「気をつけてな!」
「儂も40年前であればのぅ」
俺達は玄関で新婚さん達に見送られている。
「ビクトール様は今でも十二分に通用します!」
「フォッフォッ。リリーはついて行けばいいものを…」
「私はビクトール様のお側に…」
俺は朝から何を見させられているんだ……
「…もう出るぞ」
「じゃあね!偶に帰ってくるからその間よろしくね!」
「バイバイお爺ちゃん。リリーさん」
「行って参ります」
俺達は別れを告げて、裏庭に回る。
「乗ったな?じゃあ転移するからな」
無駄に広い裏庭に停めていた車へみんなが乗り込んだのを確認すると、転移魔法を発動させた。
「よし。流石にまだ薄暗いから誰にも見られていないな」
魔力視魔力波のコンボを使って人がいないことを確認すると、早朝の誰もいない道に車を走らせた。
「外はダサいけど、中は普通だね!」
「おい。鍛治職人に怒られるぞ」
失礼な。確かに見た目はボロいが、しっかりした造りだ。
コンセプトは全身を盾で包んだ装甲車だ。
「少し寒いので魔導具を起動しますね」
「頼む」
まだ二月の初旬だ。いくら雪が積もりづらいこの国でも、朝は氷点下近い。体感な。
エリーはそう言うとドリトニーの元持ち物の魔導具を起動させた。
「この道を暫く真っ直ぐで良いんだよな?」
「はい。この道は旧道で遠回りですが、お陰で交通量はかなり少ないです。
暫くすると西に向かう道に出ますので、それまでは真っ直ぐでお願いします」
よし、ナビゲーターミランは応答が早くて助かるぜ。
助手席にはこれからもミランに座ってもらおう。
エリーは論外だし、聖奈さんだと悪ふざけが過ぎるからな。
夕方、見知らぬ所。
「よし。この辺りで休もう。どうだ?」
周囲は風光明媚と言えば…嘘です。ただの山の中です。
「良いんじゃないかな?」
「そうですね。道の前後の見通しも悪くないですし、見張りもし易そうです」
「……はい…」
ここをキャンプ地とする!
まぁ屋敷に転移すれば何も問題は無いんだけど、それだと風情がないからな!
「エリー。車酔いが酷いなら、明日は屋敷で待つか?」
「うん。エリーちゃん、無理することはないんだよ?」
「…大丈夫です。私だけ除け者はダメです…」
除け者ちゃうやん。お荷物ではあるけど…まぁそれも旅の醍醐味よ。
聖奈さんが胃に優しい食事を作ってくれて、俺は食べた後、寝た。明日も運転があるからな。
運転のない女性陣で俺の分まで野営の見張りをしてもらった。
「起きてください」
どうやら最後の見張りはミランだったようで、俺は無事起こしてもらった。
「おはよう。悪いな、俺だけ熟睡させてもらって」
「いえ。運転は大変ですから」
うん。あなた運転したことないでしょ?またミランに気を使わせてしまったな……
育ち盛り(?)のミランにはしっかり睡眠を取ってほしいが、これも過保護か……
まだ辺りは真っ暗だが、朝食を食べて車に乗り込んだ。
ライトがあるって素敵……
昼になり自分の休憩の為に車を停めた。
「ここはどの辺りだ?」
「ここは国境の手前ですね。先程の分かれ道が最後の街になります」
ああ。もうそんなところまで来れたのか。多分40km/hくらいは出せているから、王都からここまでは400キロくらいの道程かな?
「それで国境はどうするんだ?」
そもそも隣の国は目的地じゃないからな。
目的地は隣の国をさらに東に進んだ所にあるらしい。
また通り過ぎるだけの国が……
「国境はもちろん徒歩で通過するよ。もしかして、この車で押し通りたかったのかな?」
「まさか。そんなことをしたら後が面倒だからしないぞ」
やはり車は見せずに通るか。まぁ冒険者なら徒歩でも問題ないよな。
ちなみに馬達は爺さん達に世話を頼んでいる。
屋敷から店へと商品を運ぶのにも使えるしな。
休憩後、暫く進むと突き当たりに出た。
左右に道が通っている丁字路だ。
「どっちに行くんだ?」
「ここから左に行くと、正規の国境ルートがあります。ここからそこまでは馬車で2、3時間なので、もう少ししたら徒歩で向かいましょう」
「やっと降りられますぅ…」
もう少しだぞ、エリー!
車酔いで顔色が悪くなっているエリーの為に、悪路で車を揺らさないようにゆっくりと走った。
「ん?何かの反応がある。降りた方が良さそうだな」
魔力波が何かを捉えた。それはこちらに向かってきている。
みんなが車を降りた後、転移で車を屋敷まで運んだ。
俺が戻ってくると先程の反応したものが、目視できる位置まで来ていた。
「ギリギリだったね。どうやら警邏中の騎士さんか兵士さんだね」
「どうやらそのようだな。みんな剣を持ってくれ。エリーは魔法使いだからいいぞ。話を合わせてくれ」
偶には俺が喋ってもいいよね?
「止まれ!何用でここを通る?」
どうやら俺達に声を掛けてきたみたいだな。まぁ、誰もいないから当たり前だけど……
アンタの上司は飲み友達だぜ?なんて言えないから普通にいこう。
「俺達は冒険者だ。この先にある国境を通って隣国へ向かう所だ」
「そうか。一応冒険者カードを確認させてくれ」
真面目な兵士さんだな。アンタの上司はいつも飲んだくれているのに。
「確認した。最近は密入国者が増えてな。隣国へ行くなら気をつけてくれ」
そう言い残し、行ってしまった。
「なぁ。隣の国はどんな国なんだっけ?」
「…この国とは関係が良好で、特に農業が盛んで、武力行使に出たことはここ100年以上…記録に残っている限りありません」
ありがとうミラン先生。
でも……
「じゃあなんで、そんな温厚な国から国民が逃げてくるんだ?」
「あの飛蝗のせいじゃないかな?」
ん?それって……
「前にあったあの飛蝗か?でも、ここはかなり離れているぞ?」
「飛蝗って何です?何かあったのです?」
「エリーも知らないってことは、あの災害級の飛蝗は関係ないんじゃないか?この国にだけこないなんておかしいしな」
「そうだね…農業で困るなんて他にも山ほどあるもんね」
そうなんだよ。もちろん蝗害もやばいけど、他にも冷夏や暖冬なんかもある。もちろん水害や日照りも。
「つまり、何かしらの理由で向こうの国は困っているってことだな」
「一先ず向かいましょう。国境で何か聞けるかもしれませんし」
さすリダ!
なんか久しぶりに使ったな。最近心のリーダーが幼児だったからな……
やって来ました国境。これまで通って来た国境とは違い、建物が一つしか見当たらない。
「どうやら持ち物検査が一度しかないようですね。流石友好国と言うべきか、危機管理がなっていないと言うべきか」
ミラン先生が毒舌だ。俺としては荷物検査なんて少ないに越したことはない。
「向こうからの人も多いけど、こっちからの荷馬車も多いね」
どうやら俺達が通った旧道とは違い、新しい道ではそこそこ人が通っているみたいだな。
旧道を通るのはやましい奴か、本物の密入国者くらいなんだろう。
「そうだな。前の商人っぽい人に聞いてみよう」
すみませーん。怪しいものではないでーす。
人の良さそうなご高齢の商人に聞いたところ、やはりこれから行く国では不作が起こり、それにより食糧事情が不安定になっているようだ。
流石に国全体の食糧難ほどではないが、田舎では深刻な集落や村があるらしい。
このお爺さんは過去に安く穀物を仕入れさせてもらった恩を返す為に、支援物資を個人的に運んでいるとのこと。
「素晴らしい行いですね」
聖奈さんが手放しで老人を褒めるが・・・
「素晴らしいことなんかじゃないですよ。年寄りは恩を返すのが、最後の仕事ですからね」
なんてこったい…こんな聖人がこの世界にはわんさかいるのか!?
俺達は老人と別れて入国をはたした。
「じゃあ、俺は魔法の鞄と車をとりに行ってくる」
「はい。待っています」
国境を抜けた後は人がいない場所まで行き、車と魔法の鞄を取りに俺は転移した。
国境では魔法の鞄の中に入れておいたそれぞれの小さな鞄を持って入国をした。荷物は少ないが俺達は冒険者なので、そこまで怪しくは見られていないと思う。
車に乗って転移魔法で戻ったら、既に辺りは暗くなっていた。が、丁度いい。
「じゃあ、みんなは寝ててくれ。俺が眠くなったら起こすから」
「うん!程々にね。居眠り運転は危ないから」
女性陣は眠りについた。エリーも寝れたら酔わないからな。
ミランだけは『私も起きています』と言ってくれたが、成長に悪いから断った。
夜の知らない国の道を俺はひた走る。
まだ地図も手に入れられていないから、兎に角東へと車を走らせた。
〓〓〓〓〓〓〓〓小話〓〓〓〓〓〓〓〓
聖奈「確か助手席の方が酔いにくいって聞いた気がするよ」
ミラン「気のせいです」
聖奈(絶対譲る気なさそうだね…)
聖「そう言えば酔い止め薬は?確かあったろ?」
聖奈「もちろん飲ませたよ。でも効きにくいみたいだね」
ミラン「エリーさん。大量に飲めば効きます。頑張って飲んでください」
エリー「おぇっ」
聖(益々幼稚園バスの様相を呈して来たな…)
以下、補足。
四半日とは二時間程度の時間のことです。
今後の話ですが、銃火器がかなりの頻度で出てきます。もちろん主力は主人公ですが、物語の都合上というやつです。
その中でミリタリー系の専門家、有識者の方々にとっては児戯に等しい内容となる事がありますが、ファンタジーとして温かく見守って頂ければ幸いです。
作者はネットで調べていますが、ネットには間違いも書かれています。その点もご了承下さい。
作者と同じく、銃火器の知識が少ない方は気軽に読めますのでご安心ください。
もちろん銃火器に興味のない方も気楽に読める内容になっています!多分…ボソッ
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