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「冗談ですよね、ルーイ様。この再現のために用意された創作なんでしょう?」
マードック司教様はルーイ様の告白が信じられないようだ。流れ的にその想い人が人間であると察せられてしまうからな。神が人に恋をするなんて……まるで王家の……ディセンシア家の成り立ちを想起させる。ルーイ様の正体を知っている司教様からしたらかなりの衝撃だろう。ただ、メーアレクト様の時とは違い、ルーイ様のお相手は同性であるが……
『神の御前で嘘などつきませんよ』
ルーイ様はまだ信徒の演技を続けている。自分自身が神の癖に……
ルーイ様が演技をやめないので『嘘をつかない』がいまいち信用できなく聞こえる。だから司教様は迷っているのだ。ルーイ様の告白をどう扱えばよいのか。フェリスさんの方は彼の言葉を素直に信じたようで、そわそわしながら話の続きを待っていた。
それにしても……ルーイ様はどうして今このタイミングであんな話をしたのだろうか。彼の想い人が誰であるかなど、わかる人にはわかってしまう。いつもの気まぐれか……理由なんて無いのかもしれないけどさ。
『あの……その方のお名前を伺っても?』
『申し訳ありません。相手に迷惑がかかりますので、名前の方は伏せさせて頂きます』
司教様は動揺しながらも名前を確認した。借りた服を汚したことに対する懺悔だったのに、話の焦点がルーイ様の想い人が誰であるかに移行してしまっている。
『……実際、本日の私の行いがバレたら酷く怒られてしまうでしょう。でも、私があの人に対して抱く感情は恋慕であると宣言しておきたかった。決して興味本位や戯れではないのだと……だから、どうか見守っていて下さい』
ルーイ様は私たちがいる方に振り返ると、にっこりと微笑んだ。そうか……ルーイ様が一番聞かせたかったのは最後にいった言葉だ。そしてその相手は、セドリックさんの部下であるクラヴェル兄弟だったんだ。彼らに誤解されないように……あの人への気持ちは本物であると知らしめたかったのか。
そうだとしても捜査中……しかも、懺悔の形を借りて行うのはどうかと思うけど。きっと常にタイミングを見計らっていたに違いない。司教様立ち合いのもとで行われた宣言なら本気度が伝わると考えたのかな。
「……とまぁ、こんな感じで。俺の懺悔風悩み暴露だったわけだけど、どうだったかな?」
ルーイ様が演技をやめた。ここでお開きにするんだ。好きな人を匂わせただけで、悩み自体は全然解決してないんだけどな。恐らく悩みの方はオマケみたいなものだったんだろう。これ以上やる必要はないと判断したのか。
一応懺悔室の雰囲気を再現するという目的もちゃんと果たせていた。司教様は訳わかんなかっただろうけど。
「こういう場合、怒るというより恥ずかしがりそうだけどね。あの人の性格ならさ。なんかふたりずっと揉めてたみたいだったけど、問題は解決したって思っていいのかな」
「……陰ながらどうなったのかと心配していたんですよ。先生のそのご様子からして、お相手とちゃんと話がついたようで良かったです」
「うん。ルイス君にレナード君、ありがとう。もう君たちの大事な人を困らせたりしない。約束するよ」
懺悔の形を取って行われたルーイ様の告白……クラヴェル兄弟は彼の目的を正しく理解しているみたい。
ルーイ様とセドリックさんを近くで見ていれば、お互いに強く意識し合っているのは明らかだった。でも……どこか不安定で危なっかしい雰囲気も同時に纏わせていて、私も気にはなっていた。
好きあっているならいいじゃないかとはならない。話はそんな単純なものではなかったようだ。特にセドリックさんが顕著で、ルーイ様が原因で体調を崩したりもしていた。クラヴェル兄弟はそんなふたりの様子を心配してくれていたのだ。ルーイ様もそれを知っていたから、場違いと分かっていても話を持ち出したのだろう。
「クレハ。ちょっとだけ俺の私情が混ざっちゃったけど、懺悔の再現はどうだった?」
「はい。私情のところに関しては、私もご兄弟と同じ感想です。ルーイ様、相手の方を大切にしてあげて下さいね」
「はい、はい。分かってるよ」
「懺悔室の雰囲気を知ることが出来て大変参考になったと思います。司教様もご協力ありがとうございました」
「……えっ? はっ、はい。どういたしまして。このくらいはお安いご用です」
司教様はまだ衝撃から抜け切れていない。私たちと違ってルーイ様の好きな相手が分からない上に、そもそも話自体が本当なのかどうかも判断がつかないのだ。
ルーイ様はもうこれ以上、好きな人について詳しく話すつもりはなさそう。司教様を驚かせるだけ驚かせて放置するのは気の毒だけど、当人が言わないものを私が勝手に説明するわけにもいかない。ルーイ様も意地が悪いな。
「さて、それじゃあ皆さん。そろそろ帰りますか」
「ボスが待ちくたびれてるだろうなぁ」
「マードック司教、ありがとうございました。今後もよろしくお願い致します」
「……はい。お気を付けてお帰りください」
ルーイ様のひと言で皆一斉に帰り支度を始めた。司教様はしばらくの間このネタで悶々とすることになるだろう。
もしかしたら……この一連の流れ自体がニコラさんについて教えて貰えなかった事に対しての、ルーイ様の仕返しだったのかもしれない。
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