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終焉 下
抱きしめ合ったまま、二人は長い沈黙に沈んでいた。
雨音がすべてを洗い流していくようで、かえって残酷だった。
やがて凛が小さく呟いた。
「……兄貴、これで最後にしよう」
冴の心臓が凍りついた。
「凛――」
「これ以上は、駄目だ。俺たちはサッカーで並び立つ。それだけだ。
今日のことも、言葉も、全部……なかったことにする」
その声は涙で震えていた。
なのに、決意は揺らがなかった。
冴は返す言葉を持たなかった。
愛している、と叫びたい。
離したくない、と縋りたい。
けれど――凛を壊すわけにはいかない。
冴は腕をゆっくりと解いた。
冷たくなった体温が、雨に紛れて消えていく。
二人は見つめ合い、何も言わずに背を向けた。
歩き出した背中は、もう二度と交わらない。
兄弟である限り、この想いは死ぬまで封じられる。
愛しているのに、愛してはいけない。
その矛盾が心臓を削り続ける。
――それでも、これが二人の選んだ答えだった。
永遠に断ち切られた想いだけが、雨の匂いとともに胸の奥で燃え続ける。
完