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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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「わあ、綺麗…」


翌日、12月25日のクリスマス。


真里亜と文哉は、セント・パトリック大聖堂に来ていた。


ミサに参列したい、と告げると、快く中に招き入れられる。


高い天井と壁一面に広がるステンドグラスを見上げて、真里亜は思わず感嘆の声を洩らす。


「あのバラのステンドグラス、なんて見事なのかしら」


「ああ、そうだな。ここにいるだけで、身が引き締まる。神聖な気持ちになるよ」


「本当に」


ネオゴシック様式の美しい装飾、7855本もある豪華なパイプオルガン、ティファニーがデザインした黄金の祭壇。


どれもが豪華で、荘厳な雰囲気に包まれていた。


やがてミサが始まった。


キリストの教えに気持ちを改め、パイプオルガンの音色に心を震わせ、賛美歌の美しさに胸を打たれる。


クリスマスとはこういう日なのだと、二人は身を持って感じていた。


夜はホテルの部屋でルームサービスを頼み、最後に甘いクリスマスケーキを食べる。


だがそのあとは、もっともっと甘い夜を二人で過ごした。




翌日。

いよいよニューヨークを発つ日がやってきた。


朝からパッキングし、ホテルをチェックアウトしてからクロークに荷物を預けて街に出掛ける。


「どこに行く?」


「んー。昼過ぎには空港に向かうから、近場をうろうろしましょうか」


「そうだな」


二人はしっかりと手を握り合い、最後のショッピングを楽しむ。


「真里亜、クリスマスプレゼント何がいい?」


「え?そんな、いらないです。もう充分、色々してもらったから」


「俺が真里亜に贈りたいの!ほら、行こう」


文哉は真里亜の手を引いて、ティファニーに連れて来た。


「どれがいい?ネックレス、それとも指輪?」


「いえ、あの。本当に何も…」


真里亜は店の雰囲気に気後れして、後ずさる。


「これは?」


文哉がショーケースの中のブレスレットを指差す。


あ、可愛い…と思った真里亜は、ふと値札を見てびっくりたまげた。


「ゼ、ゼロが!ゼロがたくさん!円にしたらいくらなの?」


「それはいいから。あ、こっちはどう?」


「ひーっ!桁が!読めない。すぐには分かんない!」


「ああもう、うるさい!黙ってろ!」


(えっ、ここでいきなり鬼軍曹?!やっぱりいたのね、鬼軍曹)


真里亜は、ササーッと後ろに控えた。


文哉はスタッフの女性と話しながら、次々とショーケースからアクセサリーを取り出してもらっては考え込んでいる。


暇になった真里亜は、ウロウロと違うコーナーを見て回った。


(あっ!このマグカップいいな。ふふ、お揃いで買っちゃおう)


真里亜はすぐさま会計を済ませると、綺麗なティファニーブルーの紙袋を見て微笑む。


文哉には内緒にしようと、肩から掛けていたトートバッグにしまってから、アクセサリーコーナーに戻った。


「真里亜!カフェに行こう」


戻って来た真里亜を見るなり、文哉はご機嫌で声をかける。


「え、カフェって、どこの?」


「上の階の、ティファニーのカフェ」


「ええ?!すごく人気で予約取れないんじゃ…」


真里亜は怪訝な面持ちで尋ねた。


「それがさ、アクセサリーコーナーのスタッフにカフェの話したら、内線で聞いてくれて。たまたま時間になっても現れない人がいるらしく、今すぐなら案内出来るって」


「本当に?!」


「ああ。ほら、行こう」


「うん!」


二人はウキウキとカフェに向かう。


「わあ!もうまさにティファニーワールドって感じですね」


真里亜は、メニューよりも先に店内を見回してうっとりする。


「そうだな。やっぱりオーダーは、朝食?」


「ふふっ。ティファニーで朝食を、ですものね」


映画の世界にいるような夢見心地のまま、真里亜は美味しい朝食を味わう。


「私、高校生の頃、自分の部屋の壁にオードリー・ヘプバーンのポスター貼ってたんです」


真里亜の話に、文哉は、へえーと驚く。


「オードリー・ヘプバーンなんて昔の女優さんなのに、知ってたの?」


「はい。『ローマの休日』が大好きで。もう佇まいとかオーラが美しいったらないですよね」


「ああ。俺もあの映画は憧れたなあ」


「え?副社長も観たんですか?」


「映画館でリバイバル上映された時にな」


ええー?!と真里亜は声を上げる。


「映画館で?素敵!私、DVDでしか観たことなくて」


「じゃあ、いつか一緒に映画館に観に行こう」


「はい!」


とびきりの笑顔をみせる真里亜に微笑んでから、文哉はジャケットの内ポケットに手を入れた。


「真里亜。これ、クリスマスプレゼント」


えっ、と真里亜は目を見開く。


「買ってくれてたんですか?」


「当たり前だろ?何しに来たんだ」


「あ、はい」


真里亜はおずおずと、文哉が差し出したティファニーブルーの箱を受け取る。


「開けてみてもいいですか?」


「もちろん」


白いリボンをそっと解いてから、真里亜は箱を開けた。


中に入っていたのは、ダイヤモンドが眩く煌めくネックレス。


「わあ…なんて綺麗…」


真里亜はしばし言葉を失う。


花びらのようにも、雪の結晶のようにも見えるデザインで、大きさは控えめだが、ダイヤモンドの存在感に思わず目を奪われる。


「着けてみて」


文哉が促すが、真里亜は思わず首を振る。


「私なんかが、こんな高価なもの…」


「何言ってるの?真里亜に似合うと思って選んだのに」


「いや、でもこれ…」


さっきの様子からすると、とてつもなく値が張るものに違いない。


自分にこれを着ける資格があるのか?と躊躇していると、文哉が小さく問いかけてきた。


「もしかして、気に入らない?」


「いえ!まさか。とっても素敵です!可愛くて綺麗で、ひと目惚れしました」


「良かった」


文哉は微笑むと、真里亜が手にしているケースからネックレスを取る。


「真里亜、ほら」


ようやく真里亜は頷いて、文哉から受け取ったネックレスをそっと着けてみた。


鎖骨のラインのちょうど中央に、可憐で美しいダイヤモンドの花が輝く。


「うん、よく似合ってる」


真里亜は照れて顔を赤くしながら、文哉に頭を下げた。


「こんな素敵なクリスマスプレゼントを、ありがとうございます、副社長。ずっと大切にしますね」


「どういたしまして」


にっこりと答えたあと、文哉は、ん?と眉根を寄せる。


「真里亜。なんでまた『副社長』に戻ってるの?」


「え?それは、だって。普段はやっぱり副社長としか…」


「ふーん。ベッドの中でしか名前は呼べないってことか。それなら毎晩抱くしかないな」


「ふ、副社長!こんなところで、なんてことを…」


真里亜は、日本人が近くにいないかキョロキョロする。


「ははっ!確かに、昼間は副社長って呼ぶ真里亜が、夜には俺の名前を呼んでくれるギャップを楽しむのも悪くないな」


「ですから!こんなところでそんな話は…」


「分かったよ。続きはベッドでな」


「だーかーら!副社長!」


「あはは!」


嬉しいやら恥ずかしいやら。


照れるけど幸せで…。


真里亜は胸元のネックレスに手をやり、そっと微笑む。


思いがけずニューヨーク最後の思い出は、ティファニーでの夢のようなひとときとなった。

恋は秘密のその先に

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