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船の汽笛が再び鳴り響き、ロビーにいる全員が一瞬沈黙した。船がゆっくりと動き始め、彼らの運命もまた新たな段階に踏み出そうとしていた。誰もが不安そうな表情を浮かべ、互いに目を合わせながらも、何をするべきか分からずに立ち尽くしている。
その時、ロビーに設置された大きなモニターが突然明るく光り、全員の注目を集めた。画面には、黒い背景に白い文字が浮かび上がる。
「皆さん、ようこそ。この船に時間通りにお越しいただき、ありがとうございます。」
全員が息をのむ。モニターのメッセージは続けられた。
「これから皆さんには、この船での特別な体験を通じて、自分自身を再発見していただきます。目的はシンプルです。女性としての魅力を最大限に発揮し、ミッションをクリアすること。それによって、元の体に戻る権利を獲得できます。」
ロビーにいる全員が驚きの声を上げた。彼らの目には恐怖と困惑が入り混じっている。
「第一のミッションは、『ファッションショー』です。各自に配られる部屋のカギを使い、指定された部屋に入ってください。クローゼットには多種多様な服と靴が用意されています。また、化粧道具も一式揃えられています。最も魅力的な姿を披露した方から順に、元の体に戻る権利が与えられます。」
モニターのメッセージが終わると、ロビーにいる彼らの手元に、小さな銀色のカギが渡された。彼もまた、自分のカギを手に取ると、目の前の状況に対してどう対応すべきか考えを巡らせた。
彼は渡されたカギを握りしめ、指定された部屋の前に立っていた。ドアを開けると、そこは豪華な内装の部屋で、ベッドやソファが備え付けられている。だが、彼の目を引いたのは、部屋の隅にある大きなクローゼットだった。
恐る恐るクローゼットの扉を開けると、そこには色とりどりのドレスやスーツ、カジュアルな服がずらりと並んでいた。ハイヒールからスニーカーまで、あらゆる種類の靴も揃っている。さらに、その隣には鏡があり、テーブルには化粧道具が一式揃えられていた。リップスティック、アイシャドウ、ファンデーション…見たこともない数々の道具が彼を待ち受けている。
「くそ…どうしろっていうんだ…」
彼は頭を抱えた。女性の体に変えられてしまっただけでも十分ショックだったのに、今度はその女性らしさを競わなければならないとは。自分がそんなことをできるわけがないと、絶望感が彼を襲った。
だが、元の体に戻るためには、これをクリアするしかない。彼は深呼吸をして、クローゼットに向き直った。選択肢は多いが、そのどれもが彼にとっては未知の領域だった。ドレスを手に取ると、その滑らかな感触が指先に伝わる。彼は唇を噛み締めながら、次に手に取ったのは一足のハイヒールだった。これを履いて歩くことができるのか、想像するだけで不安になる。
鏡に映る自分の姿を見つめながら、彼は決意を新たにした。どれだけ困惑しても、ここで立ち止まるわけにはいかない。元の体に戻るためには、このミッションを乗り越えるしかないのだ。
彼がクローゼットの前で悩んでいると、隣の部屋からも同じような動揺の声が聞こえてきた。自分と同じように、他の元男性たちもこの試練に挑もうとしているのだろう。彼は再び深呼吸し、クローゼットの中の服に手を伸ばした。これが最初の一歩だ。自分を取り戻すための、重要な一歩。