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ひとりその場に残された俺は言われた言葉の意味を考えながら家に帰った。
夜ご飯やお風呂を済ませて暗くした部屋、ベッドに寝転んで思いを巡らせる。
辛そうな悲しそうな表情。
ピアノなんか弾かない、という言葉。
···でもあの部屋に居たのは先輩だけ。
いくら考えても答えなんか出なくて、俺はとりあえずもう一度あの部屋に行ってピアノを弾いているのが誰かを確認しようと思った。
それで本当に弾いていたのが涼ちゃん先輩なら···先輩には何か事情があるということで。俺がそれを聞けるほどの関係かと思うと心臓がきゅっとなる。
けどもし、もし···何か辛いものをあの笑顔の裏側に抱えているなら、少しでも俺が引き受けてあげたいと思う。
「あんな表情もするんだな···」
だんだん瞼が重くなり、俺は眠ってしまっていた。いつも笑顔で現れてくれる夢の中の先輩も今夜は悲しそうな顔をしていた。
月曜日の放課後、俺は職員室へ向かい音楽の先生にあのピアノがあるであろう部屋の事を尋ねてみた。
「大森くんもピアノ弾きたいの?」
「あ、まぁ···あの部屋ってピアノあるんですか?」
知ってて聞いたんじゃないの?と不思議そうな顔をして先生は俺に鍵の貸し出し表を渡してくれた。
そこには、ほぼ毎週金曜日に借りている涼ちゃん先輩の名前が書かれていた。
「あの部屋って何の教室なんですか?」
「今はおっきなピアノがあるだけで使用してないの。去年定年退職された先生がすごくピアノが上手で調律なんかもされてて。それを知った藤澤さんがぜひ使わせてほしいって···それから、希望する生徒には貸し出ししているのよ」
と、言ってもバインダーに挟まれた貸し出し表には先輩の名前しかなかった。それを先生へ返しお礼を伝え、また借りたい時はお願いします、と頭を下げて俺は職員室を後にした。
決めた、金曜日にもう一度あの部屋に行って確かめる。
ただ、この前のことがあったからしばらく先輩は行かないかもしれない。
俺は、この前の事には触れずにチャンスを待つことにした。
その週の金曜日に会った先輩は最初またピアノの話を持ち出されるんじゃないか?と少しいつもより口数が少なかったように感じた。
俺はなんにも気にしてませんよ、というような顔をしていつも通りに食事をして、何気ない話をした。
騙すようで少し心苦しかったけれど。
先輩のことを知りたい気持ちが強かったから。
ごめんなさい。
あっと言う間に日々は過ぎていてき、俺は毎週月曜日にこっそりと職員室に貸し出し表を見に行くのが習慣になっていた。
やはりしばらく先輩は部屋を借りていないようで空白が続いた。
そしてそれは6月に入ってもうすぐ梅雨入りも近い時期だった。久しぶりにその表に涼ちゃん先輩の名前があった。
それを月曜日に確認した俺はその金曜日にあの部屋に行くと決めた。