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月が高く昇り、雪が静かに舞う夜。
ぬらりひょん・ないこは、焚き火の片づけを終えて立ち上がる。
ふと、背後にまだ残っている気配を感じて振り返ると――
「……初兎?」
雪女・初兎が、少し距離を置いて座っていた。
その白い髪が、夜風にそっと揺れている。
「どうした? 寒くなってきたし、そろそろ――」
「……行かないで。」
その声に、ないこは一瞬動きを止めた。
初兎は、俯いたまま、
ないこの着物の袖をきゅっと掴んでいた。
「……もう少しだけ、一緒にいて。」
ないこは、驚いた顔をして、それから少し笑う。
「……今の、けっこうズルいな?」
「……え?」
「いつもの初兎なら、“寒いから”とか理由つけそうなのに、
今日はストレートなんだなって。」
初兎は、そっと袖を離そうとした。
でも、今度はないこがその手を取る。
「いいよ。俺も、帰る気なかったし。」
「……ほんと?」
「うん。お前がいるなら、雪の中でも寝れるくらい。」
その言葉に、初兎の目元がやわらかくほどける。
ないこは火の名残りにあたたまりながら、
肩を寄せて、彼女の髪にそっと手を伸ばした。
「……今日、お前が袖をつかんだこと、
たぶんずっと覚えてる。」
「……なんで?」
「だって、嬉しかったから。
お前が、俺を“必要だ”って顔してくれた。」
「……そんなん、ずるいのはどっち。」
「うん、両方ずるい。」
ふたりの間にあった距離が、
今夜また、ひとつ溶けていった。
雪が、まるで祝福のように舞い続ける。
世界が白く包まれても、
その手のぬくもりだけは、確かにそこにあった。