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海の紅月くらげさん
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「大丈夫、すぐ電気つけるから」
「待っ……ひとりにしないで……やだ」
「み、実里くん、でも手を離さないと電気が」
ここまで暗いのを怖がるのはただ苦手というだけには思えない。それを知っていて、彼はこんなことをしたの……?
「電気つけるから、ちょっとだけ歩ける?」
「……っ、うん」
部屋の明かりのスイッチを手探りで探してつけると、実里くんは力が抜けたように蹲ってしまう。
「実里くん!?」
小刻みに震えていて、泣いているように思えた。彼がなにを抱えているのかわからない私には、どう対応したらいいのかがわからない。
ポケットの中からスマホを取り出し、一番上に表示された相手に電話をかける。
3コール目で、「どうした?」と彼の優しい声が聞こえた。
「歩くん、実里くんと化学室にいるんだけど、さっき部屋が真っ暗になってから様子がおかしくて……!」
歩くんが出るなり、息つく暇もなく話した。
「待ってろ」
その一言で電話が切れる。大丈夫。きっとすぐに来てくれる。
「実里くん、もう真っ暗じゃないよ」
震える実里くんの手をそっと握った。
「せん、ぱい……俺、ダメなんだよ。暗いの、怖くって呼吸……うま、くでき……な、い」
「大丈夫。私がいるよ。それに、もう電気もついてるでしょ?」
今にも泣き出しそうなほど不安げな表情をしていて、怯えているようだった。
「……怖い。ダメなんだ……俺……」
「実里くん……?」
電気はもうついているはずなのに、実里くんはいまだに震えている。
まるで見えない何かに怯えているようだった。
「大丈夫だよ。すぐに助けが来てくれるから」
それでも実里くんは首を横に振る。
「小さい頃…………泉の父親に……暗い、部屋で背中に折檻……されたことが、あるんだ」
彼の口からでてきた言葉に耳を疑った。
「痛く、て……つら、くて……未だに、背中に痕が少しだけ残ってて……痛いんだ。古い傷のはずなのに……、何度も……夢、見る」
困惑と煮え切らない感情が渦巻いて胃の辺りがじわじわと熱くなってくる。
どんな事情があったとしても、そんなこと許されない。
「あいつら、そう……なったのが自分のせいって……責めてる、から今日も、喧嘩して……もう迷惑かけたくないし、罪悪感で優しくなんてされたくないのに……」
詳しい事情はわからないけど、彼らが実里くんのことを気にかけているのは、それがあったからなのかな。
そして、さっき実里くんが背中に触れられるのを嫌がったのもその過去が原因なんだろう。
昔の恐ろしい経験が今でも彼の心を蝕んでいるんだ。
「夜、も……真っ暗だと、眠れなくて」
だから、武蔵先輩が保健室で電気は消さないでくださいって言っていたんだ。
「怖い…………たす、けて……っ」
「実里くん」
そっと抱きしめる。背中には触れないように肩の辺りに手を置いた。
「……傍にいて」
「大丈夫、ここにいるよ。きっと、もうすぐみんながきてくれる」
背中に震えている実里くんの腕が回り、縋るように力が込められる。