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ある時、楽は同じ歳くらいの少年に話し掛けられる。
「やあやあ、こんにちは」
「あ? なんだ、お前……」
彼の姿は、見るからにボロボロの格好。
孤児のように髪が伸び、前髪で目が隠れていた。
「僕は異能教徒に所属している、鬼道と言う。君の異能力と “同じ力” を持っているんだ」
その言葉に、楽は一気に距離を空ける。
「異能教徒だと……?」
「あぁ。君と同じ施設に入れられた番号、1番だ。一番最初の暗殺者として育てられた。先日、やっと異能教徒の連中が僕のことを迎えに来た。そして君のことを聞いた」
「お前も利用されてた子供か……。なんで、異能教徒に加担なんかしてるんだよ」
「加担……そうじゃない。神に必要とされているんだ。僕たちは選ばれた人間だからね。そして、この世界で最も強い異能力者になれるんだ!!」
そして、鬼道の目はギロリと現れた。
「憑依……付与!」
そうして、鬼道はいきなり楽を殴り付けた。
ドン! と吹き飛び、楽は空中上を飛ばされている。
「なあ、俺、今吹き飛んでるけど、この後ぶん殴っても、せーとーぼーえい? ってやつになるよな?」
「そうね、この場合なら正当防衛、でもやり過ぎたら過剰防衛になるから気を付けて」
「うし! 悪魔、行くぜ……! 憑依…支配……!」
楽は空中上でピタッと止まり、電話を一本入れた。
「あー、あー、繋がってんのか……これ……? 相手の声が聞こえねぇと分かんねぇな……。まあいいや、二番街の河原で異能教徒と交戦中。以上」
ブチっと切り、楽は思い切り地面を蹴り飛ばす。
「ただいま」
そして、楽はその勢いのまま鬼道を殴った。
しかし、鬼道は全く動かなかった。
「コイツ……!」
「あれ、もしかして “視えてる” の……?」
「顔……両手両足……場所ごとに全部別の霊を憑依させてやがる……! 俺にはこんなこと出来ねぇぞ……!」
「そう、君には出来ない。僕と君の異能は確かに『憑依』だ。でも、君の異能力の上位互換ってことだね」
そして再び、見えない速度の拳に殴られた。
悪魔を憑依させてる為、吹き飛びはしなかったが、数メートル後退させられた。
「痛ってぇ……」
「はは! 流石に君でも分かるだろ? 僕には勝てないんだよ!! 諦めて、僕と共に行こう。迎えに来たんだ」
「迎えに来た……?」
「ああ、そうだ。僕も、君も、選ばれた人間だ。異能教徒に必要とされている人間なんだ。それに、異能教徒から神の力を授かれば、僕たちはもっと強くなれる……!」
楽は、パンパン、と砂埃を払う。
「強く……なれるのか……」
鬼道は、楽の言葉にニヤリと笑みを浮かべる。
「そうだ。強くなれる。今よりももっとだ……!」
パァン!!
その瞬間、鬼道の眼前を弾丸が通過した。
「なんだ!?」
「強くなれる話は悪くねぇ。でもよぉ、お前が憑依させてる悪霊共、すげぇ苦しそうだ」
楽は、鬼道の眼前までゆっくりと迫る。
「楽!! 大丈夫か!!」
「わざと当たらないようにするの、めちゃくちゃ難しいから、次は出来ないですよ、隊長……!」
「クソっ、異能祓魔隊を呼んでたのか……!!」
ここに来て、異能祓魔隊の車が駆け付けていた。
「鬼道っつったか。俺は確かに強くなりてぇよ」
「くそっ……殴るなら殴れよ!! お前の拳なんか俺の防御の前じゃ歯が立たないんだ!!」
しかし、楽は殴りはしなかった。
「俺は気付いたんだ。苦しい奴がいたら、楽しくねぇ。お前の苦しそうな悪霊、俺は殴らねぇ」
「なんっ……」
その瞬間、楽の前に異能祓魔隊のメンバーが立ち並んでいた。
「ふっ、まあいいや。今日は挨拶程度だ。じゃあね」
そう告げると、鬼道は跳躍して帰って行った。
「楽、彼で合っているのか!? 見たことないが……」
「あぁ、自慢気に自称してたぜ。俺と同じ、暗殺部隊に使われてた奴だ」
「彼の異能は……分かるか……?」
「俺と同じ『憑依して操る異能』だ。でも、アイツはいろんなとこに部位ごとに憑依させてる。俺の上位互換みたいな異能だ」
「そうか……。そこまで一人で探ってくれたのか……。しかし、彼のそんな異能、どうやって分かったんだ……?」
「え、視えるだろ……? 足とか、手とか……」
しかし、祓魔隊メンバーはキョトンと顔を浮かべる。
「それは恐らく、楽にしか見えていないものだ……」
「もしかして、この前の異能教徒の二人組に纏わりついてた悪霊も、視えなかったのか!? だからあんな風にみんな反応が遅れてた……!?」
「楽、ちょっと待て……今の話、本当なのか!?」
「隊長……これって、愛ちゃんの “視る” 能力なんじゃないでしょうか……?」
「いや、違うだろう。前回、異能教徒襲撃時には、まだ愛は楽に憑依されてなかったんだ……。楽の力だ……。異能教徒は暗殺施設の子供たちを攫いに来ている。恐らく、その時にでも特別な薬か……」
そんな暗い空気の中、楽は目を瞑った。
「そうではないぞ、睦月とやら」
「お前……は……?」
楽は、女性の声を発した。
「妾は楽の中の悪霊、悪魔と名付けられた者じゃ」
「お、お前が……楽の中の悪魔か……!」
「楽が本来の人間に視えざる力を持っているのは、妾の力じゃ。妾を憑依状態だから視られるのじゃ」
「お前……楽の身体を逆支配したのか……! お前の本当の目論みはなんだ!!」
睦月は途端に熱くなる。
異能教徒がここまで好戦的に動いている中で、楽の中の悪魔にも問題を起こされたら、それこそ手が追いつかないからだった。
「勘繰るな。妾が睦月と話したいと断った上で楽は妾に身体を預けたのじゃ。妾は平穏が好きでの。これだけは主らに伝えておこうと思ったのじゃ」
全員がゴクリと唾液を飲む。
祓魔師の仕事をしていても、こんなことは全員が初めてだったからだ。
「楽は主らが思ってるほど危険な子供じゃない。特殊能力に恵まれている訳でもない。楽の “視える力” も、妾の力での。妾はこれでも元神じゃ。それくらい視える」
「それでも……楽の憑依し、それを支配する異常な力は凄まじいと思うのだが……」
「アハハ、それも妾を憑依してるからじゃよ。此奴がそこらの悪霊を憑依したとて、驚異的な身体能力は手に入らなかったじゃろ。だから、そこまで危険視するでない」
「悪魔……さん。本当は……貴女は……」
「睦月、それ以上言うでない。妾は悪霊に堕ちた身。人間に加担してやるのも、外に出られている、それだけじゃ」
そう言うと、楽の表情はスッと変わった。
「お、話終わったか?」
「あ、ああ……」
睦月は、未だ険しい顔で、楽を見遣っている。
「なあ〜、腹減ったし帰ろうぜ〜」
そう言うと、楽は悠長に背を向ける。
「な、なあ……楽……」
睦月は、表情を変えずに楽の背に問う。
「なんで今回、俺たちを呼んだんだ?」
「あー? だって、異能教徒が出たら連絡しろって、そう言ってたの隊長じゃねぇーか」
「いや、まあ……そうなんだが……」
楽は、まだ背を向けたまま付け足す。
「まああと、この前隊長が俺のせいで謝ってんの見て、仲間が傷付けられるの嫌だなって思ったんだ。俺でも思うってことはよ〜、真面目な隊長たちなら、もっと傷付くんじゃねぇかなって、思ったんだよ」
そして、「ハァ〜!」と大きく伸びをする。
「さ、早く飯いこーぜ。またラーメン奢ってくれよ!」
そのまま、楽はスタスタと車に向かって行った。
「仲間ですってよ、隊長」
神崎はニヤニヤしながら睦月に迫る。
シスターも釣られてニコニコとしていた。
「仲間……か……。まさか、楽の口から、俺たちを仲間と言ってくれるとは思ってなかったな……」
「まだ、タバコは吸われますか?」
三人は夕焼けの空を眺めていた。
「ちょっと、止めてみようかな」
そして、二人に向けて睦月はニカっと笑った。