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新連載です。深夜テンションで書き切ったので内容は無茶苦茶ですが、何話分かの構成は考えてます。 前書いてた『LC LOR 妄想』は要望があれば続き書きます。 あしからず。
…金。
カネ、カネ、カネ、カネカネカネ。
事務所の維持費、身体施術の更新料、義体のボルト、オイル、錆止め代。一級フィクサー二人分の給与。工房武器レンタル代。これまでの依頼契約違反徴収金。
…そして、同事務所内のカスによるA社禁忌に抵触した工房武器製作依頼完遂による違反金。
計三十億五百万眼の借金を、俺率いる三人の事務所、『〇〇事務所』は抱えている。
「…どうすんだよ、コレえぇぇ…!!!」
同じく頭を抱えている〇〇事務所代表ことジェロームは、12区お抱えの金融会社からの催促状をこれでもかと握り締め、呪詛に近い溜め息を吐いた。狂った様に何度も 桁を読み直すが、たまに読み違え期待と落胆を繰り返すのみであった。
…なんでこんな事に、とは言えなかった。
着々と積み重なる借金に、焦りではなく慣れを感じてしまった俺にだって落ち度はある。ただ…
「寝ずに都市伝説や都市疾病の依頼を受け続けたとして…全っ然足んねえ…」
んだ三十億って。アホか。
仮にも代表の俺をガン無視して工房武器依頼を受ける様な奴を、どう静止すりゃ良かったのか?…今一度、事務所内で会議する必要があるな
「はーい、終わらせて来ましたよ。」
丁度都市疾病の依頼をこなしてきた仲間一人が帰って来た。
名はヴェルド。俺と同じ一級フィクサーで、割と長い付き合いの腐れ縁。この事務所内で俺の次にマトモな奴だが、一番の被害者でもある。
「あ〜…6.2型ボルトエンジンの調子が悪い…」
「前に買った小型エンケファリンモジュール使ってくれ。倉庫にある」
「はーい」
「あと大事な話だ。借金について──」
「いやもう無理でしょ。アイツ囮にして外郭逃げましょ」
「クッソ…一級フィクサー事務所としての地位が…」
これまで超優秀なフィクサー事務所として積み上げて来た経歴に、重ねて来た他事務所との信頼を手離したくは無かった。
…それに、コイツの義体を生身に変えられる技術が外殻に存在し得るかが不明瞭すぎる。代表として、友として、そして加害者として。それまでは逃げたりなんてしたくない。
「それと…代表に良い話が二つあります。 」
「…お?お前にしては珍しい。どんな?」
「一つ、L社が謎の光を放った末に倒産したこと。お陰様で12区内は大パニック、例の金融会社とも連絡が取れて無いですね。」
「おぉ!!ワンチャン踏み倒せたり…」
「少なくとも12区内のいざこざが収まるまでの猶予が出来たでしょうね。」
「で、もう一つの良い事は?」
「L社の光によって、人間が突如化け物へ変異する『ねじれ』が都市中で発生しました。」
「それは…良い話か?」
ほんの数週間前に、都市中へ響かせたピアノの音色を思い出す。9区内でおびただしい数の骸を積み上げたあの悲劇。あれがそこらで発生するならば、確かに借金どころでは無いが…
「そのねじれは都市伝説から都市悪夢までマチマチ。ハナ協会も人手が欲しいらしく、割の良い依頼が山のようにあります。」
「それは…良い話だな…!!」
都市悪夢級の依頼などそうそう入って来る物では無い。多少危険でもあるが、今更躊躇う暇があるほど時間も無いだろう。ならば。
「ヴェルド、準備しろ。」
「了。」
「一番高いねじれを潰しに行くぞ。」
俺は剣を、ヴェルドは丸ノコを携え、事務所の扉を空けた。
「…で、」
不慣れな白帽を頭にフィットさせ、俺は呟いた。
「なんで俺等は薬指んカッコしてんだ?」
「これが一番高い依頼だからですね。」
大量のスチューデント達の中で、ヴェルドは答えた。
『薬指内で観測された特殊技術の撮影、もしくは確保』これが今回の依頼内容であった。態々他の区にまで足を運び、到着した先は、薬指傘下の大学による展覧会であった。
その先で秘密裏にスチューデント2人を殺め、身分証やら何やらを掻っ攫い成りすましているの、だが…
「コレ、別の方向行ってねぇか?」
「正反対ですね。」
「…だよな」
人混みの様なスチューデント達に揉まれ押され…気付けば薄暗い部屋へ移動していた。俺等が居る場所は二階席の様で、その場全体を見渡すことが出来た。
映画館の様な広々とした空間に、静寂が似つかわしい高級感溢れる座席達へ、一部の隙間なく着席する人々の影が落ちていた。その頭部に妙な布を垂らして。
ステージ上のアホみてぇに小せえ帽子を被った奴が、声高々に話し始めた。
「さぁ、お次は立体派ドーセント達の最高合作!存在し得ないと言われていた四次元立体の硝子細工です。こちらはU社の特異点を筆頭に様々な──」
「さっさと出るぞ。大学の構造は全て頭に入れたが、この場所みてぇな…廊下を経由した場所は何があるか分かったもんじゃねぇ。」
「出口はあちらの様です。目立たないよう自然に向かいましょう。」
「あぁ」
「──最後は此方の品!我々薬指の鏡技術を最大限活用し、一から製作したこの少女──」
#微グロ有り
「依頼人によると…この廊下を出て左、40m先にある右手側の扉を抜け、9つの横並びの扉の右から2つ目を通り…」
「…アホ遠いな。」
何度も何度も依頼人からのメモを読み直すヴェルドの隣に並び、本当に自然な形で同行する。例え誰かにこの様を見られたとて、気にもされない程自然であろう。自らの変装技術に惚れ惚れしてしまう。
そう、思っていたのだが…
「…やあ、先刻振りですかね?」
「…チッ」
何度目かの純白な扉を空けたすぐ先。さっきの悪趣味帽子が礼儀正しくお辞儀をしながら、真っ直ぐ俺等を見つめていた。薬指にはめられた金色のリングが妖しく光る。遠くからでは分からなかったが、その身体には幾つかの赤黒い点が刻まれており、真っ白なローブが妙に映えていた。
当然、その正体ぐらいは理解している。…マエストロ。このトチ狂った薬指を束ねるリーダー的存在で…今回の依頼にて、絶対に目を付けられてはいけなかった存在。
「…代表。」
「あぁ、依頼失敗だ。生きて帰るぞ」
「まあまあ、随分な扱いでは?先程は熱い視線を私へ突き刺していたというのに。」
剣を構える。ヴェルドは畳んでいた丸ノコではなく、ちっぽけなナイフをこれ見よがしに取り出す。
俺の意図は理解しているらしい。こういった見るからのキチガイは真っ先に殺しにゃあ来ない。ならば多少剣を交えた後、予備の工房武器で周囲を破壊。その隙に即撤退だ。
互いにルートは完全に覚えている。俺が始めに、そしてヴェルドが入って来たその瞬間が合図だ。華麗なUターンかましてやる。
「俺等を舐め過ぎていないか?二級フィクサーことリリ様とルル相手に一人で敵うとでも?」
「…代表…」
咄嗟に雑な偽名を挙げた俺への刺すような視線を感じながら、また一歩踏み出した。
「あなたはリリと申すのですか…!可愛らしい名ですね…!!」
「うっせ、しばくぞ。」
緊張感が、互いの間を埋め尽くしていた。
一触即発といった雰囲気の中、一筋の汗が伝い、地に落ちようとした瞬間。
“緊急放送!!!緊急放送!!!”
「「!!??」」
“売買契約履行済み作品が脱走しました!!!”
“至急、第一第二棟配置の者は無効化、傷は──付けてもいい??…らしいので、速やかに拘束して下さい!!!”
“特徴は、黒髪長髪の──”
耳が割れそうな程の放送が、天井を起点に廊下中を響かせていた。…ハズが、それをゆうに超える爆音に破壊音と共に、とある人物が天井と放送器具をブチ抜きながら降りてきた。
その手には煌びやかな硝子片を握り締められており、長い黒髪がなびいていた。天井が崩れたことによる瓦礫を踏み締めながら…
「…マエストロ…」
「まあ、貴方が…逃げ出したとしても、逃げる先が有るとでも?」
「うるさい…!!」
…さて、どうしたものか。
前にはマエストロ、後ろには正体不明の少女。逃げようとどちらへ向かっても殺されてしまいそうだ。
ヴェルドに耳打ちする。
「互いに潰し合うまで待って、隙見てトンズラだ。」
「そうですね。…”あれ”使います?」
「まだいい。本当に危険だったら使わせて貰う。」
「…了」
「ぜったいに…絶対にゆるさない…!!」
「なら、やってみては?貴方のお好きなように。 」
「…!!!」
少女に握られていた硝子片が、パキパキと音を立てながら変異する。縦に伸び、横に伸び、やがては剣の形を作り、少女は俺等など意にも介さず、それをマエストロに向かって一直線に突き刺そうとした。
しかし、そのマエストロは既に未来が見えているかのようにヒョイと避け、何事も無いといった表情を崩さなかった。
するともう一度硝子片は音を立て、鎌の形へ変化した。次は槍、その次は鋏、鞭、弓。変幻自在に武器を捻じ曲げ、巧みに振るってはいるが…そのどれもが当たらない。
「当たれ!!当たれ!!…っ当たれ!!! 」
「…やはり、貴方には暴力は向いていない様ですね。 」
「…っぐ!?」
心底興味無いといった様子で、マエストロは少女の首根っこを掴んだ。そして──
…もう片方の腕で、その頭を叩き潰した。
飛び散る血流、砕ける頭蓋骨。管の繋がった眼球が、俺の足元まで飛んで来た。それを見つめ、俺は多少の放心状態となっていた。
…あれだけの事をしておいて、これで終わり?
少女が目の前で殺されたショックというよりも、この程度で終わりかという肩透かし感が俺の気持ちの大半を占めていた。
早く、逃げよう。今ならマエストロもこっちを見ていない。絶好のチャンスであろう。
「貴方なら、この程度では死にやしないてしょう?」
「…は?」
そこまで気が違っていたのか?そのガキは明らかに死んでいる。どう見ても即死だ。
「早くしなさい。お客様を待たせているのですから。」
「……ぐ……ぎゃ……」
穴の開いた少女の顔面が、少しずつ修復されて行く。砕け散った頭蓋骨や足元の眼球は無視し、頭部を起点に新たな組織が再構築されてゆく。しかし、それは見た目の通り想像を絶する痛みを伴うらしく、先程までピクリとも動かなかった手足を暴れさせながら藻掻いていた。
「代表。今なら気付かれずに脱出することができます。」
少女はようやく口まで構築されたらしく、当然のように話し出していた。
「やめっ…離せ!!!」
「これ以上暴れられては敵いませんし…一度、胴と首を離してしまいましょうか。」
「…ひっ」
「…代表、もう時間はありませんよ。」
「貴方は生きてはいけないのです。
何度でも殺せる様にと私が手ずから作ったのですからね。」
少女の痛々しい呼吸音が響く。するとやがて狂った様に辺りを見回し、一番近くに居た俺と目が合った。
「あ…あ…」
「代表!!早く!!」
絞り出す様な声で、殆ど諦めている声で。
少女は小さく叫んだ。
「たす…たすけて…。」
「ジェローム!!!」
足元の眼球を踏み潰しながら、俺はマエストロへ向かって走り出した。持参した剣…ムク工房の剣は少女の首を掴んでいた右手を両断し、さらに斬りかかる。
マエストロは俺が来るなど考えもしていなかったのだろう。明らかに反応が遅れた様子で、俺の斬撃を受けそこら中から出血していた。
…もう一歩を踏み出せば、殺せるかもしれない。そんな時…
「ヴェルド!!”あれ”だ!!!」
「分かってます!!!」
言うまでもなく少女を抱えていたヴェルドが、いつの間にか丸ノコを取り出していた。俺は華麗なUターンを決め、ヴェルドに飛び乗った。
「飛ばしますよ!!!」
そう叫んだ途端、地面に突き刺さった丸ノコは途轍もない爆音を上げながら回転し始め…車輪と同様の要領で、 俺達は高速でその場から離れた。
「作品が逃げ出した!?!?マエストロ様の作品が!?!?」
「早く!早く見つけ出すんだ!!」
「ちんたらするな!!マエストロ様のお手を煩わせるつもりか!!」
「わ、分かりました!…って、なんだあ、れ…」
薬指内の狭っ苦しい廊下は、丸ノコによる爆走にかなり適していた様で…いつの間にか螺旋の様にグルグルと廊下中を裁断しながら、会敵したスチューデント達をバラバラに引き裂いて行く。
最大限撒き散らかされた血飛沫が、真っ白な廊下をぐちゃぐちゃに汚してゆく。
…そして、やがて景色は見覚えのある大学へと変わってゆき…
「ダッハハハハハ!!!!!くたばれクソカス共!!!!!」
「黙って下さい!!!…ハッ!!貴方は大丈夫ですか!?」
「……ぅっぷ……うげぇぇえ…!!!」
爆笑に、怒号に、嘔吐。
それらを乗せた丸ノコは、全く無関係な大学の芸術作品まで引き裂きながらも出口へ向かっていた。
…が、やがて脆い手すりまで断ち切り、3人はエントランスへ投げ出される。地面までは2,30m程だろうか、ゆっくりと、しかし確実に命を奪う速度で落ちてゆく。
そしてその下には…一般客を逃がした薬指構成員に、武器を持ったスチューデント達で埋め尽くされていた。
「…あっ」
…死ぬ。また死ぬ。
死にたくない。何度だって殺されて来たけど、やっぱり死ぬのは怖い。こんな事になるなら…良い子にしていればよかった。
怖い。怖い怖い怖い怖い。
──痛いのが、くる。
「見てろガキンチョ!!!!これが──!!」
気が付けば、彼の手には工房武器が握られていた。人一人分以上の丈に、とんでもない厚みを持った大剣。 『ホイールズ・インダストリー』
「生きるってこったあ!!!!!」
振るった大剣はスチューデント複数人を跡形も無く叩き潰し、空気そのものが弾け飛ぶ様な破裂音と共に、周辺のスチューデント達もが途轍も無い振動で足が痺れていた。
当の剣を振るった本人に、もう一人のお兄さん、そしてしがみついていた私は全くの無傷で、あれだけ恐れていた死も既に遠い物となってしまった。
「ヴェルド!早く逃げるぞ。」
「…帰ったら覚悟しておいて下さいね。」
目撃者全員が立っていられず、項垂れている隙に、私達はそそくさと逃げ帰ってしまった。
「本当に、本っ当にいい加減にして下さい。 」
「申し訳無い。」
「…ごめんなさい?」
「貴方は良いんですよ。問題は…はぁ」
私はあの後、お兄さん達の事務所?まで連れてこられた。この人達は思ってたよりも偉い人らしく、何だかオシャレな場所に面食らってしまった。
…ここでなら、私も…
「……では、追加の借金情報ですが…」
「待て。…追加?」
「…しゃっきん?」
「依頼失敗。今回は違約金無し。
レンタルした工房武器、ホイールズ・インダストリーにヒビが見つかりました。該当工房へ賠償金百八十万眼。
…それと、大学の芸術品計十四品の損害賠償五百二十万眼。」
「待てよ。何で薬指なんぞに金を…」
「大学は別に犯罪組織でも何でも無い健全な教育機関ですから。展示されていた物も同様です。」
「…偽名使ったのに…」
大丈夫かな、この人たち…
〇〇事務所 借金額:三十億千二百万 眼