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ミラとたくさん話をした後は、日も暮れたので街に戻ることにした。
アクアマリンの人形を依代にしていたから、表情や細かいところまでは分からなかったけど、ミラはあまり寂しそうには見えなかったかな?
……ただ、本当にそうかと言われれば、正直私には分からない。
だからこそ、依代を使わないで話すことが出来るようになれば良いんだけど――
「お帰りなさい! 遅いですよっ」
お屋敷に戻って食堂に行くと、エミリアさんが一人でお茶を飲んでいた。
いつもなら、もう夕食が始まっている時間だ。
一人で食事を始めるわけにもいかず、空腹に耐えながら待っていてくれたのだろう。
「すいません、ちょっと長居し過ぎちゃって。
すぐ食事にしましょう。キャスリーンさん、お願いね」
「かしこまりました。直ちにご用意致します」
私の言葉に、キャスリーンさんはきびきびと動き始めた。
マーガレットさんとルーシーさんも準備に加わり、食事の支度はものの数分で終わってしまった。
……やはり手慣れたものだ。さすがプロ!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夕食が始まると、山盛りメニューに囲まれたエミリアさんが今日の話を聞いてきた。
個人的にはいつも以上の山盛りが気になるけど、私のいない間、メイドさんにいろいろと言っていたのもしれない。
お腹が空いたとか、お腹が空いたとか、お腹が空いたとか……。
……それについては、私からは謝るしか無い。
そんなことを思いながら、私は今日あったことをエミリアさんに話していった。
『水の迷宮』の子に会えたこと。
『水の迷宮』の子に『ミラ』という名前を付けたこと。
ミラと一緒に、いろいろなことを話したこと。
「――わたしも会ってみたかったです!」
「そうですね。今度、是非会ってあげてください。
私はこれから収穫祭の件で忙しくなるので……もし良ければ、リリーと一緒にどうですか? ね、リリー」
「なの! 私ももっとお話をしたいから、お姉ちゃんも一緒に行くの!」
「孤児院でも出店するので、ちょっと忙しくなるのですが……、一日くらいなら大丈夫だと思います。
リリーちゃん。スケジュールを確認してくるから、話の続きは明日の夜でも大丈夫?」
「大丈夫なの!」
エミリアさんの答えに、リリーは満足そうに頷いた。
「それじゃ、二人で調整して遊びに行ってあげてください。
ミラの依代はエミリアさんに渡しますね」
食事中に渡すものでもないから、これは一旦あとにしておいて……っと。
「――依代といえば、ガルルンの置物なのですが」
「は?」
突然、エミリアさんがよく分からない流れで話し始めた。
私はついつい、素っ気無い返事をしてしまう。
「……あ、すいません。
人形みたいなもの、ということで!」
「は、はぁ……。
そういえばガルルンの置物も、結局何もできませんでしたねぇ……」
結構前に作ってもらって、一時は王都のお店に置き去りにしてしまって――
……今はポエールさんを経由して手元に戻ってきているけど、そもそも納品されていないものもあるんだよね。
「実は今日、珍しい方に会ったんです!」
「珍しい? 誰だろ」
「セシリアちゃんです、セシリアちゃん!」
「おぉ……、懐かしい!
え? こっちに来てるんですか?」
セシリアちゃん――というのは、ガルーナ村に暮らす女の子だ。
ガルルンの置物を最初に作った天才少女でもある。
「来週の収穫祭に向けて、村の有志で来たんですって。
村長さんもいましたよ! あと、見覚えのある方もたくさんいました」
「なるほどー」
……ちなみに私は全員と話しているから、基本的には見知った人ばかりのはずだ。
でもあの頃と比べれば、私もずいぶん変わっちゃったし……。
今でも私のことを、前と変わらずに相手してくれるかなぁ……。
正直そこら辺が怖くて、今までガルーナ村に行くのは控えていた――という節もある。
対人的な感情の変化というのは、まだまだ怖いところがあるのだ。
「ママの、知り合いの人なの?」
「うん。ずいぶん会ってなかったんだけどね」
「セシリアちゃんは、アイナさんに会いたがっていましたよ。
それに村長さんも、いろいろとお話をしたいそうです」
「いろいろ……?
うわぁ、嫌な話だったら嫌だなぁ……」
「それは大丈夫ですよ。
基本的には手紙だけのやり取りだけだったので、直接お礼が言いたいんですって。
あとはガルルン茸の扱いとか、相談したいこともあるのだとか」
「ガルルン茸――
……そういえば、どうなったんでしょうね」
「上手く増産することが出来ているらしいんですけど、扱える人がいないらしくて……」
むむ、予想外の展開。それでは宝の持ち腐れだ。
ちなみにガルルン茸の、昔の鑑定結果は――
──────────────────
【ガルルン茸】
神の慈悲により人間に与えられた祝福のキノコ。
疫病への抵抗力を上げる薬を作ることができる
──────────────────
――これだ。
あくまでも『薬を作ることができる』のであって、これ自体は薬にならない。
……仮に効いたとしても、おそらくは少しくらいの効果しかないだろう。
「そうですね……。
いろいろもったいない感じになってるから、私も話をしたいところではありますね」
「収穫祭のあとにでも是非、って言ってましたよ!」
「ん、分かりました。
みなさんお忙しいでしょうし、せっかくならゆっくり話したいですもんね」
「はい!!
……あ、それと別件というか……関連というか」
エミリアさんは突然、歯切れの悪い感じで次の話題に移ろうとした。
何だかこういうの、ちょっと珍しいかもしれない。
「……何ですか?」
「ガルーナ村から大勢で来たのに、街門を通れない方がたくさんいるそうで……」
エミリアさんはちらっとリリーを見た。
それに釣られて、私もちらっとリリーを見た。
……いやいや、その話も今さらだ。
しかもこんな席でそれを言い始めるなんて、さすがにエミリアさんでも――
「……ねぇ、ママ。私はもう、大丈夫だから」
「――え?」
思いがけず口を挟んだのは、リリーだった。
「私、大丈夫なの。
きっと私の力、怖いんだよね? ……それはもう、知ってるの。
だから、怖がられても大丈夫なの」
……んー?
んんー……。んー…………。
……まさかリリーから、こんなことを言われる日が来ようとは……。
私の思っている以上に、リリーはしっかりした子なのか。
あまり変わっていないように見えて、周りをちゃんと見てくれている。
それなりに成長してきたということか……。
……いや、でも……。うーん…………?
私は頭を抱えて、しばらく悩み続けた。
本人が言うのであれば――という思いもあるが、それを判断するのは――という思いもある。
どちらも正解かもしれない。
ただ、個人的には後者を採用したいところではある、けど――
「――……分かった。
でも、リリーをいじめる人は、私は絶対に許さないからね」
……そこだけは譲れない。
誰もがこの街に入れるようになるというなら、罰の方をずっと重くしよう。
それなら問題は無いはずだ。……とすると、これからはそっちの整備も必要になるのか……。
悩む頭を上げてみれば、エミリアさんとリリーが、離れたところでハイタッチのような仕草をそれぞれしていた。
……もしかして、エミリアさんとリリーはグルだった……?
恐らくじとっとした私の目に気付くと、二人は何事も無く食事に戻った。
ぐぬぬ、グルで確定か……。
エミリアさんが今さら、こんな話を急にするのもおかしいと思ったんだよ……。
――でもきっと、リリーとしても、この話題は触れにくかったのだろう。
いつもは何でも気兼ねなく話してくれるのに……。
幼いながらも、気を遣うようになったということか。
…………何だか時間の流れを感じてしまう。
いや、それはきっと、喜ぶべきところなのか……。
コメント
1件
**はる。だわ。** リリーが「私はもう、大丈夫だから」って自ら言い出したの、めちゃくちゃグッときたな…。アイナが「リリーをいじめる人は絶対に許さない」って断言するのも、親としての強さが出てて熱い。エミリアさんとリリーの“グル”っぷりも笑ったし、親子の成長と絆がじんわり伝わるいい回だったわ🔥