テラーノベル
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(言葉の……真意が解らない)
呆然と立ち尽くすリーゼロッテの頭の中では、ジェラールの言葉がグルグルと回っていた。
一周目で聞こえた『……やめろっ!!』と言った声は、剣を振り翳した人間を止める為の言葉だともとれる。
だから、敵なのか味方なのか、判断がつかなかった。
(だけど、さっきのは……。今度は逃がさない、って言ったよね? 私を捕らえようとしている? ん? ちょっと待って……今度は? 今度が今だとするならば、前回は?)
あり得ない話だと思いつつ、自分が一番あり得ない存在なのだという事も解っている。
もしかしたら、ジェラールもループを――そんな予感が脳裏を掠めた。
(いやいやいやいや、そんな馬鹿な。あの場に居た人間がみんなループしているなら、お父様やフランツだってループしているはず。うーん……)
もしも、ジェラールもリーゼロッテのように、心底やり直しを願っていたら――。そんな考えを振り払おうと、頭をプルプル振った。
「……主人よ。さっきから一人で百面相して、いったい何をしているのだ?」
いつの間にか傍に立つ、呆れ顔をしたテオの言葉で現実に引き戻された。
自分だけでは判断しかねると、リーゼロッテはテオとルイスに相談をしてみることにする。
(うん、三人寄れば文殊の何とかって言うしねっ)
「信じられないことだが……。確かに、リーゼロッテの仮説が正しいかもしれないね。あの殿下が、初対面の人間に『会いたかった』なんて言うとは到底思えない」
「リーゼロッテは、1周目でジェラールを知っていたのか?」とテオ。
「それが、記憶にないのよ……。もし、会ったとするなら、社交界デビューの時しか考えられないわ。王宮での拝謁の儀では、確かに殿下も王族側に座っていたと思うけど、緊張して覚えてないし」
やはり、個人的には会った記憶は無い。
ただ……国王拝謁の儀から始まって、舞踏会、翌日の他のデビュタントとの情報交換など、暫く宮殿や王都に居たのだから、何処かで見かけたくらいの可能性ならあるだろう。
「ならば、リーゼロッテにジェラールが一目惚れしたとか?」
「ええぇ……!? あの場には、他にも綺麗なご令嬢がたくさん居たし。万が一そうだとして、ひと目惚れで殺されるとか……怖すぎるわ、それ」
(日本でこの顔立ちなら目立つけど……この世界の人々は、顔面偏差値高すぎだし。女の私よりも、ここの男性陣の方が余程美人なのよねぇ)
物凄く嫌そうに顔を顰めたリーゼロッテに、ルイスとテオは顔を見合わせた。
「ルイスよ、我が主人は人間では美しくないのか?」
「いや、親の欲目を抜きにして、かなりの美人になると思うが」
リーゼロッテに聞こえないようにコソコソ話す二人。
「リーゼロッテ、殿下に会った会わないは別にして、当時の殿下の評判とかは聞いていないのかい?」
「評判ですか……? うーん、無節操な馬鹿王子?」
ピシリと、ルイスが固まってしまう。
リーゼロッテは慌ててフォローする。
「あ、あくまでも裏の噂ですよ。公の場でそんなこと言ったら不敬罪で捕まりますから。あの美貌と地位がありますし、女性が群がるのは当然ですよね。私は興味ありませんでしたけど」
1周目のリーゼロッテは、ルイスしか見ていなかった。
それは、叔父としてなのか、義父としてなのか、将又異性としてだったのか……今の自分が言うことではない、そう思った。
「私が護衛していた時は――。子供であっても殿下は何事にも一生懸命で、王太子殿下を慕う真面目なお方だったのだが……」
ルイスはショックを隠しきれないみたいだ。
「アニエス様といい、ジェラール殿下も成長過程で何かあったのかしら? 二人とも子供の頃と違い過ぎるなんて」
(流石にアニエス様の時よりは不安だけど……ジェラール殿下と、もっと接触してみるべきかしら?)
考え込んだリーゼロッテに、ルイスは何かを感じたらしい。
「リーゼロッテ。絶対に、危ない事をしないように。もし、何か考えがあるなら先に相談しなさい!」
釘をしっかりと刺されてしまった。
(最近、お父様が手強いわ……)
◇◇◇◇◇
――その頃。
「殿下、辺境伯領はいかがでしたか?」
突然、辺境の地の視察に行きたいと言ったジェラールに、アントワーヌは感想を尋ねた。
「想像以上に、良い領地になっているな。父上が、エアハルト辺境伯に一目置くのがよく解った。近衛騎士としても、出来る奴だったが……」
「それだけでしょうか? ……ジェラール殿下が見たかったのは、他にもあったのでは?」
「そうだな、レナルドは良い仕事をした」
意味深長な笑みを浮かべたジェラールは、明言は避けた。
(やはりリーゼロッテも、随分と雰囲気が変わっていた。どうやら私と同じように、以前の記憶がありそうだな。まあ、いい。それより……今度こそ逃すものか)
「予定通り、このままあちらに向かわれますか?」
急に押し黙ったジェラールに、アントワーヌは念のため確認する。
「当たり前だ。絶対に、彼女を手に入れてみせる」
ジェラールは高らかに笑うと、王子一行は辺境地を後にした。
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