自分が高校生にもなってこんなに盛大に風邪をひくとは思っていなかった。昨日突然の通り雨にあって、けど暑いしすぐ乾く、なんて呑気に考えていたら夜くらいからだんだん寒気がして喉も痛い。
朝起きてなんとか水分はとっているけど身体が重たくて頭もいたい。
今日は自習行けないな···あいつ、寂しがるかな···。
ぼんやりとした頭で1人で教室にいるあいつの姿が思い浮かぶ。
けどまただるさが襲ってきて眠って眠って、ご飯も食べずに寝て気づけば夕方になっていた。
「頭痛い···寒いし···ゴホッゴホッ」
全然良くならない体調、家には特に薬も無くてどうしようかと倒れているとインターホンが鳴った。
うちに訪ねてくるのは元貴くらいしかいない、重い体を引きずってドアを開けるとそこには意外な奴が立っていた。
「な···んで···ゴホッ」
掠れた声を出して思わずフラついた俺をあいつ···藤澤先生は支えてそのまま家に入って来た。
「···風邪かな、すごい熱、薬は飲んだ?」
首を横に振る俺を抱えてベッドまで連れて行ってくれる。
「薬買ってくる、すぐ戻るから」
そう言って出ていったかと思うと少ししてあいつは汗だくで帰ってきて薬を飲ませてくれて氷枕を置いてくれる。
おでこにも冷たいタオルが乗せられて気持ちよさにほっとする。
なによりもう一人ぼっちじゃない安心感が嬉しかった。
喉の渇きで目が覚める。
隣のリビングに明かりがついていてもしかしたらあいつがまだいるんじゃやいかと声をかける。
「···せんせい?」
「起きたの、熱測ってみて。あと経口補水液飲んで」
テキパキと俺の身体を起こして氷枕を交換してくれる。
「熱だいぶ下がったね。着替えようか、はい、身体拭いてあげるから脱いで」
「え、それ···は···」
さすがに、と抵抗すると真剣な顔で見てくる。いつもとは全く違う表情に俺はそれ以上言えずに素直に従った。
「ゼリーとかアイスあるよ、おかゆも。なにか食べられそう?」
「じゃあ···ゼリーほしい···」
ゼリーを食べてまたベッドに横になるとあいつはようやく安心した顔で少し笑った。
「なんで···来たの···?」
「最初は、用事が出来て今日来れなかったのかなって思ってたんだけど···一人暮らしだし、万が一何かあったらって不安になって、気づいたら···結果的に来て良かった」
俺を心配してくれたんだ。
ただの生徒なのに、こんなにも。
「もう、大丈夫だから···ありがとう···」
素直にお礼をちゃんと言えたのは初めてかもしれない、チラリと見たあいつは嬉しそうだった。
「眠れそう?僕ちょっとそこのソファ借りていいかな、そばにいるから何時でも何かあったら呼んで」
「いや···もう、そこまでは···」
本音を言うと1人の部屋は弱っている時は寂しすぎて、嬉しいけどさすがにそれは先生の域を越えてるんじゃないかって、迷惑をかけてしまうかもしれないと思った。
「病気の人は気を使わないの。もし明日良くならなかったら病院に連れていくよ。どうせ僕も家に1人なんだから···そばにいさせてよ」
こいつの方が寂しいんじゃないか、と思うくらい悲しい声を出されて心臓がきゅっとなる。
「···じゃあ、お願いします···」
そうお願いする俺の頭を優しく撫でて電気を消して優しく胸のあたりをトントンしてくれる。
母親みたいだ、と思って自分は今でまそうされたこともないのに、と少し可笑しくなった。
「···ありがと」
いいんだよ、っていうあいつの声と一定の優しいリズムと誰かがいる安心感とで俺は久しぶりにゆっくりと朝まで眠ることが出来た。
コメント
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ほんとにね、けど先生が来てくれて良かった···🥲
風邪なのに、病気で弱ってても大丈夫って言っちゃう若井さんが⋯⋯強がらなくていいのになあ。