テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「無陀野ぉぉぉ!」
「ミョリンパ先生…困難とはこのことなんですね…」
再び無陀野の前に姿を見せた、月詠・桜介の練馬コンビ。
と同時に、鳴海へ向けた1本の連絡が入る。
逃げる途中でケガをした鬼や、桃との戦闘で負傷した隊員が多数出た。
一時的な救護所を設けたからそこに来て欲しいという内容だった。
「月詠、あそこにいんの鳴海だよな!?」
「間違いないね。良かった…表情を見る限り、まだ怖い思いはしてなさそうだ。というかなんかイライラしてるね」
「だな。周りに怪しい気配もねぇし、今んとこ俺ら以外の桃太郎はいねぇな」
思っていた以上に早く鳴海を発見することができ、練馬コンビはホッと胸をなでおろした。
心配していた別動隊もいないため、2人はお目当ての人物との戦いに意識を集中させる。
一方、鬼サイドの動きはというと…
「早いとこ右京を捜さないといけないですからね。無陀野さんと大我は捜索に行ってください。」
「隊長ここら俺らが相手するんであの銭ゲバ野郎をぶっ飛ばしてきてください!!」
そう言いながら、八咫烏2人、猫咲と印南は3人の前に出る。
当然、練馬コンビは不満爆発だ。
“何でお前らとやらなきゃいけないんだ”と声を荒げる桜介に対し、猫咲と久遠寺がゆっくりと近づいて行く。
「えー?ゲームとかやったことありません?いきなりラスボスと戦えないですよー。 まずは手前の雑魚と戦うのは常識ですよー。だよねー?愛執?」
「うんうん。俺らは言わば中ボス。本命にお目通ししてほしいなら倒してほしいなー」
「まったくもー…まぁ気ぃ抜いてっと、その雑魚に殺られることもあっけどなぁ!」
「は!テメェらいい目してんじゃねぇか!」
「任せたぞ」
「死ぬなよ!できれば怪我もすんなよ!」
「紅亜、愛執、無茶だけはしないで」
「天乃了解」 「久遠寺了解です」
こうして朽森、花山院に続き、八咫烏2人に猫咲と印南がチームから離脱した。
2人の無事を祈りつつ、鳴海は無陀野・百鬼と共にその場から移動する。
走ること数分、今度は彼がチームから抜ける番だ。
「無人くん、大我ちゃん!ここで別れる!」
「あぁ」
「…無陀野先輩、やっぱ俺がギリギリまで一緒に行った方がいいんじゃねぇか?」
「俺の妻は優秀だ。必要ない」
「心配しなくてもいいよ!この辺の地図も抜け道もちゃんと把握してるから!」
「じゃあそっちは頼みます!ちゃんと休憩取ってください!」
「了解!」
笑顔の百鬼と拳を合わせ、鳴海もまた元気よく言葉を返す。
直後にかかってきた部下からの連絡に対応する百鬼を横目に見ながら、無陀野は優秀な妻の元へ近づいた。
優しく鳴海の頭に手を置くと、静かに言葉を紡ぐ。
「集中しすぎると周りに目が向かなくなるのがお前の唯一の欠点だ」
「うん…」
「別に怒ってるわけじゃない」
「!」
「鳴海はいつも事がいい方に転ぶよう考えてる。それは俺が一番よく知ってる。サポートは俺たちがやるだからいつも通りに…いいな?」
「分かった!俺頑張る!」
「満点の返事だ。何かあれば、些細なことでも連絡しろ。1人で抱え込むなよ?」
「らじゃ!」
安心したように明るい笑顔を見せる鳴海。無陀野は彼とさらに距離を詰める。
そして百鬼がこちらを向いていないのを確認すると、自分を見下ろしている鳴海をふわっと抱き締めた。
思いがけないタイミングでのハグにテンパる鳴海を他所に、無陀野はポツリと言葉を漏らす。
「……紫苑だけズルい」
「!」
「俺だって充電が必要だ」
聞こえてきた単語から思い出されるのは、本部へ乗り込む前のやり取りだ。
朽森が”充電させて”と鳴海へ抱きついてきた…あの出来事。
同じことをまさか無陀野がしてくるなんて。
ドキドキは止まらないが、そのいつもとは違う少し子供っぽい言い方に、鳴海の顔には笑みが浮かぶ。
「無人くん可愛い!」
「うるさい」
「へへっ。あ、じゃあ!俺も充電しちゃお!」
無邪気にそう言うと、鳴海は無陀野の背中に手を回しギュッと力を込める。
いつも一方的に抱き締めてきた彼にとって、鳴海からの行動は思わず目を見開くほどの衝撃だった。
「…逆効果だ」
「えっ」
「ますますお前が欲しくなった」
自分に回されている腕の力が強くなるのを感じ、鳴海は一気に余裕がなくなる。
アタフタする彼に気づいていないのか、無陀野は熱っぽく名前を呼びながら胸に顔を埋めた。
だが胸元に感じる吐息に脳内がショートする寸前、面白いぐらいあっさりと熱源が離れる。
突然の出来事に辺りを見渡せば、部下との会話が終わり、百鬼がこちらへ戻って来ようとしているところであった。
「(イチャイチャしすぎて大我ちゃんの声聞こえなかった…)」
「無陀野先輩、待たせてすみません!行きましょう!」
「あぁ。…ありがとう。充電できた」
「俺も充電出来ちゃったもんねー!」
「ふっ。またあとでな、鳴海。」
「行ってきます!」
そうして2人と別れた鳴海は、一時救護所へ向けて走り出した。
救護所には一般人・隊員を問わず、多くの鬼たちが倒れていた。
少し心得のある隊員たちが応急処置をしていたが、増え続けるケガ人にそれも限界が近い。
故に鳴海の到着は、彼らに大きな安心感を与えた。
「(すごい数…こりゃ気合い入れないと!)」
「あ、援護部隊の方ですか!?」
「援護部隊じゃないけど怪我治せるから来たよ!」
隊員たちから重症度別の人数やそれぞれのケガの具合などを聞き出す鳴海。
設置してあったホワイトボードに書いて頭を整理しながら、動ける隊員たちにテキパキと指示を出していった。
戦闘部隊ではあるが経験豊富な鳴海が陣頭指揮を取ることで、場は少しずつ冷静さを取り戻していく。
「よし…一旦この流れで進めてくれる?」
「「「はい!」」」
「何かあれば随時、俺かそこにいる2人に言って」
「あぁ!助かるよ、本当にありがとう」
「任せちゃって。誰も死なせないから。」
その力強い言葉とは裏腹に、鳴海の笑顔はとても穏やかで優しいものだった。
隊員たちも、ケガをした鬼たちも、誰もがその存在に救われた。
1時間が経つ頃には重症患者の治療も終わり、鳴海は最終チェックとして救護所全体を見て回る。
無陀野や百鬼との約束通り休憩もしっかり取っていたため、彼自身もすこぶる元気だ。
こうして鳴海は、1人の死者も出すことなく救護所での任務を全うした。
と、出て行こうとする彼の耳に獄卒が仕入れたとんでもない情報が飛び込んでくる。
「お兄様、先程怪しい桃太郎を見つけましたわ」
「怪しい雰囲気?」
「目視だけですから何も言えないんですけど何かこう…薬物症状らしきものが見て取れましたわ」
「薬物症状…その桃はこっちに来るの?」
「蝶たちの報告からここには来ないかと存じますわ。大通りに向かっているようですわ」
「! その大通りって、桃太郎の本部の近くの?」
「ええ、はい…そうですけど」
舞蝶の言葉を聞いた鳴海は、猛スピードで救護所を出て行った。
だってそっちには…猫咲と印南がいる。
10分ほど走っただろうか…
鳴海はさっきまで歩いていたあの大通りまで戻って来た。
戦いの邪魔にならないよう影から静かに通りへ目を向ければ、印南と月詠の姿が見えた。
後輩が血だらけでボロボロになっているのは心配だが、例の怪しい桃太郎の姿は見えないことにホッと息を吐く。
しかし安心したのも束の間、不意に印南の背後に1人の桃太郎が現れる。
何事か呟いたその桃は次の瞬間、印南を巻き込んで爆発した。
同時に近くのビルでも同じような爆発が起こり、人影らしきものが落下しているのが見える。
目の前で起こった出来事が信じられず、鳴海はしばし呆然とその光景を眺めていた。
ドザッという嫌な音で意識を戻すと、あらゆるリスクをものともせず印南の元へと駆け寄った。
「幽ちゃん!!」
「うっ…」
「鳴海……にげ、ろ…」
「猫ちゃん!?」
不意に名前を呼ばれ振り返れば、すぐ傍に猫咲が倒れていた。そのすぐ側には意識の無い一途。
位置関係から察するに、ビルから落ちてきたのは間違いなく彼だ。
戦闘のダメージに加え、爆発による衝撃で2人とも瀕死状態…鳴海はすぐさま治療を開始した。
その姿を報告されているとも知らずに…
「斑鳩鳴海…捕捉」
1,095