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「じゃあ、次の目的は冒険か?」
皆の用事が一段落した夕食の時。ついに旅の行き先を告げられた。
「そうです!ミランと一緒にセイさんが喜びそうな場所を一生懸命考えました!」えっへん
そう擬音がつきそうなくらい自慢げだ。
「はい。次の目的地は冒険王の国『エトランゼ』共和国です」
「遂に共和国か。じゃあ、冒険王といっても王様ではない?」
共和制は君主を持たないはずだ。この時代背景には難しいんじゃないか?
「はい。元々は何も無い土地に、当時の冒険者達が建国の祖である冒険王を慕い集まって出来た国です。
当時は冒険者組合はなく、魔物専門の討伐者達の集まりでしたが、その扱いを憂いた冒険王が冒険者組合を作って国を興しました。
エトランゼ共和国といいますが、冒険者組合の総本山ですね。統治者は代々の冒険者組合本部組合長が歴任しています。
なので冒険者の扱いが一番良い国ですね。もちろん実力主義ですが。
ただその分、ルールは厳格なのでただ強いだけの横暴な人は追放されてしまいます」
良かった。ならず者達ばかりの国だと聖奈さん達を連れて行けないからな。
「何も無い土地なら見る物もないのか?というか、よくそんなところに人が集まったな」
「もちろんそんなはずはありません。何もないと言ったのは、人が暮らしていない、宿や食事処、観光地がないといった意味合いです。
何故何もない、人がいない土地だったのかというと、大昔、そこは魔物で溢れていたからです」
魔物が多いから、それで冒険者が集まった?いや、事はそう単純じゃないだろう。だってミランは、昔はと言っていたからな。
「今はいないと?」
「いえ、今もいますが、そこが今回の目的地になります」
「えっ?よくわからんのだが?」
「セイくん。魔物がどうして溢れかえっていたのか考えたらわかるよ」
えっ?…そこが魔物の好む土地?いや、違う。聖奈さんがいうんだからもっとラノベ的な…
「スタンピード…が起こっていた?」
「はい。その結果として魔物で溢れていました」
「原因は…ダンジョン?」
違ってたら恥ずかしいぞ!
『はっ?ダンジョンとは何ですか?頭大丈夫ですか?お酒ばかり飲んでいるからそうなるのですよ?』
なんて言われた日にゃ…死ねるぞ……
「凄いですね。本当にそこへたどり着けるなんて…」
「流石リーダーですっ!」
エリーのヨイショはお菓子目当てだろ?
「じゃあ、誰の土地でもないエトランゼにいた魔物達を、昔冒険王が仲間達と倒したらダンジョンが出てきたから、そこに冒険者組合を作って建国したということか?」
「はい。簡単に言うとその通りです。ダンジョンは不思議な場所で、今現在も全容は把握されていませんし、何故魔物が湧くのか、お宝が出現するのかわかっていません。
そもそも私がダンジョンの存在を知ったのも、今回の調査によってです」
そうか。次の旅の目的地を探していたらダンジョンという聞きなれないモノを見つけて、調べる内にそこを俺が喜びそうだと考えたんだな。
「ありがとう!ミラン、エリー!俺はすぐにでも行きたいくらい気になっているぞ!」
俺が喜びを爆発させると、ミランは顔を綻ばせてとびきりの笑顔をくれた。
エリーは何か期待に満ちた眼差しを向けてくる。
うん。デザートはやるから。
「聖奈は良いのか?」
「どういう意味かな?もしかして、嫌だって言ったら置いていくのかな?」
何か聞いたらいけないっぽかったな。
「ち、違うぞ!聖奈の意見も大事にしなきゃと思ってな!俺はリーダーだから!」
「そう?私は見てみたいなぁ。そんな不思議なモノがあるならね」
流石異世界フリーク。
「じゃあ決まりだな!どんな場所なんだ?」
俺の疑問にミラン先生が答えてくれた。
エトランゼ共和国は国とは名ばかりの首都エトランゼのみの国。エトランゼにはダンジョンがあり、その収入のみで運営されている。
ダンジョンはエトランゼの中心にある。街のど真ん中だ。街の外壁は外からの襲撃に備えたモノではなく、スタンピードが起こった場合に被害を軽減させる目的で作られたモノだ。
街には50万の人が住んでいて、冒険者は2万人程だ。
冒険者組合の本部と言うだけあり、大陸中の凄腕冒険者が集まってくる。
Bランク以上には存在を伝えるみたいだから、ウチに住んでいるBランクの二人は知っているのだろう。
残りの48万人は何かしらの商いをしている人が殆どだ。もちろん大工などの職人さんもいるだろう。
そこで生き残っている冒険者はかなり稼ぐらしく、48万人を2万人で養えるようだ。
まぁ、養うって言っても街に金を落とすって意味だけど。
そこでは色々なルールが他の国とは違うようだ。代表的なもので言えば・・・
働けなくなった冒険者は国を出て行かなくてはならない。
スタンピードが起こった時と、他国が攻めてきた時は、組合の指示に従わなくてはならない。
いくらお金を持っていても、消費するだけの奴を養わないってことか。シビアだね……
入国には冒険者ランクB以上。
「あれ?じゃあ俺達は入れないんじゃ?」
「大丈夫です!商人として入れます。セイさんはランク4の大商人ですので、問題ないです」
おかしい…冒険するのに商人としてなんて……
「他の職業の方なら入国出来るのです。商人ならランク2以上からといった具合に、制限はありますが」
そうか。確かに食べ物とかを輸入に頼っているなら、徒に人を集められないよな。
ダンジョンがそれを補って余りある資源を供給出来ているのかは知らんが。…出来ているから成り立つんだろうなぁ。
「ダンジョンには入れるのか?俺は商人だぞ?」
「大丈夫です。ダンジョンへの入場は制限されていません。なので、街に入れる者は誰でもダンジョンに入れます」
「それだとどこかの金持ちな商人が自分の私兵を軍団規模で連れて入国して、ダンジョンを荒らさないのか?」
資源取り放題なんてやばいよな。
漁業権がないのに栄螺を乱獲してもいい。みたいなもんだよな。
「それは不可能だと思いますが、もし仮に出来たとしたなら構わないと思いますよ。何せダンジョンは誰でも入れるので」
「不可能?何でだ?」
「先程言った街に入る規制のためです。いくら大店の商人であっても、供を連れて入るのには制限があります。
他国の来賓であれば別でしょうが、お忍びできた王族だとしてもそれは適用されます。
ちなみにランク4の商人で6人までです」
なるほど。国からしたら一石二鳥の法律ってわけか。
「後、ダンジョンから取れる90%の資源は魔石です。他の9%の資源は金や鉱石などで、残りの1%が宝物です」
「魔物の素材は取れないのか?」
「はい。魔物は死ぬと魔石を残して消えます。私も聞いた時は疑いましたが、嘘をつく理由がないので間違っていないと思います。
そして、稀に宝物を残します」
ふむふむ。
「鉱石や金は?それも魔物から?」
「いえ。それはダンジョンを掘れば出てくるそうです。ダンジョンは複層構造になっていて、下に行くほど難易度が上がるようです。ですので、浅い階層ではすでに掘り尽くされているみたいなので、年々金や鉱石の出土が減っているそうです」
確かに冒険に来てるのに態々ツルハシ担いで穴掘らないよな。特に深い階層まで行ける人たちは。
「まぁ、俺達はダンジョンで楽しめたらいいから金は二の次だな」
「そう楽観視は出来ません。冒険者は二万人と言いましたが、それは増えないからです。
殆どがBランクへと登り詰め、さらに上のAランクを目指し、さらに一攫千金を目指す目的でエトランゼへ来ます。ですが、新たに来たBランクで生き残れるのは10人に1人と言われています。つまり気を抜くと簡単に死ぬということです」
うん。ミランとエリーは入るの禁止な!
「セイくんはそれを聞いてどう思う?やめとく?」
「いや、行くぞ。むしろそれだけの魅力がダンジョンにあるってことだ。もちろん死んでも良いなんて思わないからしっかり準備して行く」
「うん!私も止められてもいっちゃうね!だってこれを逃したら、異世界に来た意味を無くしちゃうもん」
ホントに異世界好きだなぁ。
「私ももちろん行きます」
「ダメだ」
「私も…えっ?」
俺はノータイムでミランにダメ出しした。エリーは驚いているな。
「ミランとエリーは街までは一緒だけど、そこからは別行動だ」
当たり前だ。何で仕方なく冒険者をしているミランとなし崩し的に冒険者登録しただけのエリーを付き合わせるんだ?そんなわけないだろ。
「何故でしょうか?もしかして危険だからというわけではないでしょう?」
「危険だからだ」
「それは冒険者になった時に覚悟を決めたと前に伝えましたよね?」
「それは知っているし、覚悟も伝わっている。でもな。態々危険なところに飛び込むのは違うぞ」
「それはセイさん達も同じですよね?」
「俺達はその危険が楽しいんだ。こんな変態な理由はわからんだろう?」
変質者ではないからね?間違えないでね?
「私は…確かに態々危険なことをする意味はわかりません。ですが、セイさんと冒険すると誓いました。貴方となら喜んで死地に向かいます」
「セイくん。無駄だよ。セイくんが私の異世界好きを止められないように、ミランちゃんの気持ちも止められないよ。
私達がダンジョンに興味津々な気持ちより明らかに強いもん」
「あ、あの!私も行きますからね!?」
うーん。エリーはまぁいいとして…ミランを簡単に死ぬような所に連れて行くのはなぁ……
『セイさんはあの子の保護者じゃないわ。あの子の仲間よ?過保護になり過ぎてはダメですよ』
ミラン母の言葉が脳裏を過るが……
「わかった。その代わりダンジョンの探索が終わるまで、デザートは無しだ。俺も酒を飲まない」
ミランが大好きなモノを絶ってまで行くのなら、もう止めん。
俺はダンジョンより酒だけど…酒より仲間だからな。我慢するべ……
「わかりました。ずっと一緒に居られるなら、一生なくても構いません」
いや…俺はダンジョン終わったら飲むよ?一生はやめよ?
「えっ!?え…」
いや、エリーは答えなくていいから。
「…わかりました。苦渋の決断ですが、ダンジョンの探索が終わるまで・・・・・が、が、がまん…しますぅ」
えっ?!泣くほど嫌なら我慢せんくていいぞ?
「ねっ?セイくんが思っているより、私達ちゃんと仲間してるんだよ」
「どうやらそのようだな…しかし、良いのかな。俺と聖奈の命懸けの遊びに付き合わせて」
「もう!はっきりしないなぁ。良いんだよ。私のでもなく、セイくんのでもない。ミランちゃん自身の選択なんだから!」
それでも自分が死ぬより絶対苦しむぞ?
「はい。私の選択なのでセイさんにとやかく言われたくないです!」
み、ミランが…非行少女に……
非行少女ってなんだ?
「悪かったな。ミランは大人だもんな」
俺はそう言いながらミランの頭を撫でた。
「そうです。私は大人です。ですのでデザートも我慢できます!」ふんすっ
「わ、私も…大人なので我慢するのです…」
エリー。声が小さいぞ。
俺達は決意と覚悟を新たに、エトランゼ共和国。
通称ダンジョン都市を次の目的地に決めた。
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エリー「うぅ…デザート…」
ミラン「エリーさんこれを」
エリー「!?これは…チョコレート!!なんで!?どうして!?」
ミラン「これはおやつです。デザートではありません」
聖奈「…没収ね」
ミラン&エリー「えっ!?」
聖(すまん…俺がチョコと共に悪知恵を伝えたばっかりに…)