猫たちが人間のように暮らす美しい街、キャットタウン。
都会の喧騒と洗練された文化が調和するこの街には、世界的に有名な名探偵がいる。
その名はフェリックス・シャープクロウ。数々の難事件を解決してきた彼は、
キャットタウンの住民たちから尊敬と信頼を集めている。
そして、そのフェリックスのもとで勉強中の見習い探偵、ワトリー・ブラウン。
彼はまだ名探偵への道の途中だが、毎日コツコツと知識と経験を積み重ねていた。
そんなワトリーがよく通う店がある。それはキャットタウンの中心にある
おしゃれなアイスクリーム屋、ミルクテール。店内はいつもにぎわっており、
店長のエミリオが誇る新作アイスクリームは、毎回ワトリーの舌を楽しませてくれる。
この日も、ワトリーは新作アイスクリームを楽しんでいた。
風味豊かなミルクとサツマイモが絶妙に調和した一皿を前に、彼は至福の時を過ごしていた。
エミリオが微笑みながら話しかける。
「ワトリー、新作どう?」
ワトリーは、ひと口アイスを口に運び、ゆっくりと味わいながら静かに答えた。
「サツマイモが美味しいのだ。」
その短い言葉に、エミリオの顔が満足げにほころぶ。「そうだろ!」と声を弾ませた。
「ところで、エイミーのデビューは今日だろ?」エミリオはふと思い出したかのように、
時計をちらりと見やる。「時間、大丈夫かい?」
ワトリーはアイスを黙々と食べながら、のんびりと答えた。「まだ大丈夫なのだ。」
彼の余裕ぶりにエミリオは、笑いを含んだ声で続けた。
「それにしても、本当にモデルデビューするとはな。あのアレクとかいうマネージャー、凄いよな。」
「エイミーはモデルになることが夢だったのだ。」ワトリーはアイスを一気に頬張り、
少し黙ってから続けた。「実力で人気が出たのだ。」
エイミーの体型は、いわゆる一般的なモデルとは少し違っていた。それでも、
彼女の持ち前の明るさと愛嬌は、周囲を虜にし、瞬く間に人気を集めるようになった。
普段はスタジオでの撮影が中心だったが、今回は特別。アイドルとのコラボイベントで、
ステージ上のランウェイを華々しく歩くという夢のような機会が巡ってきた。
「ワトリー、エイミーのこと、どう思ってるんだい?」エミリオがふと真顔になり、尋ねてきた。
「親友なのだ。」ワトリーはあっさりと答えた。
だがエミリオはそれでは納得しない。「好きなんだろ?」
「大好きなのだ。」ワトリーは、まるで何でもないことのように言う。
エミリオは少しため息をつき、手を振って話を続ける。
「僕が言ってるのは、メスとして見てるかってことだよ。」
「エイミーはメスなのだ。」
「違うよ、ワトリー。結婚できるかってことだよ。」
ワトリーは少しの間アイスに目を落とし、考えるように黙り込んだ。そして、ぽつりと答えた。
「結婚?エイミーにはボーイフレンドがいるのだ。」
エミリオは驚いた表情でワトリーを見つめた後、微笑んで肩をすくめた。
「そっか。それなら、まあ、いいけどさ。」
ワトリーは再びアイスクリームを一口食べ、無言で頷いた。
彼の頭の中はエイミーのことと、これから始まる彼女の大舞台のことでいっぱいだった。
彼女の夢を見届けるために、ワトリーはこの後、キャットタウンを駆け抜けることになるだろう。
しかし、その平穏な日常は、思いもよらぬ形で崩れていくのだった。
キャットタウンに忍び寄る影は、ワトリーがまだ気づいていないところで静かに動き始めていた。
ワトリーはエイミーからもらったチケットを片手に、ウキウキと会場に足を踏み入れた。
その席はなんと最前列のVIP席。エイミーの大切なモデルデビューを一番前で見られる喜びが、
ワトリーの心を一層弾ませる。
指定された席に着くと、隣に知った顔がいるのに気がついた。
ワトリーは驚きつつも、にこやかに声をかけた。
「ジョセフ、ポテト!」
ポテトは慌てて振り向き、「あれ、ワトリー!」と嬉しそうな顔を見せた。
一方、ジョセフは驚いた様子でワトリーを見上げる。
「ワトリーじゃないか!なんでここに!?」
「今日はエイミーのモデルデビューの日なのだ。」ワトリーは誇らしげに言った。
「そうなんだ僕たちはアイドルの・・」」ポテトは笑顔で答えようとしたが、
すぐさまジョセフが彼の口を押さえ、ポテトの言葉を遮った。
「アレクに警備を頼まれてね。」ジョセフが急いでフォローする。彼は小声でポテトに向かって、
「仕事中なんだから余計なことを言うな!」とささやいた。
「あ、そうでした。」ポテトは照れ臭そうに頭をかいた。
ワトリーは2匹をじっと見つめ、「警備?警備するのにその格好は?」と怪訝な表情を浮かべた。
ジョセフとポテトの姿は、警備員らしからぬものだった。彼らはハチマキを巻き、
ハッピを羽織り、応援用のうちわまで持っていた。
「はは、これはカモフラージュだよ。」ジョセフは少し照れ笑いを浮かべる。
「いかにも警察官だと思われたら、相手も警戒するだろ?」
ワトリーはますます不審な目で2匹を見つめるが、すぐに大きな音楽とともにショーが始まり、
その音に気を取られた。会場は光と音で包まれ、煌びやかなモデルたちがステージを歩き始めた。
観客は目を輝かせ、歓声が響き渡る。ワトリーもエイミーの登場を心待ちにしていたが、
時間が経っても彼女は現れない。
隣に座るジョセフとポテトが応援しているアイドルグループのメンバーも、
一向にステージに登場しない。ワトリーは次第に胸騒ぎを覚え、
時間が経つごとにその不安が大きくなっていった。
そして、ついにマネージャーのアレクがVIP席に急ぎ足で現れた。彼は真剣な表情でジョセフに向かって、
「ジョセフ、すぐに来てくれないか?」と低い声で呼びかけた。
その一言に、ワトリーは鋭く反応し、アレクの顔を覗き込む。「何かあったのか?」
アレクは言葉に詰まり、躊躇したように口を開け閉めした。
「それが…」と何かを言おうとするが、続けるのをためらっている。
ワトリーは即座に立ち上がり、ジョセフの後を追って走り出した。
アレクが「ワトリー、待て!」と叫んだが、彼の声はワトリーの耳に届かなかった。
ワトリーの心にはただ一つの思いがあった。
―エイミーに何かが起きている。
その直感が、彼を駆り立てていた。ショーの華やかさの裏で、
ワトリーはこれから始まる暗い陰謀に足を踏み入れることとなるのだった。
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