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【注意】
・こちらの作品は二次創作となっています。御本家様とは関係ございませんので迷惑のかかる行為はおやめ下さい。
・映画を見た方がご覧になることをお勧めします。こちらの作品はネタバレも含まれますので未視聴の方は控えて早く見に行ってください。絶対ですよ?
・もうなんでも良いよ来いやゴルァ!!という男前な方はどうぞお楽しみください。
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「最近、耳鳴りが酷い。酷い時は頭痛もしてたまったもんじゃないよ。」
「疲れてるんじゃないか?昨日も夜、鬼太郎をあやしてくれてたろ。」
「なんだ起きてたのか。そも、別に鬼太郎をあやすのは良いんだ。だけどこの耳鳴りは不愉快でどうにかしたい。」
鬼太郎を水木と育てると決めてからもう3ヶ月が経とうとしていた。
鬼太郎はどうやら他の赤子よりも丈夫で、何より成長がとても早かった。
しかも話を聞くに、鬼太郎は生まれて間もなくはいはいをしていたと言うではないか。
他の赤子と比べてしまったら鬼太郎は不気味な赤子だろう。
ギョロりとした目に土色の肌、少し色素の薄い髪。近所では良い顔をされない。
時折自分も、育てると決めた子なのに本能が拒絶するように悪寒が走る事がある。
その度に自己嫌悪が強くなり死にたくなるものだ。
この子はきっと、人間の子ではないのだろう。
そう思い水木に聞いてみたところ予想は当たっていて、この子は幽霊族最後の生き残りと言うではないか。
気持ち悪いや怖いなどそんな感情は出てこずそれよりも先に、やはり鬼太郎は愛に溢れた子なのだと、そう思った。
それを知ってからはより一層、水木と育児を頑張った。
「初夏?おい、初夏!初夏!!」
「へっ!?な、なんだよ急に大声だして。」
「お前がいくら呼んでも反応しないからだろ。本当に大丈夫か?」
「お前に心配されずとも大丈夫さ。それよりも、時間は大丈夫なのか?」
「うぉ、やべ!俺は先に出るから鍵かけて行けよ。」
「あい、承知した。」
慌ただしく家を出る水木を私と鬼太郎で見送って、自分も準備を始める。
「鬼太郎が小学校に入る時は、うちが担任したいなぁ。だけど流石に嫌か?家でも学校でも同じ顔を見るのは。のう、鬼太郎?」
まだ何も分からない鬼太郎は不思議そうに瞬きをして、その仕草に愛おしさが生まれる。
やはり人間の子だろうが人外の子だろうがこの子は可愛い。
それだけは変わらない事実なのだ。
良い子に待ってるんだぞ、とその柔らかい髪をひと撫でりしてから自分も職場へ向かう。
耳鳴りと共に、どこか遠くて名前を呼ばれた気がした。
「は、早く帰らないと……!」
時はすぎて今は夜の20時。
学校に肝試し目的で忍び込もうとした子達を叱ってから送り届けた為、遅くなってしまった。
嗚呼、鬼太郎は大丈夫だろうか。
家には水木のお母様がいらっしゃるから大丈夫だと信じたいが、やはりこの目で確認するまでは安心出来なかった。
心配なのもあるが、それよりも癒されたいという気持ちがあったのも事実だ。
せかせかと足を動かし急いで家へと向かう。
だが突如、耳が詰まる感覚と共に頭に響く音がこだまし痛みが襲ってきた。
「う”っ、」
嗚呼、またかとどこか冷静な頭で他人事のように思う。
今日の耳鳴りは一段と酷く、頭痛もして思わず足を止め蹲ってしまった。
早く帰らないといけないのに。
耳鳴りは周りの音を遮断しノイズをかける。
その歪な音の中でまた、声がするのだ。
『一本、くれぬか。』
『やなこった。』
あまりの頭痛に落ち着かせようと目を閉じれば、広がるのは自分の知らないはずの記憶だ。
誰だ、誰なのだ。あの者は一体、誰なのだ。自分は何を忘れているのだ。
『東京の勉強はすごいんだね!いつか僕も初夏さんに教えてもらいたいなぁ。』
『いつでもおいでよ、紗夜さんと一緒に。そしたらその時はみんなでメロンソーダを飲もう。』
『約束だよ!?絶対、絶対だからね!』
『おうとも。』
忘れてはならないのだ。罪を忘れようなど許されぬことなのだ。
それがどんなに辛いことであれ、それがあいつが望んだことであれ、忘れてはならぬのだ。
また、胸に空いた穴に風が吹き抜け酷く痛む。
あまりの痛さに涙が零れそうになる。
どうしてだ、どうして思い出せぬのだ。
自分は知っているはずなのに。
「ごめん、ごめん……!」
思い出せない情けなさと申し訳なさに謝ることしか出来なかった。
もしこの頭痛と耳鳴りが続いてくれていたならば思い出せたのかもしれない。
だが残念なことにそのどちらも止んでしまって、のそりと力無く起き上がった。
とにかく今は、疲れてしまった。早く帰らなければ。
溢れそうになる涙をなんとか我慢して再び歩を進める。
「お邪魔しまーす……」
「お、おかえり初夏。別にお邪魔しますじゃなくってただいまでも良いと言ってるだろ。」
「でも、うちの家じゃないし。」
「よそよそしいって言ってるんだ。家じゃないとか言いながらお前、家の鍵持ってるだろ。ならただいまって言え。」
「変なところで頑固だな。まぁいいよ。あい、承知した。」
本当はこんなことを言ってるがただいまと言っていいのがとても嬉しく、それが顔に出ないように表情筋に力を入れる。
そしたら水木がなに変な顔してんだ…?と言ってきたので少しムカついた。
「ただいま、鬼太郎。良い子にしてたかい?」
起こさないように小さく、そっと囁くように言ったつもりだったのだが。
私が近づいた途端、鬼太郎は起きてしまいその瞳に私を写した。
その目は何か言いたげである。
「…なぁ、お前。勘違いだったらいいんだが……何かしたか?」
「何かしたかって……えらく変な質問だね?そんな外道に走るような事をした覚えはないぞ。」
「いや、そういうんじゃないんだ。例えば、なんだろな。神社を荒らしたとか狸を助けたとか……」
「はぁ??お前何を言ってんだ??何かしたかって、祟りとかの方かよ。え、もしかして背後に何か居る……?」
「背後にいたりとかはないが……なんだろうな、お前に近づくと薄ら寒いと言うか、嫌に冷や汗が出るというか……とにかくよくない感じがする。」
「お生憎様だけど、こんなうちでも神様や妖怪などは信じてるんだよ。アレらを怒らせるような真似をした覚えはない。」
「ならいいんだが……」
その質問にもしかして……と思い嫌な予感がするが、構わず鬼太郎へ目をやると鬼太郎は私の手をその小さな手で握っており何かしようとしていた。
「どうしたんだい?抱っこかな。」
よいしょ、とかけ声をしてから鬼太郎を抱っこしてやる。
すると鬼太郎は、私の顔を見るなりその愛らしい顔に皺を刻ませて拒絶するような顔をして見せた。
すごく、ものすごく嫌そうな顔だ。
ピシッ、と石のように体が硬直する。
私は、いま、鬼太郎に、拒絶された……?
「み、水木ぃ!私ゃもうダメかもしれん!!」
「なんだなんだ!?お前やっぱり疲れてるな!?」
「うぇぇ、鬼太郎に拒絶された……もう私ゃだめだぁ!」
「落ち着けほら!鬼太郎が泣いちまう!!」
泣きこそしないがかなりのショックを受け涙目になる。
その間も鬼太郎は私をまじまじと見ては嫌そうな顔をしていて、また胸が抉られる思いをする。
今日は最悪な日だ。
帰りは遅くなるし耳鳴りと頭痛は止まぬし鬼太郎には拒絶される。
何故だ、今日は嫌な先輩の酒の誘いも断って頑張って働いたというのに。
およよ、と少し大袈裟に落ち込んでいると鬼太郎が小さな手で私の頬に触れた。そしてじっと見つめられ、はて何かと首を傾げる。
その瞬間。
鬼太郎がまるで空をかける雷のように光り、驚く暇もなく鬼太郎を抱いていた手から体へ電流が走った。
まるで雷に撃たれたように。
「初夏!?おい、大丈夫か!?」
「ッ〜!そ、れよりも……!鬼太郎は、無事ッ!?」
「鬼太郎は無事だ!なんだ今のは!?」
痺れて動けない私の代わりに水木が鬼太郎の無事を確認してくれる。
だが鬼太郎はどこも怪我はなく可笑しいところもなく、良かったと安堵の息が零れた。
「痛ってぇ〜!うち本当に鬼太郎に嫌われたのかぁ?電気に当てられるなんて相当だよ……」
「今のは鬼太郎の妖術なのか?お前、さっき言った嫌な感じが消えてるぞ。もしかしたら今ので追い払ってくれたんじゃないか?」
「そうなのかい、鬼太郎?確かにもう嫌な顔されてないけど……」
なるほど、鬼太郎はどうやら自分で電気を作れるらしい。それもかなりの威力。
いてて、と声を出しながら水木に起こしてもらうばまだ体はヒリヒリと痛く眉間に皺を寄せてしまった。
鬼太郎は私に何かついていたから追い払おうと電気を流したのか。
それなら先程の嫌そうな顔にも納得がいく。逆にそうではなかったらいやだ。
「めっ、目玉!?」
「へ?どうした水木。」
「いま、そこに……目玉がっ!」
「なにを〜?水木、お前こそ疲れてるんじゃないか?」
「いや、そんなはずは……」
「……もしかして、うちについてたのってその目玉の妖怪……?」
「そうかも、しれんな……」
しーん……と部屋が微妙な空気になる。
なんだか、本当に。今日は疲れた。
とにかくと鬼太郎をまた布団に寝かせてやり、私は飯を頂くことにする。
疲れた頭でこれ以上考えても無駄だと思ったのだ。
決して面倒臭いとかではない。
「お前、気をつけろよ。」
「何がだ?」
「今は鬼太郎が追い払ってくれたようだけど、次は分からないぞ。」
「気をつけるも何もなぁ。まぁ、少し用心はしておいてやろう。」
その後私は、水木の言う通りちゃんと気をつければ良かったと後悔することになるのだった。