テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
・ご本人様関係ありません
・アンチやめてください
8話
変化は、静かに広がっていった。
屋敷の使用人たちは、もう気づいている。
葛葉がローレンを特別扱いしていること。
命令ではなく、選択を尊重していること。
それは優しさとして受け取られる一方で、
違和感としても囁かれ始めていた。
「身分が違いすぎる」
「近すぎる」
「情をかけすぎだ」
噂は、いつも正しい形では伝わらない。
やがて、葛葉のもとに正式な呼び出しが届く。
上位貴族たちの集まる評議の席だった。
「例の世話係の件だ」
重い空気の中、誰かが言った。
「身元が曖昧な者を、あれほど近くに置くのは問題だ」
「情で判断する立場ではないだろう」
葛葉は反論したかった。
だが、立場がそれを許さない。
「……彼は、危険な存在ではありません」
それだけを、静かに述べる。
返ってきたのは冷たい言葉だった。
「危険かどうかではない」
「身分秩序の話だ」
その日、葛葉は初めて突きつけられる。
――守ることと、守りきれない現実は違う。
一方ローレンも、外の空気の変化を感じていた。
市場での視線。
親しく話していた人が、距離を取る。
囁き声が、背中に刺さる。
「……やっぱり、俺は」
思わず、足が止まる。
屋敷に戻ると、葛葉の部屋は閉ざされていた。
呼ばれることもない。
(また、始まるのか)
心が、過去を思い出そうとする。
――身分の低い自分は、
――いつも切り捨てられる側だった。
その夜、葛葉はローレンを呼び出した。
表情は疲れているが、目ははっきりしていた。
「話さなければならないことがある」
ローレンは覚悟して、うなずく。
「俺の立場では、
お前を今の距離で置き続けることは難しい」
胸が、きゅっと縮む。
「……離れろ、ってことですか」
葛葉は、すぐには答えなかった。
「選択肢を、渡したい」
机の上に置かれたのは、二つの書類。
ひとつは、
別の屋敷で働くための正式な紹介状。
安全で、自由のある場所。
もうひとつは、
今まで通り、葛葉のもとに残る道。
だが、より厳しい視線と制限を受ける未来。
「どちらも、俺が用意した」
葛葉は言う。
「どちらを選んでも、
お前の価値は変わらない」
ローレンは、書類を見つめながら思う。
以前なら、
選ばれることにしがみついていた。
でも今は違う。
――どこにいるか、じゃない。
――どう選ぶか、だ。
「……少し、考えてもいいですか」
「ああ」
即答だった。
その返事に、ローレンは気づく。
葛葉はもう、
引き止めるための言葉を使わない。
それは冷たさではなく、
対等に選ばせる覚悟だった。
身分の壁は、現実として高く立ちはだかる。
優しさだけでは越えられない。
それでも二人は、
「離れるか」「残るか」ではなく、
どう在るかを選ぼうとしていた。
ご愛読ありがとうございます♪
続きます