テラーノベル
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第3話静かな夜だった。街灯の光がかすかに揺れ、静寂の中で舞乃空は深く息を吐いた。美月はすでに眠っている。だが、舞乃空は眠れずにいた。
舞乃空「……私は、どうすればいいんだろうな」
独り言のように呟く。その言葉は、暗闇の中に吸い込まれていった。
美月との再会、そして彼女の本当の両親が探していたこと。その事実を知った時、心の中がぐちゃぐちゃになった。喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか。
——美月は本当の家族と幸せになれる。
それは間違いなく、いいことのはずだった。でも、ずっと一緒にいた舞乃空の心には、言葉にできない寂しさがあった。
舞乃空「……私には、関係ないこと、だよな」
そう言い聞かせるが、胸の奥の鈍い痛みは消えない。彼女は立ち上がり、ベランダへ出た。冷たい風が頬を撫でる。
その時——
乱数「舞乃空ちゃん?」
突然の声に振り向くと、そこにはシブヤ・ディビジョンの飴村乱数がいた。彼は舞乃空の表情を見て、少し目を細める。
乱数「眠れないの?」
舞乃空「……まあな」
乱数「ふーん、珍しいね。舞乃空ちゃんって、意外と強がりだからさ」
乱数は壁にもたれながら微笑んだ。だが、その笑顔の奥には、どこか探るような視線があった。
乱数「何か悩んでる?」
舞乃空は一瞬だけ視線を落とし、それからゆっくりと口を開く。
舞乃空「……妹のこと、考えてた」
乱数「やっぱりね」
乱数はため息をつくように笑い、舞乃空の隣に立った。
乱数「舞乃空ちゃん、さ。本当は、妹と離れたくないんじゃないの?」
舞乃空「……それは……」
返事に詰まる。自分でも気づいていた。美月が本当の両親の元へ帰るのが正しいことだと分かっていても、どうしても納得できない自分がいる。
乱数「でもさ、考えてみて?」
乱数は夜空を見上げながら言う。
乱数「美月ちゃんの幸せが、舞乃空ちゃんにとっても幸せになるんじゃない?」
舞乃空「……そうかもしれない。でも……」
乱数「でも?」
舞乃空は唇を噛み締め、静かに言葉を続けた。
舞乃空「私は……本当の家族がどんなものか、よく分からないんだ。だから、美月が幸せになるってことが、どんな意味を持つのか……分からない」
乱数は少しだけ驚いた表情を浮かべ、それから静かに微笑んだ。
乱数「……そっか。じゃあ、ゆっくり考えればいいよ」
舞乃空「……え?」
乱数「焦らなくていいんだよ。舞乃空ちゃんが何を選ぶにしても、きっと間違いなんてないから」
その言葉に、舞乃空の心が少しだけ軽くなった気がした。
夜風が二人の間を吹き抜ける。
この先どうなるかは分からない。でも——
舞乃空「……ありがとな、乱数」
舞乃空は小さく微笑んだ。
夜はまだ、長い。
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