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第3話「過去の咆哮」
ガソリンスタンドでのバイト中、トオルは給料袋を手にしながら佐藤に相談する。「少しお金が貯まったんで、パーツ買いたいんですけど…どこかいい店知りませんか?」。佐藤は笑いながら「だったら俺の知り合いの店に行ってみな。『オートガレージ・タカハシ』ってとこで、掘り出し物もあるよ」と住所をメモに書いて渡す。トオルは目を輝かせ、「ありがとうございます!」と勢いよく礼を言う。
週末、トオルはバイトで貯めた数万円を握り潰し、教えられた「オートガレージ・タカハシ」へ向かう。店の外観は古びた倉庫のようだが、中に入ると所狭しと並ぶ車のパーツにトオルは興奮を隠せない。ホイール、サスペンション、ターボキット…目を奪われる中、店の奥に埃をかぶったマフラーが無造作に置かれているのに気づく。錆びはあるが形状が独特で、なぜかトオルの心を掴んで離さない。値札がないことに疑問を抱き、店長の高橋に尋ねる。「あのマフラー、いくらですか?」
高橋は少し驚いた顔で「ああ、あれは売り物じゃねえんだ」と答える。トオルが「どうしてですか?」と食い下がると、高橋は懐かしそうに目を細める。「実はな、それ昔預かったもんでさ。持ち主が取りに来なかったから、そのまま置いてあるだけなんだ」。トオルはふと閃き、「昔、緑の180SXを見たんです。あの車に似合いそうなマフラーだなって…」と話し出す。高橋の表情が一変し、「その180SXって、20年前にC1で走ってたやつか?」と聞き返す。トオルが頷くと、高橋は驚くべき事実を明かす。「そのマフラー、あの緑の180SXにつけてたやつだよ。当時のオーナーがここで取り付けたんだ」。
トオルは衝撃を受けつつ、「譲ってもらえませんか!?」と勢いよく頼み込む。高橋は「売るつもりはなかったけど…」と渋るが、トオルの真剣な目と「俺、あの車を超えたいんです!」という熱い言葉に押される。「仕方ねえな。お前がそんなに言うなら持ってけ。タダじゃ悪いから、1万円でいい」と折れる。トオルは喜びを爆発させ、握り潰したお札を差し出してマフラーを手に入れる。
店の外で、トオルは180SXにマフラーを積もうとするが、助手席にギリギリ収まるサイズに苦戦。なんとかシートを倒し、窮屈な姿勢でマフラーを押し込みながら「これがあの180SXの一部だったなんて…」と感慨に浸る。エンジンをかけ、一目散に後藤の自転車屋へ向かう決意を固める。
夕暮れ時、自転車屋に到着したトオルは、汗だくでマフラーを抱えて後藤の前に立つ。「後藤さん! これ、見てください!」と息を切らしながら差し出す。後藤は怪訝な顔でマフラーを見た瞬間、手が震える。「こいつは…ケンジの車の…」と呟く。トオルが「そうです! あの緑の180SXのマフラーなんです! 後藤さんがチューンした車ですよね?」と畳み掛けると、後藤は目を閉じ、過去の記憶が蘇るようだ。「確かに俺が選んだやつだ。あいつの走りに合わせて調整した…」と静かに認める。
トオルは「このマフラーで俺の180SXをチューンしてください! 俺、後藤さんの技術で帝王を目指したいんです!」と再び訴える。後藤はマフラーを手に持ったまま無言で立ち尽くす。過去の親友の死と、トオルの純粋な情熱が交錯し、彼の中で何かが動き出す気配が漂う。「…少し考えさせてくれ」とだけ言い、店内に消える後藤。トオルはマフラーを見つめ、「これが第一歩だ」と呟きながら夜の空を見上げる。遠くで首都高のエンジン音が響き、次のステップへの期待感で幕を閉じる。