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「放浪者なんて知らない!!!!!もう大っ嫌い!!!!!!!」




本当に幼稚だと思う。我儘な恋人なんて要らないし求めてもない。こんな状態が長引くなら………きっと僕たちは、別れてしまえばいい。





…………………………






「ねえ、放浪者!今日本屋一緒に寄ってかない?」

本屋。別に僕は好きじゃない。でも空が行きたいなら………。と、いつもこの調子で甘やかしてしまう。特に自分は帰ってもやることがないし、もし空に誘われたらほとんど100の確率で着いて行く。空もその事自体迷惑に思ってなさそうだし寧ろ喜んでいる様子だった。僕が一緒に行くと言ったらすぐに顔が朗らかになってあからさまに気分が良くなっている。

「………やることもないし、いいよ。」

僕も嬉しいとは感じているが、それを表に出すのは少々…かなりだらしないと思うので表情も変えずにオッケーする。こんな僕でも空は愛してくれているし、愛想を尽かすこともない。それが僕にとっての救いだった。



「あ!あった!これ面白いんだ〜放浪者にも今度貸してあげよっか?」

「浮かれポンチめ。」とでも言いたくなるほどに隙がある。僕にだけ見せてくれている表情なのかもしれないが、僕が了承せずに他の男と一緒に買いに行ってこの表情を見せていたのだとしたら…。考えるのはよそう。良い事が一つもない。

「僕は要らない。それより用事はもう済んだのかい?もう時間も遅いし…あっ」

ズボンのポケットに入れてた携帯が微かに振動して音が鳴る。電話だ。それを察した空が「いいよ。俺は待ってるから。」という台詞だけ残して近くにある本の表紙を眺めに行った。

空には妹が居るからこのような気遣いができるのだろう。それをありがたく思いながらいまだに鳴り続ける電話に出た。

『…あ、こんな時間にかけてすまない。』

聞き慣れた声だ、クラスメイトでよく世話を焼いてくれる万葉の声がする。

「構わないよ。それで?用件はなんだい?」

『うむ。今度放浪者殿に手伝ってほしい事が………チョコレートの包装選びを手伝ってくれぬか?』

「それ僕じゃなくていいよね?」

『他の友人に聞いても、「そうか〜万葉はモテるもんな〜!頑張れよ」など………結局頼めなかったのでござる。放浪者殿にしか頼めないのだ。どうか…』

そう。万葉は「クラスで結婚したい男ランキングNo.1」というふざけたランキングの一位。それくらい女子にモテている。そりゃもう大量のチョコレートをもらっているわけでお返しも大量なのだ。返さなくてもいいものを…とも思うがなんせ性格が優しいのだからお返しは絶対にするタイプ。心底めんどくさいと僕は思う。

「僕でいいなら。でも期待はしないでよね。センスは僕にもないから。」

『〜〜〜〜〜いいのでござるか!!拙者だけでは選びきれなくて………明日から、で良いか?放課後に集合ということで。』

「それで構わないよ。予定は空けとく。今暇じゃないからまた明日詳しいことは説明して。それじゃ。」

勝手に話を進めて切ってしまったが大事なことは伝えたので別にいいだろう。それよりも空だ。待たせてしまったので少し急ぎめに向かうと先程買った本に夢中だった。

「空。待たせてごめん。」

「ん…放浪者?大丈夫だよ!じゃ、帰ろっか。」

やっと買えた!とウキウキで帰る空の様子を見ると自然と心が癒される。また出かけたいな。







………………………………







「放浪者!今日一緒に帰らない?」

今日も空が話しかけてくる。いつもは何もないから癖で承諾しそうになるのを止めて万葉の用事があるのを思い出す。

「ごめん。空。今日はちょっと用事があるから…また今度。」

少し言い方が冷たかっただろうか。でも空はそんな自分でも理解してくれるから。甘えてもいいだろう。

「あっ…そっか。……ううん…大丈夫!全然大丈夫!!そうだよね。わかった、いってらっしゃい!」

少しへこんでいる空の様子を見て罪悪感が湧くが約束を破るのは友人が減るのでなるべく控えたい。それに空とはまた一緒に帰る機会があるから大丈夫だろう。優先すべきは万葉の包装選びだ。



「………放浪者殿!」

遠くから声が聞こえてくる。いつもより大袈裟に手を振ってこちらに向かってくるのは………先日電話で話した万葉だった。

「すまない。待たせてしまった。今からでも………」

「それよりその汗を拭いなよ。僕のことは気にしなくていい。ほら、行くんだろう?」

くい、と服を引っ張って道路を指差すと顔を明るくして「うむ」と答えてくれる。にしてもその後ろに持ってるチョコレートの量は…聞くまでもない。もらった女子へのお返しとして万葉が作ったチョコレートだ。この量だと数日はかかるな…と覚悟しながらも、空以外との外出は珍しいので歩くペースが分からず緊張してしまう。



「まずは一人目。……黄色とかは?黄色にオレンジのリボンとか…あっ。何でもない。今のは忘れて。」

『色』と言われて最初に思いつくのが黄色だった。黄色とオレンジと言った後で、色が勝手に空っぽくなってしまうことに気がついた。急いで訂正するが、万葉は笑った後で「最初はそれにしよう」とオレンジ色のリボンを手にとった。


着々と進んでいき、チョコレートが入った箱が色鮮やかになっていく。日も暮れてきた頃に丁度キリよく30人分まで飾り終えた。

「にしてもこの量はどうなっているんだい…。まだ5分の1くらいだよ。それに渡す作業もあるんだろう?…大変そうだね。」

他人事なので軽く言葉を投げるが、でも楽しいから良いと本人は嬉しそうに言っていた。狂っているんじゃないか。あと2日も経ったら飽きるであろう作業なのに。




「放浪者!!いた!今日こそは…」

また空が話しかけてくる。靴をちゃんと履いておらず、急いで出てきたでろう痕跡がいくつか残っている。

「?ああ、空か。ごめん。今日も帰れそうにない。先に帰ってて。」

可哀想だが、万葉のホワイトデーお返し包装選びのためには暫く先に帰っててもらうしかない。本当は僕だって一緒に帰りたいのに。そう思ってはいても声に出すことはできなかった。

「…そっか。頑張ってね」

分かりやすくしょげた空は一人でとぼとぼ帰っている。初めて見る光景だったから何とも言えない。ただ、自分が空を傷つけてしまったと、それだけはわかった。


「放浪者殿?思い詰めている様子だが…何かあったのでござるか?」

「いや、何もない。気にしないで。それより遅れたら時間がなくなるよ。ほら」

歩きながらあと何日あれば終わるのか考えたり、どこの店に寄るのか話し合う。こうやって友達ができたのも空のおかげなんだなと思うと少し切ない気持ちになった。

「にしても中々終わらないね。」

「それでも、感謝の気持ちはちゃんと伝えたほうが良い。拙者は人の気持ちを踏み躙るような行為はあまりしたくないのでござる。」

万葉はビジュもルックスもよく、おまけに運動神経も勉強も…と、女子から人気の理由が丸わかりだった。そんな万葉に比べたら僕は………運動神経はいいけど…勉強はそこそこ、自分で言ってしまうのもだが口は悪いし人付き合いが苦手だ。告白してくれた空のおかげで今があるとも言えるだろう。



「ふう…………これ、結構疲れるね。もう夕方か…」

口ばっかり動かすのも良くないのでうるさ…少々おしゃべりっぽい万葉に相槌を打って淡々と作業を続けていたらいつの間にか日が暮れていた。

「今日はここでお開きにしようと思うのだが…放浪者殿は明日も予定は大丈夫でござろうか?」

「僕は暇人だからね。これくらい何の問題もないよ。」

自分で言ってて醜い。でも本当にその通りだから言い訳ができない。苦笑をされて挨拶を交わしたらいつもの騒がしい道を一人で帰る。こんなに静かだったっけ。






「放浪者〜!!お〜い!」

手を振られた方を一瞥すると昨日のように空が走ってきた。

「ね、今日暇?新しいレストランができたみたいなんだけど…」

「………ごめん。また今度行こう。今日も忙しいから。」

話を続ける前に会話を切って校門の前へ行く。空も走って着いてきて、じゃあ別れの挨拶だけ!とせがまれた。

「またね!放浪者!」

「…うん。」

いつも通り元気な空だけど、今日は昨日に増して背中が小さく感じる。万葉の手伝いが終わったら一緒に帰れると思うから………あと少しの辛抱だから。


「放浪者殿。」

少し前に空と本屋に行った時ついでに買った本を見ながら待っていると、後ろから声をかけられる。

「…ああ、万葉か。今しまうから。………行こうか。」

3日前から待ち合わせをし始めたが、異様なほどに慣れるのが早くて自分自身に驚いている。世間話…と言ってもほぼ万葉が一方的に話しているだけだが。をしながら歩くと突然万葉が

「そういえば放浪者殿。拙者の他に仲の良い友達はおらぬのか?」

と聞いてきた。仲の良い友達。真っ先に思い浮かぶのは一人しかいない。

「友達っていうかこいび…いや、うん。一人だけいるよ。」

「こいび?」と首を傾げてこちらに問いかけてくる万葉を無視しながら勝手に進むと走って着いてきて、「あっ、今日色の組み合わせを調べて…」やら「色のバリエーションが多い店を…」やら。話を変えては一方的に話しかけてくる万葉を見ると、「こっちも浮かれポンチだったか」なんて。そう考えてしまう。




「やっと半分………」

3日かけて半分か。この様子だとまだ3日かかる…というわけではなく、明日と明後日はいつもより早めに授業が終わるので2日で何とか終わらせるつもりだ。そうすれば空とまた帰れるようになる。それが僕の今一番の原動力だった。

「助かる………放浪者殿が居てくれて良かった。ホワイトデーまでに間に合う予感がしてきたでござる。」

お互いヘトヘトで床に座り込んでいる。この調子で後2日………………なんて考えるだけでも頭痛がしてきた。今日はいつもより早めに寝よう。








「放浪者、今日も一緒に帰れそうにない…?」

「うん。先に帰ってて。」

このやりとりも何回目だろうか。でも明後日には一緒に帰れるんだから………そう考えたら自然と心が軽くなった。いつの間にか、空が自分にとっての帰る場所となってしまったのだろうか。

「わかった…今度レストラン行こうね!」

めげずに話しかけてくれる空には感謝だ。エネルギーが補給される。おかげさまで今日の作業も集中出来そうな気がした。






「後ちょっとだね」

「うむ………………ここまできたなら明日には作業が終わるだろう。放浪者殿、小さなお礼だが、受け取ってはくれぬか。」

万葉から渡されたソレは、透明な袋に包まれたチョコレートだった。

「………甘いもの…」

咄嗟に拒否反応が出るが、疲れてるときの甘いものは体に染みると空も言っていたしここで断るのも何だか…なんて思ってしまったので有り難く受け取る。今だけバレンタインのチョコを全て受け取ってしまう万葉の気持ちがわかった。

「明日で最終日だ。お互い疲れていると思うでござるが、頑張ろう」

励まし合って「またね」と言い合う。いつのまにか僕は友人との接し方がわかるようになっていた。






今日でやっと終わり。そう思うと心が一気に軽くなる。それでも一つ気がかりなのは………空が今日は話しかけてこなかった、ということだ。でも空だって用事なのかもしれないし、考えすぎるのもいけないだろう。明日になったら一緒に帰れるから。きっと大丈夫だ。


「これは赤が良いと思う。白色も欲しいかな。」

「ふむ…ならこの色…いやこれも捨て難いでござるな…」

「それは青と合わせるといいんじゃない?」


最後まで気を抜かず。あと数人まできたら喋るのをやめて集中して取り掛かっていた。そしてついに………ついに………

「終わったでござる!!!!!!!!!!!」

「疲れた………」

最後の一個の包装されたチョコレートを持ち上げて、オレンジ色に染まった夕焼けにかざす万葉を見つめて、僕も喜びを噛み締めてる。

「すまない。助かった。これで何とかなりそうでござる!必ず借りは返す!拙者もお主の力になるでござるよ。」

そんな簡単に宣言してしまって大丈夫なのか………不安に思いつつも、別れ際に挨拶をして見慣れた道路を歩く。

今日の夕焼けはいつもより明るく感じるものの、どこか寂しい感じがした。








「………」

おかしい

おかしいおかしい!!!!!

空が話しかけてこなかった。今日も。

昨日だけじゃなくて?どうして?学校には居た。でも明らかに避けている。

何かしてしまった?もしかして何日もの間一緒に帰ってないから?ついに愛想を尽かされた?でも………でも仮にも僕たちは付き合っていて、恋人で、ずっと一緒にいたのに?

こんなあっさり終わってしまうのか。人間の関係って。絶対に問い詰める。なんで。どうして…?空、僕は君に何かしてしまったのか……?







………………………………






つい最近、放浪者が一緒に帰ってくれなくなった。

理由は…………わかんない。

3日目までは良かった。きっと長引いてるだけなんだろうなって。そう信じていた。

でも、でも見ちゃったんだ。4日目の夕方辺りのことかな。


放浪者が人からチョコレートを貰ってるのを____


いや、知ってるんだ。放浪者は俺のことを捨ててまで他人からチョコレートを貰いに行くタイプじゃないって。でももし仮に、それが俺より大切な人だったら?だとしたら話は変わる。俺より大事にしたい人が出来たってことだ。目の前でその光景を見てしまった俺は心臓があり得ないくらいに高鳴って、ひたすらに前へ向かった。考えることすらも嫌で、もしそれが放浪者の浮気なら………俺は、放浪者と付き合う資格なんかないんじゃないか。そんなの嫌だ。放浪者の隣は俺がいい。でも放浪者は顔もいいし俺より誇れる点が幾つもある。苦しい。本当だったらどうしよう。

そう考えてからは、どう向き合えばいいのかわかんなくて放浪者の事を避けてしまった。

放浪者は今も、その人と一緒に遊んでいるのだろうか。どうしよう蛍、お兄ちゃん考えるのが辛いよ。






「空。」

「…、ぁっ…」

放浪者だ。

結局昨日は考えるのをやめて寝てしまった。今でも結論は出せてない。…どうしよう。もしかしたら別れ話かもしれない。いよいよ捨てられる?もう俺は………放浪者の隣に立っちゃいけない?

「…放浪者」

自分の口から出た声は少し掠れていて。声も小さくて。なんだか素っ気なくて…。いつもならちゃんと笑顔で接してたのに。なぜかふつふつと怒りが湧いてきて。

「どうして、どうして話しかけてくれない?」

その声を聞くだけで俺の心はぐちゃぐちゃになってしまう。あ、もうダメだ。そう思った頃には思いっきり叫んでいた。


「放浪者なんて知らない!!!!!もう大っ嫌い!!!!!!!」


4日目の夕方を思い出す。あの日みたいにがむしゃらに走って走って走り続けて………どこに行くのかすらもわからずに、ただひたすらに逃げて。こんな自分を見て欲しくない。今は放浪者と話し合えない。ごめん。放浪者。




………………………………




「大っ嫌い」

一番聞きたくなかった言葉だけが頭にずっと残って、反芻してしまう。

ない筈の怒りがどんどん僕の頭を支配して、文句だけで埋め尽くされる。

本当に幼稚だと思う。我儘な恋人なんて要らないし求めてもない。こんな状態が長引くなら………きっと僕たちは、別れてしまえばいい。

その一線を越える、僕が封印してた言葉は意外にもあっさり、簡単に出てきた。

「もう、僕は一緒にいる価値もないか………………」

ずっと二人きりで帰ってた帰り道がなんだか虚しく感じて、今日だけは別の帰り道に変更した。


「あっ」

「…あ」

声は揃わず、ちょっと遅れて出した声の主は………万葉だ。

「放浪者殿?」

「なんだい、今僕は君と話す時間すら惜しいんだ。」

怒りのせいで八つ当たりをしてしまう。

「………やはり、何か思い詰めているであろう。拙者と少し、話をせぬか。」

無視して進もうとする僕を引き止める万葉は、この前のお礼とでもいうように話を聞いてくれた。


「大切な人に嫌いと言われたら………君はどうする?」

「…ふ、はは…なんだ、そういうことでござったか」

「笑わないでくれるかい。僕にとってはたった一人の友人なんだ。」

すまないすまないと話を聞く万葉は恋の悩みだとすると嬉しそうに答えてくれる。万葉って恋バナとか好きだったのか………いらない知識を身につけてしまったかもしれない。それとも僕が恋に疎いとでも思ってた?意外だったから思わず笑ってしまったとでも?急に怒りが湧いてきたかもしれない。

「なに、そこまで悩む必要はない。その…大切な人もどう伝えれば良いのかわからず戸惑っているのであろう。」

「お主がちゃんと気持ちを伝える、それだけで十分でござるよ。」

笑っていても真剣に考えてくれる。いつの間にか湧いてた怒りも鎮まって、今ならできる気がする、そう思っていた。

きっと万葉は人を観察するのが得意なんだろう。

もう大丈夫だ。と立ち上がったら万葉が一言、

「拙者は応援している。明日、ちゃんと話し合うのでござるよ。そしたらきっと明日の夕焼けはいつもより輝いているであろう。」

とこの前のお礼とでも言うように伝えてくれた。僕は、少しめんどくさくて…良い友人を持ったのかもしれない。

今日の帰り道は、いつもより寂しく感じなかった。






………………………………






いつも一緒に登校していた空は今日も姿がない。

違う部分と言えば、なぜか高鳴っている心臓とこの緊張だろう。

学校に着いてからも、僕に話しかける人は誰もいなかった。過ぎていく時間が遅く感じる。

授業中も

休み時間も

昼食も

全部が寂しく感じて、友人と話す空をひたすらに見る時間だった。

結局、話しかける時間が無くて気がつけば5限目。

もうすぐで帰れる、みんながそう感じている中僕は焦っていた。どうしよう。空と話せない。

かと言って授業中に話すのは気が引ける。流石に人に見られるのは僕も空も気分が良くない。

となれば………………




チャイムが鳴り、空が帰りの支度を始める。

「…っ、空。」

出た声はあまりにも見苦しいほど情けないが、空にちゃんと届いた。

一瞬目を見開いて、僕のことを見据える。その瞳はまるで太陽で、輝いている。

「空き教室で、話したい事がある。」

断られたらどうしよう。もう二度と、一緒に帰れないのか。その不安を断ち切ってしまう、ずっと聞きたかった台詞が空の口から出る。

「…良いよ。俺も、話したい事があったんだ。」

これはまだ第一歩に過ぎない。本番は…ここからなんだ。







………………………………









「…空。ごめん。」

覚悟した後に出た言葉は、あまりにも呆気なかった。

「何かしてしまったかもしれない。ごめん。」

謝ることしかできなくて、自分の無力さが悔しく感じる。俯いた空の口から、告白するように声が溢れた。

「……違うんだよ。放浪者は何も悪くない。元々は俺が悪いんだ………」

初めて聞く声。か細くて、小さくて。泣きそうで。震えている。ああ、こんなになるまで苦しんでいたのか。そう思ったら、僕の心臓まで締め付けられる気がした。


「俺、見ちゃったんだ。放浪者がチョコレートを貰ってるところを。そしたら俺、放浪者とどう向き合えばいいのかわかんなくて…俺との用事を捨てるほど、放浪者に仲の良い友達がいるって知らなかった。そんなこと知らずにずっと毎日帰るのを誘ってた自分が恥ずかしい、って。」


…あ。

覚えがある。万葉を手伝って、その後にチョコをもらった時の事だ。

「自分勝手だよね、こんなの…。幻滅したでしょ。いいんだよ、無理に付き合わなくても………」

自信に満ち溢れてた空が縮こまっていて、知らない感情が溢れ出てくる。

「僕は君以上に仲の良い奴なんていないよ。」

そう断言できる。万葉は…つい最近出会った友達だ。最も付き合いが長くて大事にしてたのは、最初から…

「君に、初めて出会った時から。僕の心は全部空のものなんだ。」

恥ずかしいなんて感情は忘れて。思うがままに感情を吐き出す。

空も、ずっと堪えていたであろう涙がボロボロ流れてなんて言ってるのかも分からなくなるくらいだ。

「放浪者…っ、ごめん、ごめん………傷つけてごめん…、。大好きだからっ、嫌いにならないで」

「…うん、ならない。ならないよ。大丈夫。」

空き教室で思う存分泣いて、2人して落ち着いた頃には夕方になっていた。

「放浪者、今日一緒に帰ろう」

「…勿論」

外から、草笛の音と眩い光が差していた。
























「放浪者殿、今日の顔は明るいでござるな。」

「は?あの時の草笛は君だろ。白々しい。どうせ最後まで聞いてたんだろう?」

「…はて、なんのことでござろうな。」

この作品はいかがでしたか?

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コメント

1

ユーザー

今回も最高です!!! 放浪者と空君仲直り出来て良かったです!

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