、スミスは位置を逆にした。
心臓の音を聞くような姿勢の風見の頭を撫でる。
「…なぜ」
「ん?」
「…なぜあんな酷いことを…降谷さんに…謝らないと……」
ゴロゴロと雷が光る。
「本当に優しいわね、風見刑事」
「…ふっ」風見は呆れたように笑う。「よく言われる…」
「大丈夫よ。零を見くびらないで」
「そういう意味ではーー」と顔をあげる風見に、スミスはキスする。
「んっ…」風見は素直に眉をひそめたが、舌で舐めまわすとぐ、とスミスの腕を掴む。
やめてくれ、という意味なんだろうが、絡む舌は動き続ける。
「風見」はあっ、と彼は蕩けそうになるのを引き戻す。
「そんなふうに見られて、嘘はつけない。ありがとう……」
また頭を胸に寄せる。
「君は……」ぐ。と腰を抱く手に力がこもる。
「なぜそこまで降谷さんを信じられる?」
スミスは頭を撫で続ける。
「…私が世界で1番信じてるのは…自分自身なの……そのわたしが信じるから、信じてるのよ」
「はっ…」と風見は呆れた。と言った感じで呟く。「さすが降谷さんの女だな」
「自意識過剰」2人は笑い合う。
「僕は……」また腕に力が入る。「…彼を信じているーーそれでも……君が、スミス」と見上げてくる。
「っ耐えられない……」ぎゅう。と風見は目をつむる。「それで君が傷つくのは嫌なんだよ……嫌だ」風見は首を振る。「見ていられない……僕は降谷さんのように……覚悟ができない……」
スミスは何かがひきちぎれそうだった。たぶん、心と名のつくものが。
「ねぇ……」とスミスは起き上がる。
「いい人生ってなんだと思う?」スミスは振り向く。
横になった風見が呟く。
「【普通】に生きること?」
わたしたちはみんな罪深いーー…。
「なら……」
ママが雨の中で笑う。
ロイが、スミスの目を見たまま血を吐く。
風見が落ちていく……。
零がーー
「…っ」片目を押さえても、目の前には、かたかた震えて自分の心臓をさわらせる降谷が見える。
だから…そうやって生きていく……
ハインツが肩越しにブロンドを揺らし、歩いて行く。
スミスは背をすっと正した。
「なら…」ふさ、と前髪が目にかかる。
雷鳴が強くなる。
わたしは、わたしがーー。その普通に生きることの罰を受ける。
だからーーそのかわり。
「何も奪わせない」
「スミス」風見は上体だけ起こし、その碧い髪を見た。
「…ロイのことを?」とスミス。風見は目をそらした。イエスだ。
「…わたしは、彼を殺したわ」
口を開こうとする風見に「わかってる」と言う。「それ以上に…何人、何十人って……」
近くに雷が落ちた轟音に、風見は窓を見る。
「…だからいいの。風見」
「え?」
「あなたは覚悟なんてしなくていい」
もちろん零もだ。そんなことは、もう誰にも背負わせない。
「神を信じる?」とスミスは聞く。
風見はしばらく黙ったあと「よくわからない」と言った。日本人らしい。
「わたしは信じてない。でも、あなたが危篤だと聞いたとき」すっ、と風見の頬に手をやる。「生まれてはじめて…神に祈った」
すり、と親指で頬を撫でる。
「……でもね」手を離してスミスは下を向く。
神はいない。あるのはーー自身の決断だけだからだ。
ビルの屋上特有の強い風がからだじゅうを吹き抜けていく。
「あっ」スミスは髪を押さえ、よろける足を踏ん張る。
「零ーー」
ビルの縁に立つ後ろ姿に話しかける。
上体だけ振り向いた彼は、首をかしげて笑う。
ざわ、と血が騒いだ。「そんなところに立たないで!危な……」
彼は振り向くと、両手を広げる。スミスは目を見開いた。
「止められないーー」耳元でハインツが話しかけてくる。「…!」ぐわ、と反対側にまわわれる。
「あれは彼の決断なのよ……」「ちがう!」スミスは首を振る。「あなたはそれを…見届けなければならない……」唇が耳につきそうなほど近くで、ハインツは囁く。
「あなたには力がある……」
愛した男の……死さえ弄ぶ……ね。
「…!」スミスは息ができなくなる。
「あなたは何もしてない…」
ハインツは後ろから囁き続ける。
「ずっと…そうだったでしょう?みんな死んだけど…あなたも……行き着くところは一緒。罪深いだけなの……」
「だとしたら!」スミスはハインツを振り払った。
わたしが、全ての罰を受けるーー
だからーー
スミスは後ろに倒れていく降谷に手を伸ばして走り出す。
神にさえーー
「なにもーー!」スミスは空中で降谷を抱き止めて、自分が下になった。
奪わせない……!
地面が迫り、ぐっと目を閉じる。「ああっ……!」とスミスは飛び起きる。
目の前で風見と降谷が驚いて身を引いていた。
「は…」スミスは唾を飲んで、髪に手を入れた。汗だくだった。
「なんだ」
「大丈夫か?」
「ごめん」はあっ、と息をつき、まだばくばくする心臓を押さえて肩で息をする。
「悪い夢でも見たのか?」
「風見と寝るからだ」と降谷はふん、と腕を組む。
風見は目だけで、なんでわかった?と言いたそうにする。
「…仲直りした?」と、はあっ、と息をして言う。
2人はいつも通り、背を向けあって腕を組んだ。
「べつに」
「元から仲良しこよしじゃない」
ふん、と互いに顎をあげて言う。仲良しね、とスミスは少し笑った。
コメント
2件
ありがとうございます!
おお、めっちゃ重くて熱い話だった…!風見の怒りとスミスへの想いが生々しくて、心臓掴まれた感覚。特に「傷つくのがあなたならよかったのに」にはグッときたわ。スミスの「何も奪わせない」って決意もカッコよすぎるし、悪夢から覚めた後の3人の空気感もリアルでよかった。ちゃんと感情が動く話は好き🔥