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夜のヨコハマは、霧と光のあいだに沈んでいた。高層ビルの明かりは海へと滲み、漁火のようにゆらめいている。そんな光景の中、港近くの倉庫街に、一人の少女が静かに歩いていた。白のブラウスに、赤いリボンタイ。同じ赤のリボンが髪飾りとして、緑色の髪に揺れている。緑の瞳はどこか夢の外を見ているようで、現実からわずかに乖離している。目的地は、ポートマフィアの縄張り。敵対も味方も、すでに顔見知りだ。天人五衰、武装探偵社――どことも浅からぬ縁がある。けれど今夜は、どこにも属さない“情報屋”としての仕事だ。でもやっぱり現実だと怖いわー。少しだけ、この雰囲気は、好きかも。倉庫街の奥、灯りのない建物の前で、京香は足を止めた。「……中也様、いるでしょ?」返事はなかった。けれど、次の瞬間、風が巻き上がるようにして彼が現れた。「用件は?」中原中也。ポートマフィアの幹部。黒い帽子を軽く指先で押さえながら、京香を見下ろすように立つ。「今日は売り込みよ。正式に、“ハーブ”として、あなたたちと取引を始めたいの」「へぇ。探偵社とも付き合いがあるお前が、今さらこっちに?」中也は目を細めた。敵か味方か――その線引きに、常に疑念を持つ男だ。けれど京香は一歩も引かず、懐から名刺を取り出す。「立場はいつも“第三者”で、必要なときに、必要な場所へ情報を流すだけよ。感情は商品じゃないし」名刺は白地に、細く美しい文字で印字されていた。
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ハーブ
異能力:《魔女》
・心の読み取り
・緊急時の高出力異能発現
・呪術的補助
・魔女的行動全般可
【中立・匿名・迅速】
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「心を読めるっていうのは、情報屋にしちゃ……少し危険すぎるな」中也が眉をひそめる。「でも便利でしょ?」京香は微笑む。その笑みは柔らかいが、何かが“こちら側”にない。「裏切るような真似はしないよ。私は“契約”を守る魔女だしね」しばしの沈黙ののち、中也は名刺を指で弾いた。「……お前のことは芥川からも聞いてる。ちょっと派手な“トラブルメーカー”だってな」「(てか待って。つまり、芥川様にも認知済みってこと!?)私はただ、真実に興味があるだけ(アニメの何期ぐらいか把握したいし、推しの中也にエリスにドスくんに太宰もいるし)」「ふん……今は必要ない。けど――」中也は背を向けながら言った。「近いうちに、“魔女”の力が必要になるかもしれねぇ。覚悟しとけよ、ハーブ」京香は首をかしげた。「私はいつでも覚悟してるわ。だって、魔女ってそういうものでしょ?」中也の背が倉庫の闇に溶けていった。