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#僕のヒーローアカデミア夢小説
オルビス教団の主教であるデニス・A・グラントは、多くの証拠をもとに、異端諮問局から召喚を受けた。
しかし、主教はこれを拒否。
自身の権限を最大限に使い、あくまでも対立の姿勢を鮮明にした――
「……と。まぁ、こうなるよなぁ……」
「そうですね」
オリバーの嘆きに、アリアは短く返事をした。
調査を進めていたところ、主教が絡んでいた……どころの話ではない。
主教こそが黒幕だったのだ。
大司教はバイロンを使って『永遠の命』の実験をしていたが、それを主導していたのが主教だった。
異端諮問局の中にも主教の息の掛かった者がおり、オリバーの耳に入る情報が一部操作されていた――
……そんな話も出てきてしまい、話はどんどん、大きくなっている。
「詳しい内容はまだだが……主教殿が問題を起こしたことは、既に広まりつつある。
これに対して、何か意見はあるかね?」
「まずは問題を解決しましょう。主教殿に、罰の執行を」
「……そのあとは?」
「オリバー様が、何とかしてください」
「……まぁ、そうなるよなぁ」
オリバーは執務室の天井を見ながら、考えを巡らせる。
「ちなみに主教殿の対応が終わったら、アリアはどうする?」
「あたしは、外回りに戻ります」
「……まぁ、そうするよなぁ」
オリバーは頭をがしがしと掻いてから、いろいろな可能性を模索する。
……結局は責任は自分。異端諮問局の責任者なのだから、それは仕方が無い。
……自分は強権を持っているとはいえ、実際には主教の権力の方がずっと強い。
ならば直接、やはり叩くしかないか――
「――数々の証拠、並びに召喚拒否。
これより我らは、主教殿に対して強制捜査を実行する。
アリアは自身の権限の元、適切に行動……もしくは、他の執行官の補佐にまわること」
「はい、かしこまりました」
オリバーの命令を受けたあと、アリアとザインは執務室を後にした。
廊下を歩いていると――多くの神職者とすれ違った。彼らは、オリバーの執務室に入っていった。
……あれが、異端諮問局の執行官。ザインはそう認識した。
しかしアリアは、彼らの方を見すらもしなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
執行官たちが主教の部屋に進もうとするも、警備の騎士と対峙することになった。
当然ながら主教の命令があったためで、現場も大きな混乱を見せている。
「……手が、足りないねぇ」
大きな組織の中の小さな1部署が、組織のトップを捕らえようとしている。
なかなかお目に掛かれないような状況……。何をするにも、疑念や戸惑いが生まれてしまう……。
「それに、心配だよな。メルヴィナが――」
……聞いた話によれば、メルヴィナは主教と一緒にいるらしい。
それもこれも、アリアとの繋がりを疑われて……の話である。
「あたしのせいで、怪我をさせるわけにはいかないもんね」
「……そうだな」
「ねぇ? あたしにひとつ、作戦があるんだけど。
主教殿と直接会うには、どうしたら良いと思う?」
「んー……? 少人数でお前と会ったら、一方的にやられるからなぁ……。
他の代理人を立てるか、あるいは武力を行使しない旨の誓約をする……とか、じゃないか?」
「それならやっぱり、誓約……かなぁ」
ここでいう誓約とは、一種の魔法的な契約である。
特別な契約を交わすことで……法的な根拠ではない、魔法的な根拠によって、お互いの行動を制限するのだ。
「そこまでして、お前は何をするつもりなんだ……?
危険なことなら、俺は――……できたら、できるだけ反対するぞ?」
「あはは、大丈夫。あたしはメルちゃんを助けて、無事に帰ってくるだけだよ」
「……何の答えにもなってないが……。まぁ、信じるよ」
主教としても、今のままでは何も解決しない。
そのため、自分に有利に交渉ができるのであれば……誓約の話も、一方的には断らないだろう。
アリアはオリバーに打診して、その準備を進めることにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アリアは誓約の魔法書にサインを行い、その後、信徒を何人も経由して、主教のサインが行われた。
これにより、アリアは主教に武力を行使できず、主教もアリアに武力を行使できなくなった。
……また、主教はメルヴィナを連れてくることになり、アリアは他の誰かを連れていけるようになった。
そして、アリアが選んだ人間というのは――
教理監査局の、ミラだった。
――広い講堂。
今は入ること自体が制限されており、この場には4人しかいなかった。
アリアとミラ、主教とメルヴィナ――……それ以外の人々は、講堂の外で睨み合いを続けている。
「お久し振りです、主教殿。
こんな再会になるとは、思いも寄りませんでしたが」
「まったく、それはこちらの台詞だ。
たかが『S』の分際で、ここまで事を大きくするとは……」
主教は最初から苛立ちを隠さなかった。
取り引きの場としては愚の骨頂……とは思うものの、それ以上に、アリアを威圧する空気が凄まじい。
「さすが、オルビス教団を登りつめた方……ですね。
メルちゃんも、元気で何より~♪」
アリアはメルヴィナに軽くウィンクをした。
しかしメルヴィナは細かく震えており、何の反応も返すことができない。
……アリアは冷静に、現状を確認した。
主教の足元には魔法陣が描かれており、周囲を薄っすらとした障壁……攻撃を無効にするバリアで囲っている。
武力を行使しないと誓約したにも関わらず、やはり、念には念を入れている。
ちなみにそれは、アリアの体術では破れる類のものではなかった。
「それで? お前はまだ分かるが――
もうひとりの、真偽鑑定官だったか? そやつが何故ここに?」
「はわわ……」
ミラは完全に、主教の威圧に屈していた。
人に手を差し伸べるべき組織のトップが、こんなにも身内に厳しく当たるとは……。
アリアはどこか、悲しい気持ちになってしまった。
「主教殿。あたしから、取り引きの提案があります。
その正当性を示すために、ミラさんと一緒に来ました」
ミラはアリアをちらっと見上げた。
いつもは『ちゃん』付けなのに、今は『さん』付け……。
この場においては当然なのだが、どうしても緊張に拍車が掛かってしまう。
……昔の自分なら、その緊張に負けていただろう。しかし今なら……ミラは両手を、ぐっと握りしめた。
「――取り引き、だと? 私の命を、助けてくれるのかね」
「ええ。主教殿は……渇望しているのでしょう? 永遠の命を」
アリアの言葉に、主教の表情が強張った。
地下の礼拝堂で行っていたのは、自発的な異能の付与。
目指したものは、『永遠の命』という異能。
……『異能の天球儀』を欲していたのは、これも同じ目的なのだ。
「ふふっ。ありていに言えば、その通りだ。
私はオルビス神のために、この教団を率い続けるのだ。
オルビス神の完全なる円環を、私がこの不完全な世界に創り上げてやるのだ――」
主教は天を仰いでから、アリアに視線を移した。
「――だが、そのためには……今世などという短い時間では、到底足りぬのだよ。
それで? お前が私に、永遠の命をくれるとでも言うのかね!?」
「はい。あたしには、それができます」
「ッ!?」
アリアの言葉に、主教は絶句した。
いくら異能に詳しい異端諮問局といえども、そんな話は聞いたことがなかった。
「ミラさん。真偽鑑定をお願い」
「は、はい……っ」
「アストリア・S・ノクスは――異能の付与について、嘘偽りなく回答します」
「それでは……。
あなたは自らの手で、他者に異能を与えることができますか……?」
ミラは手のひらを広げて、アリアの額にかざした。
やわらかな光が包み、それはすぐに収まっていく。
「……答えは、『はい』でした」
ミラは手を引っ込めながら、恐る恐る主教を見上げた。
主教は――驚きと喜びの表情を浮かべている。
この場にあって、そんな顔を……。ミラは一気に、恐ろしくなってしまった。
「本当か?
本当にそうなら……お前は私に、何を望む?」
「メルヴィナ・N・ローネルの、安全だけ。それを対価に、あなたに異能を与えましょう」
「……足りんな。
異端諮問局として、私への疑惑も取り下げてもらおう」
「あたしには、その決定権がありません。
代わりに……主教殿の命令があれば、そのように動くことを誓いましょう」
アリアは静かに、主教に告げた。
主教は思いも寄らない提案に、心の中でほくそ笑んだ。
「ふふっ。まぁ、その辺りが落としどころか。
お前のような逸材が、私の命令を聞くと言うのも……なかなか興味深いところだ」
「あ……アリア、さんッ! 私は、大丈夫……だから――」
「強気なのは健気だけど、メルちゃんは無理しないで。ね?」
アリアはゆっくりと、主教の方に歩いていく。
それを見た主教も、自身のまわりに張られたバリアを、静かに解除する。
――その瞬間。
アリアは突然走り出して、主教の元に猛進した。
主教は慌ててバリアを張り直そうとするが、それは失敗に終わる。
「――なァ!?
私を攻撃するのかね!? そんなのは誓約により――」
「攻撃はしない。あたしがするのは、ただの祝福よ」
突然の白い閃光。主教の目には、闇が訪れた。
そしてそのまま、主教は何も見えないまま、冷たい声だけが聞こえてくる。
「――異端諮問局、特務裁定官。
アストリア・S・ノクスの名において、私がお前に終わりを告げる」
「お、終わりだと!? 何を言っている!?
私が望むのは、永遠の命だけ――」
主教の額に、アリアの指が強く押し込まれる。
そして聞こえる、荘厳な詠唱。
「――ならば天命を与えよう。
神は汝に介入し、強いたる未知を開くべし。
爆ぜて乱れよ、魂と共に――」
主教の額に、強烈な衝撃が叩き込まれる。
額から頭に、頭から心臓に、心臓から全身に――
……制御できないほどの力。しかし、今までとは比較すらできない生命力。
どうにか目が見えてきた頃、跪いた自分の前には、堂々と立ちはだかる少女の姿があった。
黒いローブに黒い帽子、黒い靴。金色と赤色の刺繡や装飾が沈むように施されたデザイン――
……見た目は変わったが、アリア本人で間違いない。
それと共に感じたのは、自身の奥底から漲ってくる力。
何者にも手を出せない……圧倒的な生命力が、今、この身体の中に――
呼吸をどうにか落ち着けた主教は、ゆらりと立ち上がって、アリアの正面に立つ。
「――ふふっ、それが特務裁定官の姿……だとでもいうのかね?
しかし、ありがとうよ。まさか私を裁定する者が、私に永遠の命を与えるなど――」
自らの望みを叶えた主教は、アリアとの距離を詰めていく。
自分はこれから、永遠の時間を教団に捧げていく。永遠の時間を神と歩んでいく。
そして、いずれは神に至る――
「――……グワァ?」
……突然、主教の目の前が割れた。
視覚的なものだろうか。いや、何か……自分が真っ二つに切り分けられたような。
足が震え始める。立っていられなくなる。地面に吸い込まれていく――
「……おめでとう。
主教殿が手に入れたのは、確かに『永遠の命』よ」
「――グヲェ?」
「理解はできる? もう、無理かしら?
……永遠の命を得るために、お前の身体は無尽蔵の分裂を繰り返していく。
それと同じく、魂も……永遠の分裂を繰り返していくでしょう」
「ゴエォ……?」
アリアは主教の前にしゃがんで、彼の頭を優しく撫でた。
……『永遠の命』という異能は、本来であれば、人間の姿を永遠に保つ力がある。
しかし今回、アリアは異能の『発芽』ではなく、さらなる次の扉――異能の『開花』までを、強引に行った。
強い異能の上に、さらに積まれる開花の力。
強引な開花が生み出す、制御できないほどの反動。
それらの組み合わせにより――
……主教は徐々に、魂の形が保てなくなる。
……身体が徐々に、全ての力が入らなくなる。
「アァ……ギアゥ……?」
メルヴィナも、ミラも、立ち上がれなくなった主教から目を逸らした。
しかしアリアだけは、主教の姿から目を離さない。
「――死という選択肢は、持っておいたほうがいい」
アリアは主教に向かって、静かに言った。
「無限に千切れていくお前は、永遠を生き延びることができるでしょう。
……でも、限界まで薄まりきった意識で、何を成せるのかしら?」
アリアは彼女の帽子……収納の魔導具から、不思議な質感の金属の板を取り出した。
主教だったもの――目の前の存在を金属の板で囲んでから、彼女は杖を、強く打ち付けた。
一瞬の輝きのあと、そこにはひとつの、大きな金属塊が作り出される。
――封印。
魔法の力でも不思議な力でもなく、ただ単純な、物理的な封印が施された。
メルヴィナとミラは、それを横目で見届けた。
足に力は入らず、いつの間にか、ふたりは地面にへたり込んでいる。
……アリアはそんな彼女たちに視線を送ってから、足元の金属塊を見下ろした。
「私はお前に滅びを与えることが出来るけど――
……そのぐちゃぐちゃになった身体で、次の滅びを待ってなさい」
コン、という、靴が何かを踏む音が、広い講堂に小さく響いた。