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「シーニャ! 上だっ」
「ウニャウッ!!」
魔物の隠れ場所になるだけあって、天井や両側の壁には小さな魔物が棲みついていた。樹洞内部は岩で出来た洞窟でもないので、所々に日が差している。レベル的に大したことは無いが戦うのには窮屈な所ということもあり、シーニャと連携して魔物を排除しまくっている最中だ。
ルティは暗闇と狭い所では拳を存分に振るえないとかで、後方支援を望んで控えている。
「ウウウ……、すり傷がたまるのだ」
「痛むか?」
「痛くは無いのだ。どっちかというとかゆいのだ」
ここでの戦いは魔法を一切使わず、森に慣れているシーニャに任せている。魔物のほとんどはコウモリが多いが、厄介なのは樹木に長く居着いている樹人《じゅじん》族だ。
はっきりとした姿は確認出来ないが、皮膚がかゆくなる樹液のような攻撃を仕掛けてきている。これには強さがあるシーニャでも完全に防ぐことが難しい。
「ルティ! シーニャに回復薬を投げてくれ!」
「は、はいっっ! 投げ……投げるんですか!?」
「急げ!」
シーニャ自身は回復魔法が使えるが、攻撃に集中している時は回復する意思を閉じているらしい。そんな時に有効なのは、ルティの料理と錬金術、それと薬師の知識だ。
薬師《くすし》としてのスキルはまだ基本でしか無いが、回復薬程度なら作れるからだ。
そう思って任せようとしたが――
「よぉし、シーニャ、行きますよぉ~!!」
「……ウニャ?」
「てぇい、てぇい、てぇぇぇぇい~!!」
「フギャッ!?」
何事かと思っていると、ルティは大量に作っていた回復薬を次々と投げまくっている。回復薬は瓶では無く改良された小さな麻袋に入っているようだが、いくら何でも投げすぎだ。
予想もしていなかったシーニャが大量の麻袋の重さで転倒していた。かえってダメージを負ったように見えるが、大丈夫だろうか。
「ルティ! あんなに重たいもんを投げなくても……」
「いやいや、軽いものですから大丈夫ですよ~! 即効薬ですからたちまち超回復! ついでに耐性も得ちゃいますよ~」
「どんな効果があるんだ……」
意表を突かれたシーニャだったが、大量の麻袋効果で辺りの魔物もいなくなったようだ。しかも回復薬の効果が効いたようでシーニャはすぐに起き上がり、おれの元へ戻って来た。
「アック! ドワーフが一番危険なのだ!!」
「かゆみとか痛みは消えた?」
「ウニャッ! それだけはドワーフのおかげというしか無いのだ……」
「そうだな……」
シーニャへの支援を成功させたとはいえ、おれに怒られるのを予想してか、ルティが頭を抱えてうなだれている。元はと言えば回復薬を投げさせた原因がおれにある。
ここはむしろ褒めるべきか?
「はぁぅぅ~……またやりすぎちゃった……」
相当に落ち込んでいるようだ。
「あ~……え~と、ルティ!」
「ひ、ひぃっ!? ……は、はい~?」
「いや、怒ってないから顔を上げていいんだぞ?」
「で、ですけど~……」
怒られる前提の表情を見せているが、とにかく優しく声をかけるしかない。
「回復薬をおれにもおすそ分けしてくれないか?」
「アック様にですか!?」
「おれには自然治癒力はあるんだが、即効薬は無いんだ。だからもらえると嬉しいぞ!」
「そっ、そういうことでしたら!」
決して嘘でもない言葉に、ルティはすぐに顔をぱぁっと輝かせた。
「アック様! それとシーニャ! ここから先はわたしがご案内します~!! 樹人族だろうとコウモリだろうと、拳で追い払いますよぉぉ!」
「それはいいが、気を付けろよ!」
「アックの言う通りなのだ。ドワーフは慌てすぎなのだ!」
「どうってことはありません! とおぉぉぉぉぉ!!」
「あ、こらっ! そんなに走らなくても――」
おれとシーニャが言ったそばから強烈な衝撃音が響いた。
樹洞の壁にでも衝突したか?
「あいたぁぁぁぁ……!! あっ! アック様、アック様! こっちへ来てくださいっ!!」
全く騒がしい娘だ。どこかにぶつかったらしいが、何か見つけたのか気にしてもいない。
「何だ? 道しるべ?」
「そうですっ! きっともうすぐ出口なんですよっ! すぐです。すぐすぐ!」
「ウニャ? 何て書いてあるのだ?」
どうやらこの樹洞を示す道しるべらしい。
近付いてみると名前が記されていた。
「カウム樹洞。この先、外、危険……か。出口でいきなり襲われるとかじゃないよな?」
「襲われても問題無いのだ! ウニャッ!」
「大丈夫ですよ~! アック様なら!」
「不意打ち攻撃があるかもしれないし、防御態勢で進むぞ」
エルフが長く守って来た森の先では戦いは避けられそうにない――かもしれない。