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はみぃ
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クリスマスが今年もやって来る。
有名な歌詞の一節だが、灰色の寒空が一面真っ白な世界を作り出す様を見ていると、よく歌ったものだと脱帽するばかりである。家の周りに植えられた針葉樹は例外なく己の緑を隠し、二階の窓から身を乗り出して手のひらを広げると、舞い降りた白い花びらが体温で水滴へと姿を変える。
ふと顔を上げると、太陽がおでこを見せていた。雲と雲の間から覗く眩しい朝焼けに照らされて、思わず俺は視線を下へと逸らす。
そこには——
「積もった積もった!一番乗りぃ!」
「ゴロ ゴロ ゴロ ゴロ!ヘイヘイヘーイ!」
「雪が足りないんだよ!もっと降ってこーい!」
「キャハハハハッ!キャハハッ!」
はしゃぎの限りを尽くして地面を転がりまくり、身体に雪を巻き込んで肥大化していく一頭のトナカイの姿があった。
「あれ?身体が抜けない……」
あれだけ乱雑に動き回っていたのに、できた雪玉は歪とは遠くかけ離れた綺麗な曲線を描いている。雪玉の頭頂部から、器用にトナカイの首から上だけを生やして。明らかに才能の使い所を間違えている。
俺は分厚く着込んで、玄関の扉を開けた。
「何やってる、トナカイだるま」
「あ、サンタ!お゛ね゛か゛い゛助げで〜!!身体が抜けなくなっちゃった〜!」
外は寒いのでさっさと済ませよう。俺はトナカイの頭をガシッと掴み、スポッと身体を雪玉から抜く。
「あっ……//// 癖になりそう」
「やめろアホ」
がっしりとトナカイの頭を掴んだまま、俺は家に入って暖房をつけた。
◇
「サンタ、何やってんの〜?」
トナカイが下半身を炬燵に入れて寝そべり、鹿せんべいを口に咥えながら聞いてきた。
「仕事」
「さっきからずっとカキカキしてるじゃん。飽きないの?」
飽きる飽きないの問題ではないのだが。トナカイの質問を右から左へと聞き流し、俺は仕事……子供達のプレゼントリクエストを集計する作業を進める。
「アッハッハッハ!サンタ サンタ!これ見てくれよ!『サンタクロースは春から秋にかけて手紙の整理やプレゼントの準備をして1年間を忙しく過ごしています。』だってさ!本当は12月の今頃になってやっと手紙読み始めるのにな!」
トナカイは笑いながらインターネットの画面を開いたタブレットを俺に押し付けてくる。
「……俺だって」
「ん?どしたサン——」
「俺だって、出来ることならもっとゆとりを持って仕事したいよ!でも出来ないんだよ!手紙が来ないとプレゼント用意できないのに!その手紙は今頃になって、ようやく届くんだよ!それも分割されず大量になぁ!四月にお手紙を出してくれる子供はいないんだよぉ!」
「お、おう……」
「そりゃあ、ある程度は予測して準備しようとはするよ?でも最近はそうもいかないんだよぉ!玩具もゲームも多様化してるし、情報化のせいで販売予告を見た子供がクリスマス数日前になってようやく発売される物を欲しがることも珍しくなくなったし……」
少し感情的になって愚痴を吐露してしまった。誰が悪いという訳でもないのに。トナカイは新しい鹿せんべいを口に咥えて、俺の肩をポンと叩いた。
「サンタ、世の中そんな子供達ばかりじゃないって。ほら、この手紙を読んでみろよ」
“サンタさんへ。再来月発売の新作ゲームが欲しいです。”
「もはや発売すらされてない!?」
「”誰よりも早く手に入れて自慢したいです”だってさ」
「身勝手が過ぎるだろ……」
変な手紙に悩まされながらも、サンタクロースとしての業務をこなす。トナカイは証紙を巻いたままの鹿せんべいの束を口に咥えて、手紙を覗き見してくる。
“サンタさんのトナカイが欲しいです。1匹ください。”
「いや〜ん!どうしよ〜、サ ・ ン ・ タ?」
……。
リストには、”トナカイの形のクッキー”と書いておいた。嘘はついてない。
何だかんだありつつも、無事に全ての手紙に目を通した。仕事終わりの伸びが気持ち良い。
「お?終わったのか」
「あぁ」
ただ、忘れてはいけない。炬燵の上にひろげられているこの手紙は、今日までの分だということを。
「お疲れ〜。鹿せんべい食べる?」
この鹿トナカイは鹿せんべいを咥えながら、未開封の鹿せんべいの袋を差し出してきた。
「いらない」
というか、鹿せんべいを咥えている姿しか見ていない気がする。言葉を濁らせることなく流暢に喋るものだから、違和感が仕事しなかった。今更だが、トナカイが鹿せんべいを食べても大丈夫なのだろうか?プレゼントが欲しい子は真似しないでね。
◇
クリスマスイヴ。世界中の子供達へ向けたプレゼントをギュウギュウに積み込んだソリを引く九頭のトナカイが雪降る夜空を駆け抜ける。ルドルフと呼ばれる赤鼻のトナカイが先頭に立ち、その赤鼻を光らせて八頭のトナカイ達を率いる。たとえ暗く霧の深い夜でも、ルドルフの鼻の灯りが道を照らし出すのだ。
「ルドルフ、ペースが速いです。新米がついて来れません」
「ルドルフ、急な旋回は止めてください」
「ゴメンて!今晩中に配らなきゃだからさ!」
「ルドルフ、休憩時間まだですか?」
「せめて一件目 配ってから言えよ!まだだよ!」
ルドルフを務めるのはご存知、いつものトナカイである。ネオンで明るい現代の夜は、ルドルフの明かりをかき消してしまう。それでも赤鼻のトナカイが先導を務めるのは、風習によるものなのだろうか。毎年 疑問に感じては、先代に尋ねればよかったと後悔している。
地上に降り立ち、本番とも言えるプレゼント配りが始まる。子供を起こすのは御法度であるが故、インターホンを鳴らすことはできない。煙突が無くなっただけでもハードルが跳ね上がるのに、警備システムも普及してきている。ご老体では荷が重いだろう。皆がイメージするサンタクロース像でないのが申し訳ない。
……え?インターホンも鳴らさず煙突も使わず、どうやってプレゼントを配っているのかって?それは秘密だ。
「Merry Christmas!《楽しいクリスマスを!》」
でもひとつ、言っておこう。親御さんのご協力が無かったら出来なかった。サンタクロースからのプレゼントは、良い子にしか届かない。それを肝に銘じて欲しい。
「はい、サンタ!これ次の家のプレゼント!」
「ありがとうな。助かる」
「ヘヘッ」
トナカイから次のプレゼント袋を受け取り、ぐっすりと眠る子供達の元へ。今年も無事にプレゼントが子供達の手に渡っていく。
俺がプレゼントを配っている間、トナカイ達はソリを移動させる。次の地域へすぐ出発出来るように。
「オーライ、オーライ」
ルドルフがピィっピィっとホイッスルを吹きながらトナカイ達を誘導する。その様は、さながらサザ〇さんのよう。
普段はあんなナリでも、今日この瞬間だけは子供の夢を守る立派なサンタクロースのパートナーだ。配達ルートを完璧に把握して、サポートをそつなくこなし、どんな天候や状況でも柔軟に対応して、何頭ものトナカイ達を引率する。子供一人泣かせてはならない、失敗は許されない。こんな重責を担えるのは、器用なヤツをおいて他にはいないのだ。
サンタクロースは、夢に浸る子供達を尻目に夜が明ける瞬間を見届ける。
◇
仕事終わり、廊下で倒れるように眠った俺は夢を見た。いじめられていたトナカイと出会う夢を。
「ぐすんっ……」
「じーーーっ」
「……何?何か用?」
そのトナカイの頭には、他のトナカイのイタズラで被せられた雪の塊。そして角に引っかかって埋もれ損ねた、一輪のポインセチアがその顔を覗かせていた。雪の粉が陽の光を反射し、花の美しさを何倍にも引き立てている。
だから思わず……
「その赤いお花、可愛いね!最高!もっと見せて?」
それから、俺は赤花を乗せたトナカイに気に入られてしまった。トナカイは後ろを勝手につけて来る。俺は気付けば、全身トナカイの唾液だらけになっていた。
「悪夢だなこれ?!」
ガバッと体を起こして目が覚める。視界が鮮明になると、いつもの寝室だと分かった。記憶がはっきりとしないが、どうやらベッドまでたどり着けていたようだ。
「よーサンタ!おはよう」
目の前には、いつものトナカイがいた。腹を見せるように後ろ足二本で立って前足二本を頭の後ろに回し、乳首と股間を三輪のポインセチアで隠してポーズをとっているイカれたトナカイが。
「どうかな、サ ♡ ン ♡ タ ?」
「穢れるから止めろ、アホトナカイ」
原理不明の剥がれ落ちないポインセチアは堂々と無視して、俺はポストを確認しに行った。お礼の手紙は、まだ届いていなかった。
~完~
あの時はさ、顔全体に雪が被さってて何も見えなかったし角に違和感もあったから、鼻の事を言ってるわけじゃないって本当は分かってたよ。でもさ、それでも、本当に嬉しくて、ペロペロしたくなっちゃったんだよな。
なんでだろうな?
コメント
6件
え?すごすぎて (〃∇〃) テーマすごいね!!! ラジさんを見習って私ももっと頑張らなくきゃ!
わあ、めっちゃ良かった…!🦌💕 サンタとトナカイの掛け合いが軽快で、つい「あっ…// 癖になりそう」ってトナカイのセリフで笑っちゃった。 プレゼント配りシーン、現代的でリアルな悩みも挟みつつ、最後の回想で一気に二人の絆が深まった感じがして、じんわり来たよ。 「穢れるから止めろ」ってツッコミも好き。何度も読み返したくなる温かいお話でした🌙