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ふんわりとした優しい雰囲気が伝わってきて、読んでいてほっとしました☺️ 夏なのにお鍋食べたくなってきます...🤤
買い物袋を両手に抱えて玄関へ入ると、すちが靴を脱ぎながら声をかける。
「ふぅ……ただいま。みこと、袋こっち貸して」
「うん……ありがと」
みことも「ただいま」と返しながら、すちに重たい袋を任せる。
リビングに食材を運び込み、テーブルの上に並べていく。
肉や野菜、調味料など、ずらりと並ぶとちょっとしたごちそうの準備をしているように見えた。
「ひまちゃんといるまちゃん、もうすぐ来るって言ってたよね」
すちがスマホをちらりと確認する。
「うん。晩ご飯食べるんよね……何作る?」
「今日はみんなでわいわい食べられるやつがいいな。鍋にする?」
「いいね!野菜いっぱい入れられるし」
みことの目が輝く。
「じゃ、俺が肉と野菜切るから……みことは出汁作れる?」
「任せて!俺、だし巻き卵で鍛えてるから」
胸を張って宣言するみことに、すちは笑って頭をぽんと撫でる。
「……うん、頼もしい」
2人は自然とキッチンに並び立ち、作業を分担していった。
包丁を握るすちは慣れた手つきで白菜やネギを切り揃える。
一方、みことは鍋に昆布と鰹節を入れ、真剣な顔でアクを取りながら味を整えている。
「ね、すち。味見してみて?」
みことが木のさじを差し出してくる。
すちは受け取って口に含むと、ほんのり優しい味わいに思わず頬を緩める。
「……美味しい。みことらしい味」
「え、俺らしいって何それ」
首を傾げるみことに、すちはさらりと答えた。
「優しくて、ほっとする味。……俺、これ大好き」
不意打ちのような言葉にみことの耳が赤くなり、思わず視線を逸らす。
「……褒めすぎ。手が止まっちゃうから」
「止まってもいいけど?」
わざとからかうように笑うすち。
みことは苦笑しながらも、胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。
こうして2人で肩を並べて料理する時間が、何よりも幸せに思えた。
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鍋の準備がちょうど整った頃、インターホンが鳴った。
「来た!」とみことが嬉しそうに駆け寄り、玄関を開けると、いるまとひまなつが両手いっぱいに袋を持って立っていた。
「よっ、邪魔すんぞ」
「元気そうで安心した」
「うん、もう全快だよ。わざわざありがとう」
みことがにこっと笑うと、2人も自然に表情を緩めた。
リビングに入ってきた2人は、テーブルいっぱいに並んだ具材や鍋を見て「おお〜!」と声をあげる。
「鍋じゃん」
「ごちそうじゃん、ありがとな」
すちが苦笑しながらタオルで手を拭き、振り返った。
「改めて、みことの看病してくれてありがとう。あの時ほんと助かった」
すると、みことも真面目な顔で頷く。
「うん……俺も。本当にありがとう。俺、寝込んでばっかりだったのに、すごく支えてもらって……」
言葉を選ぶみことに、ひまなつがひょいと袋をテーブルに置いて笑った。
「礼はいらねーっつったのに」
「でもまぁ一緒に食べんのは嬉しいけどな」
すちは「……そう言ってもらえてよかった」と肩の力を抜き、みことも安心したように笑みを浮かべた。
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グツグツと音を立て始めた鍋に、みんなで具材を入れていく。
白菜や肉団子、きのこ、豆腐……テーブルはあっという間に賑やかな色で満たされた。
「ほらみこと、取り分けてやるよ」
「えっ、自分でできるよ」
「病み上がりなんだから大人しく食ってろ」
いるまが強引に器を差し出すと、ひまなつが横から「じゃあ俺も〜」と、みことの器に追加で野菜を入れてしまう。
「ちょ、ちょっと多いってば」
慌てるみことを見て、みんな笑い声を上げる。
「こうしてみんなで囲む鍋、やっぱ楽しいね」
すちがしみじみ言うと、ひまなつが頷きながら口に放り込む。
「うん。しかも、みことが元気になったお祝いも兼ねてる感じだしな〜」
「……ありがとう」
みことは両手で器を抱えたまま、ふわりと笑う。
その笑顔が柔らかくて、すちは隣で胸の奥がじんわり熱くなるのを抑えきれなかった。
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鍋を平らげた後、テーブルの上にはみんなで食べた形跡が残り、部屋いっぱいにいい匂いが漂っていた。
「ふぅ〜……食ったな」
いるまが背もたれに深くもたれかかる。
ひまなつがさっと袋を取り出す。
「俺ら、デザート買ってきたんだ」
袋の中から現れたのは、フルーツやアイス、プリン、そしてシュークリームまで。
「わっ、すごい……!甘いものだらけじゃん」
みことの目がきらきらと輝く。
すちがにこやかに頷く。
「ありがとう。鍋のあとに甘いものって、また格別だね」
みことはシュークリームを手に取るが、クリームがはみ出しそうになり、あたふた。
「どうしよ、こぼれる……!」
「ほら皿に置いて食べなよ」
すちが皿を差し出す。
「ありがと、すち」
「うん。口にクリームつけたら、食べちゃうよ?」
からかうように言いながら、優しい笑みを浮かべるすち。
「なーにイチャついてんの」
ひまなつがにやにやと突っ込み、いるまも苦笑する。
「まあでも、お前らが楽しそうなら何よりだわ」
そのあとも、フルーツを分け合ったりアイスを一口ずつ味見したりと、甘くて賑やかな時間が流れていった。
笑い声に包まれる部屋は、鍋のあとの余韻と甘い香りで満たされていた。
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デザートを食べ終え、湯気の消えた鍋と空いた食器がテーブルに並ぶ。
ひと段落ついた空気のなか、いるまが腕を組みながら口を開く。
「なあ、すち、みこと」
「ん?」と振り向いたふたりに、いるまは真剣そうな目を向ける。
「来月末の土曜さ、らんとこさめも含めて、みんなで集まらねぇか?」
すちは一瞬、考えるように目を細め、それから笑みを浮かべた。
「いいね、最近集まってなかったし賛成」
みこともこくんとうなずく。
「俺も……楽しそうだし、みんなに会いたい」
「決まりだな!」
いるまが満足げに笑い、ひまなつも「来月が楽しみになってきたなぁ」と頬杖をついてにやにや。
温かな余韻の中、次の再会の約束が交わされた。
ひまなつといるまを玄関で見送り、扉を閉めると家の中は一気に静けさを取り戻した。
鍋の香りと笑い声が残るリビングに、すちとみことだけが立っている。
「……にぎやかだったね」
すちがほっと息をつくと、みことも小さく笑った。
「うん。すごく楽しかった」
その表情があまりに柔らかくて、すちは胸がじんと温かくなる。 身体を包み込むようにそっと抱きしめた。
「また楽しい事しようね」
言葉に力を込め、唇を重ねる。
みことは最初驚いたように瞬きをしたが、すぐに目を閉じて受け入れた。
やがて唇が離れると、みことはとろんとした瞳で微笑んだ。
「……幸せだな」
すちはその頬に手を添え、優しく囁く。
「俺もみことが隣にいるだけで幸せだよ 」
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※次回がっつりRあります。