「ありがとうございます、西園寺さん。お話聞いてもらえて、すっきりしました」
「……そうか。なら良かった」
「私、これからも頑張ります!」
「ああ。まあ気負わずに頑張るといい。そろそろ戻るか」
「はい!」
話を聞いてもらえて悩みが吹き飛んだ千鶴の表情は先程までと違ってとても晴れやかで、そんな彼女を前にした蒼央は安心した様子だった。
二人が屋上から戻ると再び四人での話し合いが始まり、ある程度のスケジュールが組み終わる。
「明後日から、結構ハードなスケジュールになるが千鶴、頑張ってくれよ」
「は、はい! 頑張ります」
しかし、ここで一つ問題が起きる。
「あー、社長、私、この日とこの日はどうしても千鶴に付き添うことが出来ません。ここは両方とも雪斗の打ち合わせと送迎が入ってます」
「何? うーむ、それなら雪斗の方を別の奴に任せるか?」
「いや、ここは相手が白金出版なので、私が行く方が打ち合わせもスムーズかと」
「白金か……確かに、それなら倉木が行く方がいいな、話が早い」
倉木はこの春より千鶴のマネージャーではあるものの、当初はまだ千鶴がすぐに売れることはないだろうと何人かのモデルを兼任していた。
しかし予想より早く千鶴がデビューすることになってしまいこれまで担当していたモデルのスケジュールとぶつかってしまう日が出て来てしまったのだ。
「なら仕方がない、その二日は他のマネージャーを千鶴に付けるしかないか……しかし、相手はどちらも大手だ。倉木が行く方が安心なんだがな……」
他のマネージャーを付けてもいいのだが、倉木の行けない日に行われる撮影はどちらも売れているファッション誌のもので、他のモデルの売り込みも兼ねて話を受けたい佐伯は同行させられるマネージャーの中に適任者がいないことを懸念していた。
すると、そんな二人の話に蒼央が割って入ってきた。
「佐伯さん、それならその二日は俺が遊佐の送迎もします。どうせ撮影するのは俺なんで。それに倉木さんが行けない日の撮影は花苑出版と折木出版だ。そこの編集長には多少コネもあるので、他のモデルの売り込みも可能だと思いますから」
「うーむ、確かに西園寺くんなら文句なしに相手にも話が通るだろう。しかし、カメラマンの君にそこまでしてもらう訳にはなぁ……」
「問題ありません。それと、倉木さんの仕事を横取りすることになるようで申し訳ないと思っていたのですが、今後遊佐の撮影時には自分が彼女の送迎も担当したいと思っています」
「なっ……」
「え?」
蒼央のその発言には、倉木や佐伯は勿論、当の本人である千鶴も驚き、声を上げる。
「いや、しかしなぁ……」
「社長! 西園寺さんがいくら優秀でも、マネジメント経験も無いのにマネージャーの仕事を任せるのはどうかと……」
蒼央の言葉を聞いた佐伯は驚き、担当を下ろされるかもしれない倉木が慌てて割って入る。
「うーん……そうだなぁ……」
「確かに、俺にはマネジメント経験はありませんが、マネージャーになるのに資格は必要無いですし、俺はこれまでフリーで活動していたからスケジュール管理は出来ます。それに色々な出版社や会社にも伝手があるので、事務所所属のタレントを売り込むことも可能です。その点も踏まえた上で、どうか考えてはいただけませんか?」
佐伯は少し悩む素振りをしたものの、これ程までに真剣な表情で語る蒼央にならば任せても問題無いと判断し、
「そうだな、それじゃあまずはさっき言った二日、千鶴のマネジメントを西園寺くん、君にお願いしよう。その仕事ぶりを見てから今後のことは考える。やってくれるかね?」
ひとまず先程話に出ていた倉木が付いて行けない二日間の千鶴のマネジメントをやらせてみる事に決めた。
「はい、やらせていただきます」
「倉木、お前は暫く雪斗や他のモデルのマネジメントに力を入れろ。いいな?」
「……分かり、ました」
こうして、千鶴が驚く中、蒼央が千鶴の送迎から撮影までの全てを担当するという、これまた異例の措置がとられ、後日、その話が業界を騒がせることとなるのだった。







