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部活も終わり、もう帰ろうかと鞄を持ったところで、声を掛けられた。
『先輩〜飴いりますか〜? 人参味なんですけど』
『人参……?』
あんた朝比奈先輩に渡すの!? とその言葉を皮切りに二人で話し掛けに来た後輩は言い合いを始めた。
人参、と言われて思い浮かぶのは絵名の顔。飴なら食べれるのだろうか、少し気になる。人参味の飴……。
『ありがとう、貰っておくね』
『ちょっと、先輩に気を使わせちゃったじゃん!』
そしてまた言い合いを始める後輩。仲がよろしいことで。
────
そして今、肝心の絵名を探すためにセカイに来ている。いないと嫌なので、ミクに今セカイにいるかをちゃんと聞いておいた。本人に直接聞くと気を遣わせるし、たまたま出くわした感じの方が丁度いいのだ。いつぞやが連絡をくれと言っていたが、迷惑になることはしたくなかった。
歩いていると、すぐに絵名の姿が見つかった。絵名は作業をしている様子。しかし唸って調子が悪そうだ。ただこちらの様子には一切気がついていない。
隣に向かって歩いていくが、全くこちらを見ない。遂には座ってしまうが、全くこちらに気が付く気配がない。私は飴を手持ち沙汰に見つめる。口を噤んでいるが、独り言が多い。私は袋を開けて、飴を手に取る。
「こうじゃない、いいとこだったんだけど、何がだめなんだろっ──ぅ」
驚いて肩を小さく跳ねさせた絵名は、こちらをゆっくりと向き眉を寄せて、難しい顔をした。飴は流石に口の中には入り切らず、唇と歯に当たる形となった。そして口を開いてくれたので、飴が転がり込む。
「びっくりし──ッッ!?」
話の途中で急に目を見開いて私の肩を掴むまふゆ。
「どうしたの?」
「なにこれ、まずっ、不味いんだけど!」
「それ人参味。ちゃんと人参の味するんだ」
「なんか人参特有のあの風味がめちゃくちゃ感じられて本当に最悪なんだけど本当に無理まふゆ絶対許さないから!」
「ごめん。食べ切れる?」
「無理に決まってるでしょ!」
少し涙目になっている絵名。余程まずいらしい。
「もうほんっと許さないからッ!」
「じゃあ貰うよ、口開けて」
「まって、どういう風に取るの?」
「手で」
「衛生面! その後どうするの?」
「食べるけど」
「まふゆは口直し用の何か持ってきて! この飴頑張って噛み切るから、美味しいやつ何でもいいから、持ってきて!」
「分かった」
別に、味も感じないし食べるけど、そこまで何を気にしているのだろうか。悪いことをしてしまったし、美味しいお菓子を貰ってこよう。