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ワンクッション
この話には
・東巻
・両足欠損
・捏造 が含まれます
なんでもありな方のみ
苦手な方は回れ右
大学卒業同居ifです。
病症は都合良く捏造してます。
はじまります
窓辺に立ち、窓を開ける。
病室のカーテンの隙間を通った冷たい風を浴びて冬を感じる。
もう冬になったのか、と時の流れを実感した。夏の終わり頃からずっと忙しくて季節の変化にすらも気づかなかった…
「…っくしゅん」
くしゃみの音を聞いてはっと我に返る。
「…!あぁ、すまない巻ちゃん、寒かったな。」
俺はいそいそと窓を閉め巻ちゃんのねているベッドの隣に座った。
「大丈夫ッショ…」
巻ちゃんはそういいながら鼻をすする。
「いやいや、体調管理は大切だからな、風邪なんてひいてしまったら大変だ。」
それに、巻ちゃんは…
…すると巻ちゃんは入院中に伸びきった髪を垂らし下を向いて
「もう自転車に乗れないんだから風邪なんてひこうがひかないが関係ないッショ…」
あ、しまった。これはまた巻ちゃんを、
考え終わる前に、巻ちゃんの押し殺した泣き声が聞こえてきた。
真っ白で薄い手のひらを目と口に押し当てて必死に自分から漏れる音と涙を止めようとしていた。
入院してから巻ちゃんの元々細い体はさらに細く、白くなりまるで骸骨のようになってしまった。
ロードレースをしていた巻ちゃんの体との健康さが比べ物にならないのは一目見て分かる。
そんな薄くては音も涙も全て漏れてしまうだろう、俺はそう思いながら小さく震える巻ちゃんの背中をさすった。
口から必死に紡ぎ出した慰めの言葉も今は届かない
ロードレースをしていた頃の巻ちゃんは泣くどころか弱音を吐くところを俺はほんの少ししか見たことがなかった。
数ヶ月前の夏から、少しずつ巻ちゃんは変わっていった。
その日は突然訪れた。
゛いつも通り゛の幸せな一日になるはずだった。
朝起きて、隣に巻ちゃんが寝てることにうれしくなってニコニコで朝の支度を終わらせた。
その日はとてもカラッと晴れておりエアコンがないと暑くて溶けてしまいそうな天気だった。
巻ちゃんは8時頃に目を擦りながらリビングにのそのそ歩いて食卓に座った。
そこに、俺が作った俺と巻ちゃんの朝食を持って行って他愛ない会話をして楽しい朝の時間を過ごした。
食事中、巻ちゃんが「最近なんか思うように足が動かないんショ」と言うもんだから俺は「ロードレーサーたるもの自己管理は〜〜」と長々説教をしたら巻ちゃんにウザがられてしまった。
巻ちゃん勝負ができなくなってはロードレースの楽しさが半減してしまうからな!というと巻ちゃんはすこし呆れたような、でも優しい顔でふっと息だけで笑った。
昼から巻ちゃんは用事があったので、昼の支度も早めに終わらせて昼ごはんを食べた巻ちゃんを見送った。
家事やら何やらしているといつの間にか昼がすぎ、夕方頃すこしさびしい部屋に通知音がひびく。
スマホを見てみると巻ちゃんからメッセージが1件。
【足が動かなくなって○○病院にいる。来てくれ。】
俺は目を疑った。
うそだろ、巻ちゃん
巻ちゃんみたいに悪い勘が的中しやすくはないが、俺の頭の中は最悪なシチュエーションを想像していた。
いや、そんなことになるわけがないと自分に言い聞かせ暑い気温の中、身を震わせながら病院へ向かった。
「横断歩道渡ってる最中になんでか足が止まって動けなくなったから近くの人に救急車呼んでもらったッショ」
診察室のベッドで横になっている巻ちゃんはいたってなんの異常もなさそうな顔をして俺に状況説明をしてくれた。
「ああ、そうなのか…」
「足は大丈夫か?」
そう聞くと巻ちゃんは少し強ばった表情をしたが、
「最近足使いすぎてたかもしんねぇ、ちょっと休んだらすぐ回復するッショ」
と言い表情をゆるめた。
その顔を見て俺は安心した。
巻ちゃんが自転車に乗れなくなってしまうなんてのは杞憂だったのだ。焦って飛び出す必要はなかった。
「…ちなみに呼ばれて急いで来たんだが、今は何を待ってる時間なんだ?」
「ああ、今さっき足を診てもらったんッショ。それの診断待ち。」
「そうだったのか、」
そうして俺たちは俺は医者が来るまで巻ちゃんと話をして待っていた。
ロードの話をたくさんした。
俺はロードの話が巻ちゃんと出来るのが嬉しくてつい話しすぎてしまう時もあるけど全部優しい顔でしっかり聞いてくれる巻ちゃんがだいすき。そう思いながら話していた。
ガラッとドアの開く音、シャッとしきりがあげられる音がして医者が入ってくる。
「あ…先生…」
「俺の足どうなってるっショ…でしたか?」
口癖が抜けず言い直す巻ちゃんをみて思わず吹き出しそうになってしまった。
巻ちゃんと目が合うと巻ちゃんは少し恥ずかしそうに頬をかく。
だが先生はそんな俺たちとは裏腹に深刻そうな顔をしてカルテを見ていた。
その表情に気づいて少し場の空気がピリッとなる。10秒ほどの時間が経ち、先生の口が開く。
「巻島さんは、かなり重たい病気にかかっています。」
「症状は主に、筋力・体力の低下、免疫の低下、肺活量の低下などです。」
「あと少しで歩くこともままならなくなり、死に至る可能性もあります。」
そう聞き頭の中が真っ白になった。嘘だよな、汗が止まらない、巻ちゃん。
俺は強ばった体をぎぎぎと歪めながら巻ちゃんの方を向いた。
見たことがないような、今にも崩れそうな表情をしていた。
「あのっ、二度と歩けなくなるってほんとッショ?」
「まぁ、それを阻止する方法もないわけではありませんが…結局は足を切り落とすことになりますね。」
「巻島さんの場合足からどんどん広がっていく為、足を切り落とせば全身に広がる前になんとかなります。」
その答えを聞いてさらに絶望した。
日に日に弱っていく巻ちゃんを見るか、覚悟を決めた日から二度と自転車に乗ることの出来ない巻ちゃんを見るか。
巻ちゃんは、どうしたい
そんなこと言える訳もなく、その日は先生が「もちろんすぐに決めて下さいとは言えません。お二人の判断を尊重します。」「決まるまで巻島さんは一時入院でお願いします」といい部屋から出て言った。
部屋に残された俺は虚を見つめていた。巻ちゃんはベッドに入るなり、すぐに目を閉じた。
俺はその時はじめてじっくり巻ちゃんの顔を見た。
血流の悪そうな青白い肌、頬もうっすら痩けている。
ああ、俺が気づけなかったばかりに
その日から1週間、猶予を与えられた。1週間後どうするかを決めることにした。
一日目は会話にならなかった。
巻ちゃんはずっと俯いて、俺の問いかけに返事をすることはなかった。俺はひたすらに慰めの言葉を言ったがそんなの気持ちの分からない他人から言われたら腹が立つだろう。そう思っていながらも、どうにか巻ちゃんと話したかった。
2日目は少し話すことができた。
俯く巻ちゃんに、足について聞くと泣きそうな声で返事をするものだから俺まで泣いてしまいそうになった。巻ちゃんが弱っている分俺が強くいるべきだ。そう思い唇を噛み締め何とか耐えた。
3日目には大きな進捗があった。
巻ちゃんは足を切断したいと言った。足がなくなってでもでもお前と、と言いかけたくさん泣いて乾いた目尻を少し持ち上げた。
4日目そこからトントン拍子で話は進んで言った。巻ちゃんの足を切断するという選択は受理され、日程や手術方法、最終確認が始まる。医師からの質問へのこたえ方があまりに軽いものだから足が無くなるんだぞ、と思いつつ。ショックすぎるからだろうとは察していたから、俺は近くで眺めるだけだった。手術日は2日後
5日目巻ちゃんと一緒にロードに跨った。
巻ちゃんは少しふらつきながらもロードに乗り、数分軽く漕いだ後帰ろうと言ってきた。
「最後の勝負は……」
「バーカ、そんなこと言って死んじまったら灯台もと暗し?ッショ」
巻ちゃんはとても寂しそうに微笑みながらロードを押して病院まで帰った。
6日目、手術前日
この日は手術を受けられるかどうかの検査で一日が終わった。夜、俺たちはたくさんはなした。そしてたくさん泣いた。これが最後の夜みたいに、明日からも巻ちゃんは生き続ける、今までとは違うけどそれでも俺たち2人は乗り越えていける、そんな淡い希望を抱きながら絶望を薄めようと頑張った。
手術当日、ついにその日が来た
俺は巻ちゃんを手術室の前まで見送った。
そこから1時間、2時間、3時間…俺は手術室の前で待ち続けた。
そして扉が開き、先生が出てきた。
「手術は上手くいきました、これから病室に移すのでそこで状態を確認してください。」
俺はその間に家から入院用の準備を持っていき、病室の戸に手をかけた。
巻ちゃんがどうなってしまったのか、怖くて足がすくんだ。
覚悟を決め戸を開けた。
そこにはベットの上で眠る巻ちゃん。
それも大量の管に繋がれ、布団の上から見ても下半身から布団の膨らみがない。
ああ、無くなってしまったんだなと思った。
毎日ロードに乗り、共に戦った足
ひどくさびしく、その日はずっと巻ちゃんの隣にいることにした。
これから連載します
最終更新日:2026/06/05
コメント
3件
うわっ…これは重い…。でも一気に読んじゃった。 巻ちゃんの「もう自転車に乗れないんだから」って台詞が刺さる。ロードレースが全てだった人にとって、両足失うってそういうことなんだよな。手術前日に一緒にロードに跨ったシーン、最後の勝負を拒んだのも「生きろよ」ってメッセージにしか思えなくて泣けたわ。 主人公が必死に強くあろうとしてるのも伝わる。続き、どうなっちゃうんだろう…応援してる!