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#僕のヒーローアカデミア夢小説
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――ザインの足は、動かなかった。
自分の目の前で、ひとりの人間が黒い靄に飲み込まれて……そして、消えてしまったのだ。
人間の死というものは今までも見てきたが、それとはまるで異質のもの……。
あの槍に触れてしまえば、自分もああなってしまう――
……明らかな生命の危険を前に、嫌でも足がすくんでしまう。
傍らにいた警備の騎士も、へたりと地面に座り込んでしまった。
――だが、アリアだけは違った。
大司教の身体を飛び越えて、背面にまわり、低いまわし蹴りで地面に倒す。
手際よく帽子から何かの紙を取り出し、そしてそれを破る――
アリアと大司教は空間の歪みと共に、そのまま姿を消した。
「……今のは、転移スクロール?」
それは以前、アリアとザインがダンジョンで手に入れていたもの。
最終的にアリアが買い取っていたが、それをこの場で使うとは――
「もしかして、俺の命が危険にならないように……?」
ザインは呆然としてしまったが、自身の頬を両手で叩き、気合を入れ直した。
……アリアはいつも、想定外のことをする。
少なからず、今回も何かしらの考えに沿っているのだろう。
しかし、転移スクロールは消耗品だ。
どこか目的の場所に飛んだら、もうそれっきりだ。
……目を閉じてみれば――
最後の一瞬……アリアが自分を見た気がする。
もう会えない……とは思えなかったが、アリアのいない今、自分はできることをやるしかない。
そう思ったザインは、オリバーのもとへ報告に走った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――うおおおぉッ!!?」
勢いを付けて、大司教は放り出された。
何とか姿勢を立て直して正面を見ると、既にアリアが平然と立っている。
それを見て、大司教は一瞬で冷静さを取り戻した。
「ここは……どこだ?
転移スクロールを使って……、どこに移動したのだ?」
転移スクロールというのは、自身が行ったことのある場所に、一瞬で移動できるアイテムだ。
魔力が封じられていても使えるため、いざというときに重宝される。
……しかし産出量が少ないため、とにかく高価だ。
「……何か寒いな。
いや、何だ? この感覚は……」
空気の肌触りが、いつもと明らかに違う。
青空の下、朽ちた石畳が広がっており、朽ちた建物が建っており、たくさんの植物が辺りを覆っている。
かつて何かがあった場所。今は何も無い場所――……そんな印象だ。
「他の人には見られたくなかったので。
誰も来ない、ここに連れてこさせてもらいましたよ」
アリアは杖を構えて、大司教と対峙する。
大司教は右手を掲げて、そして魔法陣を――……作ろうとしたが、作れなかった。
「こ、これは……。もしや、魔力が無いのか!?」
「正解です、ここは魔力の無い場所。
でも安心してください、異能は使えますから」
「……ほう? 私の異能を気に入ったのかね?」
「ええ、それはもう。惚れ惚れするくらいに」
アリアの言葉に、大司教は口元を緩ませた。
今は少しでも、生きる可能性を掴まなければいけない。
「ならば、私の下に付け!
素直に従うなら、私の大切なコマとして扱ってやろう!!」
「……生憎と、それは勘弁しますね」
「ふん、貴様はオリバーに拾われたからな……。
しかもオルビス神から直々に、職位まで授かるとは――」
大司教は体術にも自信があった。
アリアを黙らせるために攻撃を仕掛けるが、しかしあっさりとアリアに止められる。
「こんな1文字が、そんなに大切ですか?
大司教殿だって、ちゃんと持っているじゃないですか」
「貴様の――特異性が気に入らんのだよッ!!」
大司教は大振りで拳を振ってくる。
アリアはそれを軽くいなし、最低限の動きでカウンターを返す。
「――ぐぉッ!?」
「くだらない、ですね。そんなの、ただの拗ねた子供じゃないですか」
「くそ……! 人を、馬鹿にしおって……ッ!!」
大司教は距離を空けて、右手に黒い靄を生み出した。
地下の礼拝堂で見せたものよりも大きく、禍々しさも数段アップしている。
「……ふむ。
触れたものを確実に絶命させる……そこまでは、あたしも知っています」
「異端諮問局には、これが伝わっていたのか……? まったく、秘密の多い部署だ」
「そういう大司教殿も、今までずっと隠していたんですよね?
そんなこと、どこの資料にも書いてませんでしたので」
「ははは! これを見た者は、全員が死んだからなッ!!」
大司教はアリアの方へ、黒の槍を投げ放った。
アリアは大きくかわして、大司教の横に回り込む。
確かに強力な異能ではあるが、当たらなければどうということも無いのだ。
「――大体、イメージ通りですね。
良さも悪さも……把握しました」
アリアは宙に跳ねて、大司教を地面に蹴り飛ばした。
やはり体術は圧倒的にアリアが強い。
そしてここは、魔法の使えない場所。
大司教の勝機は、『絶命の槍』でしか見出せなかったが――
――ゴキッ
アリアによって、大司教の右肘が砕かれた。
「ぐ、ぐあああああっ!!!?」
「……逆に、大司教殿に質問です。あたしの下に付くつもりは、ありますか?」
「つ、付くわけが無いだろうッ! 私は……教団のナンバー2なのだぞッ!?」
「そうしないと……死ぬとしても?」
「私にだって、矜持があるッ!!
――だが……私がいつ、負けると言ったかね!?」
大司教はそれでも立ち上がって、今度は左手に、黒い靄を生み出した。
しかしアリアは気にもせず、大司教の真正面から飛び込んだ。
胸の中心に肘を打ち込み、それを払い上げて顎を打つ。
そして左手で胸倉を掴み、右の手のひらに……5本の指に力を入れて、大司教の頭を掴む――
「――ならば力で奪い去ろう。
簒奪たる我が手、虚無たる三指に跪け。
降れよ力、『絶命の槍』は我らと共に在り――」
「う――うがあああああぁァアアッ!!!!!?」
アリアの詠唱は、大司教の全身を震わせた。
どこが……という問いが、無意味に感じるほど――
……身体の隅から隅まで、頭の隅から隅まで、魂の隅から隅まで。
彼の知る魔力ではない何かが、身体の中を迸っていく。
永遠とも思える時間を苦しみ、闇が訪れ、そしてようやく、視界が開けていく――
……いつの間にか地面に放り出された大司教は、汗を大量にかいていた。
身体には酷い痛みが残っていたが、それでも……空虚なものを感じながら、ようやく上半身を起こした。
かろうじて動く左手に、どうにか意識を集中してみる。
今まで当然のように使えていた『絶命の槍』は――
……どんなものだったかすら、思い出すことが出来なかった。
「――生き残りましたか。強いですね」
アリアは大司教を、上から一瞥した。
「貴様……、私に何をした?
……もしかして――」
大司教は言葉を止めて、ゴクリと唾を呑んだ。
嫌な予感が……してならない。
「――貴様は、『簒奪の五指』を……持っているのか?」
ある日、オルビス神のお告げで警告された、異質たる異能。
それを持つ者を、異端諮問局は部隊を派遣して調査していたが……結局、見つからなかった。
……その代わりに、異端諮問局が見つけたという……『対象化拒否』の異能を持った、少女がいた。
「……貴様が、もともと『簒奪の五指』を持っていた……?
そして、異端諮問局と会う直前に……『対象化拒否』を、誰かから奪ったのだな!?」
「ふふっ、察しが良いですねぇ。まぁ、理由は内緒です」
「戦いに有利だから……では、ないのか?」
「あたしは、そんなレベルでは動いていないんですよぉ。
――さて、あたしの秘密を聞いちゃいましたね?
大司教殿ったら、本当に聞き上手なんですから」
アリアが目前に迫る。
大司教は攻撃する術を持たず、さらに全身が悲鳴を上げている。
「……私を、殺すのか?」
大司教の言葉に、アリアは天を仰いで考えた。
「あたしが殺さなければ、どうなるのかは……知っているでしょう?」
「……ははは。
そうだな、私は……教団のことには、詳しいからな……」
アリアによって奪われ、絶望を突き付けられた大司教は――
憑き物が落ちたような、そんな表情を浮かべた。
……だからといって、信徒の命を奪ったことは、当然許されるものではない。
大司教は胸元から、小さなナイフを取り出した。
それを持つ左手は震えて、どうしてもぎこちなく見える。
「――最後に聞かせてくれ」
「はい、答えられることであれば」
「ここは……一体、どこなのだ?」
その質問に、アリアは静かに笑った。
「ここは――……あたしの、故郷ですよ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――夜。
大聖堂のいつもの場所、とある建物の屋根の上に、ザインはひとり座っていた。
今までは隣に、当然のようにいつもアリアがいた。
それが突然……自分の目の前で、消えてしまった。
「どこに行ったんだろうなぁ……」
強い異能が相手だったとしても、アリアが負けるイメージは湧いてこない。
だから、生きてはいるだろうが……また会えるのか。どうすれば会えるのか。
「……はぁ」
「どうしたの? 深い溜息なんてついちゃって」
突然の声に、ザインは慌てて振り向いた。
そこにいた少女は笑いながら、彼の横に座る。
「あ、あれぇ……?
お前、転移スクロールでどこかに行ったんじゃなかったの?
もしかして、近場だった?」
「ううん? ずっと、ずーっと遠くの場所だよ」
「よく戻ってこれたなぁ!?」
「まぁ、転移スクロールは2枚持ってたからねぇ」
何とも無いように言うアリア。
そういえば転移スクロールを買い取るとき、前回オークションの落札価格がすっと出ていたっけ……。
……もしかして、そのときのオークションでも落札していたのか……。
「はぁ……。とりあえず、無事でいてくれて良かったよ。
……それで、大司教は?」
「自害しちゃった」
「……そうか」
遺体は一緒に持ち帰り、オリバーに申し送りをしたこと。
この件に関して主教が聞きつけ、オリバーに多くの問い合わせを投げていること。
……そんな話を聞きながら、ザインは今この瞬間、この場にいられることに感謝をしていた。
ザインは静かに、アリアの顔を見た。
空を見上げて喋るアリアだったが、視線に気付き、ザインの顔に目を移す。
「……なぁに?」
「いや……。
――うん、おかえり」
「あはは、ただいま♪」
アリアとザインは笑い合った。
何でもない会話は、屋根の上で、いつも通りに続いていった。