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次の日、エルと一緒にサフレン家に行き、私はお姉様と話をした。
「レイロと別れてくれたの?」
ソファに座っていたお姉様は不安そうな顔で尋ねてきた。
「まだです。レイロが離婚を認めてくれないんです」
「どうして?」
「それは私が聞きたいです。私はレイロと結婚生活を続けるつもりはないので、少しでも早く離婚をするためにも、お姉様に協力していただきたいんです」
「何をすれば良いの?」
「レイロが私と離婚せざるを得ないというような言い逃れのできない情報があるのなら教えてもらえませんか」
レイロを私が許してしまえば、お姉様は子供を生んだあとに、強制的に第二王子の元に嫁がされる可能性がある。お姉様は嘘をついてでも、レイロと私を別れさせて、自分と結婚させようとするでしょう。こうなったら嘘でもいいわ。私がついた嘘じゃないもの。
お姉様は口を固く結んだあと、意を決したように口を開く。
「二度目の関係を持とうとしてきたのはレイロのほうよ。あなたが帰ってこないから、そういう処理の相手がほしかったのでしょう」
「お姉様はそうだとわかっていて、彼と関係を持ったんですか」
「……そうよ」
「私に悪いとは思いませんでした?」
「……思わなかったわ」
この答えを聞けただけで、私はお姉様と会った甲斐があると思った。お姉様と話し終えたあとは義父母と、これからのことについて話すことになった。
「元々は私の姉が誘惑したのがきっかけです。色々とご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」
姉のせいでサフレン家は長男を廃嫡しなければならなくなった。世間体のことを考えれば、ダメージが大きいのはサフレン家のほうだ。私が頭を下げると、義父母であるドーリ様とシーニャ様が頭を下げてくる。
「君は悪くない。息子が誘惑に負けたのがいけなかった。そして、そんな人間に育ててしまった私に問題がある。本当に申し訳ない」
「多くの人が国のために戦っているのに、辺境伯の息子が、戦地には戻らずに浮気をしているだなんてありえないことだわ。たとえ誘惑されても断るべきだったのよ。本当にごめんなさい」
「……私の姉が相手でなければ、もっと責めたかもしれませんが、今回は姉の企みに気付けなかった私にも責任があります。誰に責任があるかという話は今はやめておきましょう。悪いのは二人です」
誰が悪いという話をしだしたらきりが無い。それぞれに思うことはあったとしても、一番悪いのはお姉様とレイロだと思っている。
義父母はレイロと私の離婚に全面的に協力してくれることを約束したあと、レイロがどんな話をしていたかを教えてくれた。
レイロとお姉様のする話は共通するものもあれば、そうでないものがあった。お互いに自分にとって都合の良い話を周りに聞かせているようで、一方は愛し合っていると言い、一方は騙されたと言っている。
お姉様曰く、性処理だったのは3回目までで、それ以降は愛を感じたのだと言っていたが、レイロは誘惑されて可哀相だったからという言い分だ。
……というか、何回したのよ! そりゃあ、子供もできるわ!
淑女らしくない言葉を吐きたい気持ちを我慢して話を聞いた。
*****
ドーリ様たちとの話を終えて部屋を出ると、メイドからエルたちが待っていると言われ、テラスまで案内された。
エルと二人きりで会うのは良くないと気を遣ってくれたようで、第3騎兵隊に所属している二人と後方支援の副リーダーであるフェインも、その場で待っていた。エルは昼間だから眠たいのか、テーブルに突っ伏している。
「こんなに明るいのに眠れるなんて羨ましいわ」
真っ青な空を見上げたあと、エルの向かい側の席に腰掛けて笑う。すると、シルバーブロンドの長い髪を後ろに一つにまとめたフェインが、丸い眼鏡を押し上げて話しかけてくる。
「エルファス隊長から聞きましたけど、どうして、そんな厄介な婚姻届を出したんですか。他の人のことは何も言いませんが、アイミー様の場合は頭の中がお花畑にもほどがありますよ」
「ちょっと酷くない? 若気の至りなのよ! その時は恋の炎が燃え上がってるから別れなんて考えてないの! 消火が難しかったのよ!」
「僕と妻は愛し合ってますが、流行りにはのらずに普通の婚姻届を出しました」
「ごめんなさい! 後悔しているし反省しています!」
両手を覆って泣き真似をすると、フェインはそれ以上は何も言ってこなかった。本当に泣いてはいないけれど、反省しているという気持ちは理解してくれたらしい。
「あの時のアイミー様は、悪口を言われても浮かれてヘラヘラしてましたからね」
「浮気を知るまでは、私たちは愛し合っているから絶対に別れない、なんて言ってましたよね。大丈夫かなあ、頭がお花畑になってるだけじゃないかなあと、皆で心配してたんですよ」
騎兵隊の仲間である、ルーイとソーヤから容赦無い言葉が聞こえてきた。耳が痛いので聞こえないふりをしていると、フェインが聞いてくる。
「で、エルファス隊長のお兄さんは今、どうしているんですか」
両手を顔から離し、フェインを見つめて答える。
「追跡魔法で調べた位置情報では、お姉様と逢引していた宿屋にいるみたい。お姉様が自分以外の他の男性と一緒に来ていたと思い込んで調べているみたいね」
「……エイミーは、……他に男がいたと、言ってるのか?」
エルが顔を上げて聞いてきた。目が半分閉じていて、これが私の知っている昼間のエルだと思って安心した。
エルは私のことを気にしてくれていたし、夜に起きているのに昼も寝ていないという、最近の状況では彼の体が心配だったのだ。
「いいえ。レイロ以外の男性とは雑談を交わすこともなかったと言ってるわ。私が知っているお姉様もそうだったから嘘じゃないと思ってる」
「それは第11騎兵隊のメンバーも言ってました。だから、エイミー様は嘘は言ってないんじゃないでしょうか」
ソーヤが手を挙げて、私の意見に同意してくれた。
「ということは、やっぱり、お姉様のお腹の子供の父親はレイロなのね」
「……そうとしか考えられないな」
エルが頷くと、フェインが眉根を寄せる。
「離婚を拒まれているんですよね? このままだと別居生活ってことになるんですか?」
「普通の婚姻届を出しておけば別居が長く続けば離婚はできるけど、私の場合はそうじゃないから、あなたの言う通り、ただの別居状態になるわね」
「別れたいって思わせればいいんですよね」
「そうなんだけど、何か良い案がある?」
「別れなければ殺すと脅すのはどうでしょう」
冗談かと思ったけれど、エル以外の皆の顔が真剣なので苦笑する。
「そんなことをしたら納得して別れたということにならないじゃないの」
「……どちらかが、納得しないで……、ぐぅ……離婚届を出したらどうなる……んだ」
「隊長、眠らないでくださいよ!」
ルーイに体を揺さぶられたエルはがつんと木のテーブルに額をぶつけた。
「……誰だ。今、揺さぶった奴」
額をさすりながら、エルが怒りをあらわにして、フェインたちを見た。すると、ソーヤがルーイを指差す。
「こいつです!」
「ちょ、何もしてないですよぉ! 隊長が勝手に揺れて、ぐぇっ」
「腕掴んでた奴がいるだろ。位置的にお前だよ、ルーイ」
「ぎゃあああ!」
腕を捻り上げられたルーイが絶叫する。普段のやり取りに和んでいると、フェインが話しかけてくる。
「とにかく棺桶用意しておいたら良いですかね」
「すぐに殺しにかかるのはやめなさい」
私のことを考えてくれるのは嬉しいけど、殺意がありすぎるのは問題だった。