テラーノベル
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あれから十年。
鏡の中に映る自分は、あの頃の泣き虫な子供じゃない。
慎重に整えた前髪、少しだけ背伸びをして塗ったリップ。そして、ずっと憧れていた星ヶ丘高校の、濃紺のブレザー。
「……よし、オッケー!」
私は気合を入れるように頬を両手で叩いた。
今日から私は、凌先輩と同じ校舎で過ごすんだ。
この日のために、死ぬ気で勉強して偏差値を上げた。すべては、あの夏から一途に想い続けてきた『王子様』に会うため。
玄関を開けると、そこにはすでに見慣れた背中があった。
加賀美家の次男、遥だ。
遥はいつの間にか私を追い越す背丈になって、乱暴に制服を着崩して壁に寄りかかっていた。
「……おっそ。いつまで鏡見てんだよ」
「ちょっと、今日くらい先に学校行ってればいいじゃん。なんで待ってるのよ」
「おばさんに頼まれたんだよ。あんたが初日から迷子にならないように見張ってろって」
「迷子になんてならないわよ、もう高校生なんだから!」
遥の隣に並んで歩き出す。
心臓の鼓動が、歩くリズムに合わせて速まっていく。私は抑えきれない喜びで、つい足取りが軽くなる。
「……あー、うるさい。隣で鼻歌歌うのやめてくんない?」
「いいじゃん、おめでたい日なんだから。なんで遥はそんなに不機嫌そうなの?」
「なんでそんなにウキウキしてんだよ」
「うーん、内緒! 今日から入学だから、ワクワクしてるだけだよ」
遥は私の顔をじっと覗き込むと、呆れたようにため息をついた。
「どうせ兄貴のことだろ。……顔に書いてあんぞ、バカ」
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