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楽と睦月が寺院に戻ると、驚愕の二人組がいた。
「行方くんの言っていた “嫌な話” ってコレかな……」
睦月は二人を見るなりそっと溢した。
寺院の前で待っていたのは、楽が施設から助けられた時のメガネの異能探偵局員と、異能教徒との戦闘になった際に二人を瞬時に移動させた夏目と言う男だった。
「改めて紹介しよう。こちらのメガネの方が春木くん。こちらの帽子の方が夏目くんだ」
「お久しぶりです、睦月さん。楽くんの話は玉露さんから聞いてますよ。とんだ “異端児” だとね……」
「玉露さん……隊長が帰って来てるのか……!?」
すると、緑髪の綺麗な女性が姿を見せた。
「遅かったですね、睦月副隊長」
睦月は、途端に敬礼で示す。
「楽、この方が本来のこの異能祓魔院の隊長、八幡玉露隊長だ。敬礼を」
楽は渋々と敬礼で示した。
「それで、隊長がお戻りになっていて、探偵局の二人がいて……一体何があったんですか……?」
「これを見れば直ぐに分かりますよ」
そう言うと、夏目は寺院真ん中に聳える大きな祭壇のカーテンをサラッと開けた。
「愛!!」
そこには、愛が寝かされていた。
「なるほど……理解した……」
睦月は、難しい顔を浮かべながらそう答えた。
「しかし、これは事件です。順を追って説明します。そして楽くん、愛ちゃんを救うには、君の “力” が必要だ」
そう言うと、夏目はニコッと微笑んだ。
「まず初めに、先日現れた異能教徒の二人組は、異能特殊禁錮に捕えられていたにも関わらず、直ぐに脱獄された。やはり、彼らの異能の正体は掴めない」
夏目は語りながら、楽の背後に回り込む。
「そして、この楽くんがずっと幽閉されていた施設は、以前より異能探偵局が探っていた『異能教徒の暗殺部隊アジトの一つ』だった。しかし、俺たちは彼らを無害な子供たちだと判断し、様々な施設へと送った」
睦月の顔色はドンドンと悪くなっていた。
「睦月さん、もう分かりますよね? この子供たちは、ただ暗殺の道具として使われていた訳じゃない。『霊を扱う異能暗殺者』として育てられていたんです」
「しかし……異能力は生まれ持った力……。子供は50人近く居たんだろ……? そんな数を……」
言いながら、睦月はハッとした顔を浮かべた。
「そう、十年前の『異能教徒大量殺人事件』に繋がる。きっと、愛ちゃんの家族もその時に殺されたんでしょう。その事件の際、被害者の家に必ず記されていた言葉が……『神の導きのままに』」
「と、言うことは……」
「そうです。彼ら異能教徒は、未だ俺たち異能探偵局により施設へと送られた子供たちを探しています。そして、愛ちゃんの施設の人間も、殆どが殺された」
すると、春木が睦月の目を見て更に言葉を足した。
「他の子供たちは異能警察管轄の下に集められています。ただ、愛さんに聞いたところ、この異能祓魔院へ行きたいと嘆願されました」
そして、楽の目を見る。
「愛さんは、楽さんの “目になりたい” と……」
「それで、玉露隊長……と言うわけか……」
「そう言うことです。儀式は既に始めてありますよ」
先程から分かりそうでついて行けない話に、楽はもどかしさを覚えながらぐいと顔を出した。
「あ、あのさ、愛はどうなるんだ? 俺は何をしたらいいんだよ……!!」
八幡は、楽の背に合わせて屈む。
「楽くん、初めまして」
「あ、あぁ……初めまして……たい、ちょう……?」
「ふふ、形ばかりの隊長です。隊長と呼ぶのは変わらず睦月でいいですよ。私はこの寺院の管理をしているだけですので」
八幡は、穏やかで優しい女性だった。
「愛さんは、ここの寺院で預かることになります。もちろん、健康上何も問題はありません。しかし、もうこの目で何も見たくない、とのことでした」
「それで……どうするんだよ……」
「愛さんは楽くんの目になりたいそうです。私の力で、愛さんの魂を取り出します。その間、愛さんの身体には被害が及ばないよう、この寺院を守る守護霊の一体に入らせます。では、愛さんの魂はどうするでしょうか?」
ニコニコと微笑みながら、八幡は尋ねた。
「俺が……憑依する……ってことか……」
「そう言うことです。愛さんの魂は楽くんが憑依。そしたら愛さんの異能は楽くんに使用でき、楽くんも身体の中で愛さんとの交流が可能、と言うことです」
「じゃあ、もし仮に……俺が死んだら……」
「君も、身体にいる悪魔さんと愛さんも、全員死にます」
これも初めての感情だった。
楽は生まれて初めて、言葉にならないゾッとする不安感を背中に感じていた。
「それでも、やりますか?」
「あ……俺はさ……だって……自由に……楽しく……」
そんな時、先程の行方の言葉が脳裏に浮かぶ。
『守りたいと言う想いが、人を強くするんだ』
楽は、ゴクリと唾液を飲んだ。
「やってやるよ……。俺が、愛を守る……!」
八幡はニコリと笑うと、愛の元へ登る。
愛の身体に触れると、そのまま魂を取り出した。
愛の魂は意識がないようだった。
「楽くん、それでは……」
「お、おう……!」
楽は、愛の魂をそのまま掴んだ。
「憑依……!」
人体を要しない魂は眠る必要がない。
その為、楽の身体に入った瞬間、愛の意識が戻った。
「お、おい……愛……楽だ……分かるか……?」
「楽……久しぶりね。なんだか少し変わったみたい」
「俺が……変わった……?」
そう言う愛は、温かい情念を感じているのが伝わった。
そして、ふと愛を見る。
その瞬間、ぐらりと脳内に映像が流れた。
「わーい! このクッキーのが私のね!!」
それは、数年前だろう、今の愛からは想像も付かない元気な笑顔を見せる幼い愛の姿だった。
「ちゃんと夕ご飯食べてからにするのよ! ふふ」
そうして、優しそうに笑う母らしき女性。
暫くすると、歳の離れた愛の兄と父が帰宅した。
どうやら、愛の誕生日を祝っているようだった。
部屋が暗くなる、バースデーケーキに火が灯る。
家族は歌い、その中で愛は楽しそうにしていた。
父母と兄からプレゼントを貰っていた。
そうして夜も更け、愛は眠りに着く。
「おい! お前ら何者だ! 人の家だぞ!!」
愛は、父の怒号で目が覚める。
暫くすると、二人の悲鳴が聞こえてきた。
寝惚け眼、ゆっくりと階下へ降りる。
そこには、両親の死体が転がっていた。
「お父さ……」
その瞬間、プツリと愛の映像が途絶えた。
「ハァハァハァ……」
「ど、どうした……? やっぱ二体同時はキツいか?」
心配そうに楽を見遣る睦月。
「いや……今、愛の過去を見てた……多分……。こんなの、愛はずっと見てたのかよ……」
「そんなに……酷かったのか……?」
「酷いってモンじゃねぇ!! 俺には、色んな感情が分からねぇ……。でも、愛の中の、苦しい、とか、怖い、とかって感情が、映像と一緒に流れ込んできた……」
睦月は黙り込んでしまった。
「でもよぉ……睦月隊長……」
「な、なんだ……?」
「 “コレ” を乗り越えて、愛を守れたら、俺は強くなれるってことだよなぁ……?」
その言葉に、夏目はほくそ笑む。
「ふふ、うちの番犬くんに、噛み付かれでもしたんですかな?」
「ウッ……」
睦月はあからさまに苦い顔を浮かべていた。
「愛……お前の苦しみ、俺が受け止めたぜ……!」
「ふっ、楽は単純な奴じゃな」
身体の中で悪魔はそっと微笑んでいた。
「悪魔さん、そんな姿だったんだね」
憑依されてる同士の二人は、互いの姿が見えていた。
「時が来るまで言うでないぞ。ここに居させてやるのじゃ。まったく、妾の特等席じゃったのに」
「ふふ、ごめんなさいね」
「楽の中は、存外楽しいところじゃよ」
「えぇ、私も……そう信じてる」
暫くし、異能探偵局の二人は帰宅して行った。
愛の身体の中には、異能祓魔院隊長、八幡玉露が契約している緑の神、そのお付きの守護霊、銀格と呼ばれている女性の魂が代わりに入った。