夜の名残が、まだ部屋の隅に溶け残っていた。障子の向こうで、淡い朝の光が少しずつ白を増やしていく。
晴明は静かに目を開けた。
昨夜、蘭丸さんと話したあのあと、どうにか気持ちを落ち着けて眠りについたはずだった。
けれど、夜半。
誰かがそっと布団の端を持ち上げる気配がして――
晴明『……雨?』
雨明「晴……ちょっとだけ、一緒に寝たらあかん?」
囁く声。
その瞬間、晴明の胸がふっと緩んだ。
晴明『……いいけど。風邪ひくよ』
雨明「ん、ありがと。……なんか、晴の顔見てたら安心すんねん」
そう言って潜り込んだ雨の体温が、すぐに布団の中で伝わってきた。
あの夜の冷たさを、少しだけ溶かしてくれるような、柔らかいぬくもり。
晴明は何も言わず、ただ静かに目を閉じた。
雨の寝息がすぐ隣で聞こえる。
……その音に、心がようやく落ち着いていった。
――そして朝。
雨明「……んぁ……おはよ、晴」
晴明『おはよう、雨。勝手に入ってきたくせに、ぐっすり寝てたね』
雨明「だって、晴の布団あったかいねんもん。俺のより落ち着くわ」
雨は布団の中から顔だけ出して、無邪気に笑った。
その笑顔が、ほんの少し眩しい。
晴明『……昨日、道満さんと話してたみたいだね』
雨明「ん? あー、そうか?」
あっけらかんとした声。
その調子に、晴明はわずかに目を伏せる。
晴明『うん……楽しそうだった』
雨明「道満さん、けっこうええ人やで。話してると落ち着くっちゅーか、なんやな……“分かってくれる”感じ?」
晴明『そう……なんだ』
雨明「せやけど、晴も優しいやん。俺、やっぱ晴がいちばんやな」
晴明『ふふ……ありがとう』
朝の光が、二人の間に射し込む。
雨の言葉は、いつも通りの優しい嘘みたいに響く。
――きっと雨は、僕の気持ちなんて知らない。
それでいい。
もうすぐ、終わるんだから
笑い合う声が、障子の外へ滲んでいった。
だけどその笑顔の奥に、晴明の胸にはまだ小さな痛みが残っていた。
(あと少し……あと少しで、全部終わるんだ)
そう心の中で呟きながら、晴明はそっと朝の空を見上げた。
コメント
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晴、うちの所に嫁ぎにおいでうへへへへ(?