テラーノベル
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じんわりと熱い湯が肩まで覆い、浴室に白い湯気が立ちこめている。
「ふぅ……今日は何観ようかなぁ〜……」
藤澤は湯船にスマホを持ち込むのが癖になっていた。
流行りのドラマやアニメを追いかけたいし、ゲームも好きだから実況動画も観たい。
それに何より、仕事続きの身体をほぐしながら頭も休めたい。
今日もジップ袋にスマホを入れて浴槽の縁に置き、最初は再生ボタンに指を伸ばしていた。
けれど——ふと、気が変わった。
「たまにはアルバム、見返してみるか」
無意識にタップして、過去の写真フォルダを開いた。
画面をスクロールしていくと、懐かしい場面が次々と現れる。
ツアー先でのオフショット、楽屋でのふざけた笑顔、昔の元貴と若井と3人で顔を寄せ合ったピース写真。
「うわぁ〜……懐かしいなぁ」
思わず声が漏れ、胸の奥がじんと温かくなる。
さらに指を動かし、数年前の写真まで遡る。
そこにあったのは、活動休止中の、あの時期の思い出だった。
コロナ禍で自由に動けなかった日々。
元貴に 「せっかくだから、2人仲良くなれる機会にしたら」と勧められ、若井と共同生活を始めた頃の写真だ。
リビングでのんびり映画を観ている様子。
キッチンで料理を失敗して笑っている瞬間。
「ははっ……こんなの撮ってたんだっけ」
浴室に響く声はどこか照れ臭い。
そして——スクロールを止めた一枚。
酔っ払った夜、ふざけ半分で撮った自撮り。
お互いに顔を寄せ合い、笑いながら、けれど唇は深く重なっている。
「……っ」
息が止まる。指先が画面の上で硬直する。
それは「ただの悪ふざけ」のはずだった。
酒の勢いに任せた冗談。
けれど今見ると、そのときの自分は頬を赤らめ、瞳を潤ませ、まるで本当に求めているみたいに見えた。
若井の腕に引き寄せられて身を預けている——そんなふうに。
「……もし、あのまま続けてたら……」
呟きが漏れる。
想像が勝手に膨らんでいく。
キスの続きで、そのままソファに倒れ込んで。
若井の唇が首筋に移り、低い声で囁く。
『涼ちゃん……もっと近くにいてよ』
背中がゾクゾクと粟立ち、湯の中で脚が微かに震える。
「……だめだな、俺……」
苦笑しながらも、目は画面から離せなかった。
写真の中の自分と若井。
その一瞬を境に、もし世界が分岐していたら。
冗談ではなく、本当に抱き合っていたら。
——その先を考えただけで、胸が熱く、下に意識が集まっていく。
湯の中で、指先が自然と下腹部へ移動した。
まだ触れていないのに、すでに硬くなりはじめている。
「んっ……」
小さな吐息が湯気に溶けた。
浴槽の縁に置いたスマホには、あのディープキスの写真が映ったまま。
画面を見ながら、藤澤は静かに、けれど抗えない衝動に足を踏み入れていった。
コメント
2件
きました!!涼ちゃんへん 若井の時も凄かったけど涼ちゃんはどんな結末になるかな?