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藤澤 side …
電柱の後ろに寄りかかり、ずるりと座り込んだ。なんだか、もう2人のことを見るのもバカバカしくなってきた。それでも、やはり気になってしまう自分がいて、再び電柱の隙間から2人を覗き込む。
「…若井」
「んー?」
2人の会話が聞こえてくる。嫌だ、聞きたくない。耳を塞ぎ、2人の行動を見る。何を会話しているのかは分からないが、それでもきっと幸せそうな話をしているのだろう。笑顔で会話を交わす2人は、僕が見た事ないぐらいに幸せそうな顔をしてた。
2人はまたしても見つめ合う。なんだか、そういう雰囲気だな、なんて思ってしまう。次の瞬間、どちらかが先に唇を重ねた。ゆっくりと慎重で、それでも慣れているかのような、甘い口付けに見えた。もう分かっていたこと。それなのにどうしてだろう。
どうしてこんなにも苦しいの?
唇を離した2人は何かを話してから、すぐ後ろにある大きなマンションへと入って行ってしまった。あの大きなマンションは若井の家でも、元貴の家でもない。きっと2人だけの空間、つまり2人は同居をしているのだろう。この3日間のオフは、同居の準備でもしていたのだろうか。だから元貴は珍しくオフを取っていたのかな。
「…もう一緒には帰れないじゃんか、笑」
小さくため息のように呟いた。あの日、また一緒に帰ろうと誘う僕に対して、元貴は少し曖昧な返し方をした。今なら君がそんな返し方をした理由がわかるよ。君は僕を気遣ってくれたんだよね。僕が君を好きだということ、きっともう君は気づいていたんだ。だから、「ごめんね、もう俺には相手がいる」なんて言わなかったんだ。君なりの優しさ、君なりの気遣い。それはとても優しいように見えて、僕には痛くて苦しいものだった。
「…好きだよ、元貴」
もしもこの気持ちをもっと早くに伝えていれば、状況は変わっていたのかな?どうして元貴は若井を選んだの?もしも僕と若井が同時に君に好意を伝えたら、君はどちらを選んだの?答えは簡単。
「きっと若井だ」
僕よりも遥かに長く元貴の傍にいたのは若井だ。僕と元貴が出会うよりも数年程早く出会っていたんだ。それに2人は同い年で、仲が良くて。僕には到底埋められない物が、元貴と若井にはあったのだから。
その日の夜、僕の長きに渡った”片思い”は”失恋”というもので幕を閉じた。だが、不思議と涙は出てこなかった。きっと、僕はもう心のどこかで感じ取っていたのかもしれない。僕と元貴の埋められなかった距離、元貴と若井の秘密の関係も、全部。きっと僕は気付かないふりでもしていたのかな。
コメント
9件
うわぁ!見てない間に更新されてた🥹🥹涼ちゃん分かるよ、辛いのめちゃ分かる...
3人付き合っちゃう?
どっちの関係進めればいいんだこれ🫠🫠