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◇記憶喪失系
◇キャラは安定してる
◇付き合ってる
『おはよう。』
低い安定感のある声でそう声を掛けられる。
聞き覚えはあるが…昨日までの記憶に霧が架かったみたいに思い出せない。
『憶えてない…よね?』
何が可笑しいのか、そう言いながら彼は蜂蜜色の瞳を細め控えめに笑う。
『詳しいことは朝ごはん食べてからにしよ?着替えて下に降りておいで。』
そう言われてもまだよくわからないのでぼーっとしていると、
『それとも…着替えも手伝った方がいい…?』
分かってて言っているかは知らないが流石にそこまでしてもらうわけにはいかない。
「いや…ひとりで、きがえ、ます、」
『うん、先、下行ってるよ』
そう言って彼は部屋を出ていった。
何をする予定かは分からないけど、クローゼットの中から1番目について、1番綺麗にされている服を一着、手に取った。
シンプルなデザインの白いキャミソールのワンピース。
短い靴下を履いて部屋を出る。
階段を降りて先程の彼を見つける。
『早かったね』
「う、ん、」
『お腹空いてるでしょ?ご飯食べようか』
「うん…」
テーブルを見ると綺麗に盛り付けされた、朝ご飯には少し豪華なパンケーキとフルーツが盛り合わされていた。
「美味しそう…!」
『”前”も美味しそうに食べてたよ、』
「前…」
『食べながら聴いてくれる…?』
そこから僕の体のこと、記憶、彼との関係など、沢山の説明を受けた。
彼とは付き合っていて、同棲をしているとのこと。
僕は重度の記憶障害で、1日しか記憶の維持ができないそう。
『わかった…?』
「うん、なんとなくだけど…。」
「…ねぇ、ひとつ聞いてもいい?」
『うん、いいよ』
「僕の記憶を…戻そうとか…思わないの…?」
『…思うよ、勿論』
彼、もといとらくんは少し間を空けて、綺麗な蜂蜜色の瞳を少し伏せるようにし、言った。
『…今日は、何する?』
『何処か行こうか…?』
「一緒に出かけたい」
出掛ける準備をする為、自室に来た。
鞄の中に、携帯、ハンカチ、財布など最低限の物を詰める。
携帯の中はまだちゃんと見れていない為、時間があれば見ておきたい。
とらくんの運転で行くらしい。
後ろの席に乗せて貰って携帯の電源を入れる。
特に何も変わったところはない。唯一つのアプリを除いて…
そのアプリのアイコンは青い可愛らしい猫で、名前は日記とあった。
どうやら自作のアプリらしい。
興味本位で起動してみる。
【はじめまして、こんにちは、明日のボク。】
そんなベタな文章が表示される。
【とらくんから、記憶について説明は受けてるよね?分からなければ彼に聞いてみてね】
【これは昨日までの君が書いてきた日記のデータが保存されているよ!】
【1日経てばキミが居なくなってしまうも同然。だから、今日も書いてくれると嬉しいな! 】
そんなちょっと怖い文章が表示される。
次に一ヶ月分位の日記のデータが纏めて表示された。
興味本位で1年前の今日の日記のデータを見てみる。
どうやら、買い物に行ったみたいだ。
他の日記も見てみると、不意に無いはずの記憶が蘇るような、不思議な感覚に見舞われた。
『着いたよ。降りられる?』
そう声が掛かり、車から降りる。
『ショッピングモール。今日はゆっくり買い物でもしよう?』
「うん。………楽しみ…。」
お昼時、ショッピングモールのカフェに入った。
とらくんに注文を頼んで、席を確保しておく。
暫くすると、トレーを持った彼が此方の席に向かって来る。
「えっ…?」
『えっと…誕生日、なんだ、さくちゃんの。だから、ちょっとしたお祝いとして…』
トレーには、一人で食べるにはほんの少しだけ大きいケーキが乗っていた。
「ははっ、ありがとう、態々。」
『よかった、喜んでくれて。』
「あとね、戻ったよ、記憶。多分だけど、」
『えっ…!?』
よく光の通る美しい蜂蜜色の瞳が少し潤んだ。