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鷹槻れん

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#極道
鷹槻れん

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月詠 涼
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京介、長谷川社長とともに約五年ぶり。懐かしい施設内へ入った芽生は、在所中は滅多に入室することのなかった施設長室にいた。
慣れた風な二人とは裏腹。芽生は緊張しまくりだ。
「……比田先生、お久しぶりです」
京介や長谷川社長に倣ってぺこりと頭を下げながら挨拶した芽生に、八十歳近いと思える老齢の女性が「芽生ちゃんとは本当に久しぶりね」と言ってふふっと笑った。
私とは? と小首を傾げた芽生に、長谷川社長が、「私と相良は神田さんがここを巣立ってからも月に一度は来てるんだ」と説明してくれる。
「月一?」
芽生がキョトンとしたら、比田が「ほら。芽生ちゃんがいた時にも二人、よく連れ立って来てくれてたでしょう? 実はね、京くんがもう何年もずっと……うちに支援してくれてるのよ」と微笑んだ。
「ちょっ、比田先生っ!」
途端、京介が慌てたように立ち上がって、〝比田さん〟ではなく〝比田先生〟と彼女を呼ぶ。それに応じるように、比田が「あらっ、そういえばこのお話は内緒だったわねぇ。ごめんなさいね、京くん。先生ももう年だからつい……」と、まるで確信犯のようにクスクス笑う。
比田が京介のことを芽生同様あだ名で呼んだことにも、京介が比田のことを〝先生〟呼びしたことも、何となく違和感を覚えてしまった芽生だ。
そんな芽生を置き去りに、話は進んでいく。
「でも京くん。芽生ちゃんを連れて婚姻届を持ってここへ来たんですもの。隠し事はダメよ?」
机上に、コーヒーカップなどとともに並べられた書類にちらりと視線を投げかけて、比田が「ね? 長谷川さんもそう思うでしょう?」と長谷川社長に視線を流す。
「そうですね」
それに対して長谷川社長までが比田の味方をして、京介は苦虫を嚙み潰したみたいに不機嫌な顔になった。
「なぁ相良、いい加減諦めろって。神田さんにくらいはホントのことを言っても罰は当たらないと思うぞ? というより――」
そこまで言って芽生に視線を移した長谷川社長が、「私も神田さんに隠し事をしたまま証人欄を埋めるのは何だか落ち着かないからね」と肩をすくめてみせる。
「ねぇ京ちゃん、どういうことなの? 私にも分かるように話して?」
どうやらここにいる自分以外、事情を知っているらしい。それを、なんだか仲間外れにされたみたいに感じた芽生は、京介を問い詰めたくなった。
自分のすぐ隣へ座る京介の太ももにそっと触れて問い掛ければ、京介が吐息交じり。「簡単な話だ。俺みてぇのが出資してるって知られたら、色々と都合が悪い。そんだけのことだ」とぶっきら棒に吐き捨てる。
自分がここの運営資金を出資していたことは認めた素振りの京介なのだが、芽生にはイマイチ理解が追い付かない。
「京ちゃんが出資者だったら……何でダメなの?」
思ったままを口の端に乗せれば、盛大に吐息を落とされてしまう。
「ヤクザ者が関わってるとか……ここにとって世間体が良くねぇだろぉーがよ」
「……そう相良が言うからね、私が一枚噛んでワンクッション置いていたってわけ」
要するに、京介が直接関わるのは体面が良くないから、京介からの支援金を長谷川社長からの寄付という形で取り繕っていたということだろうか。
「京ちゃんからのお金を長谷川社長からって名目で寄付してた?」
芽生がそうつぶやいたら、そっぽを向いたままの京介に代わって、長谷川社長が頷いてくれる。
「実際問題、京くんからの寄付金がなかったら、うちはとっくに立ち行かなくなっていたの……」
小さな児童養護施設だ。
行政からの支援だけでは上手く回らなくなっていたのだと比田が付け加えて、
「……ほんの束の間だったが俺もここにゃぁ世話ンなったことがあるからな。恩返しをしたまでだ」
それに応じるように京介が不機嫌そうにぼそりとつぶやいた。
「ホント、そういうトコ。お前は笑えるくらい素直じゃないよね」
途端、長谷川社長が京介を見てクスッと笑う。
「相良はさ、私に対してもそうだけど、一度受けた恩は絶対に忘れないクソ真面目な男だ。私は相良のそういう義理堅いところを凄く気に入ってるんだよ。それこそ、『こいつはこんな態をしてて誤解されやすいけど、すっげぇいいヤツですよ?』って大々的に宣伝したくなるくらいにね」
「ちょっ、長谷川っ、気色悪いこと言うんじゃねぇーよ。熱でもあるんじゃねぇか!?」
京介がどんなにムスッとしてみせても、一向に怯む様子のない長谷川社長を見て、二人は本当に仲の良い親友同士何だなと思った芽生である。比田先生も同じように思っているのか、そんな京介と長谷川社長をニコニコと温かなまなざしで見詰めていた。
元々京介は自分が陽だまりへ支援していることを誰にも明かすつもりはなかったらしい。
そのための親友経由送金だったのに、あろうことか隠れ蓑に選んだはずの長谷川社長が、真の支援者は相良京介だと比田先生に明かしてしまったそうだ。
要するに〝相良の良さを大々的に宣伝したくなった〟結果だろう。
その話を聞いた比田は比田で、かつて陽だまりで面倒を見たことのある京介に、是非とも会いに来て欲しいと言い出したらしい。
京介が再三にわたる比田からの誘いを無視し続けていたら、このまま会いに来ないなら、支援者の欄に京介の名を明記すると脅されたんだそうだ。
そんなことをされたのでは、京介が表立って寄付をしないようにした意味がない。
それで結局京介が折れる形。支援者・長谷川将継の付き添い兼ボディーガードという名目で、京介も月に一度、陽だまりへ顔を出すようになったのだという。
芽生が陽だまりにいた頃、長谷川社長と連れ立って、どこか不貞腐れたような顔をして園庭の片隅で煙草をふかしていた京介を見かけていたのはこのためだったようだ。
京介が幼いころ母子家庭で育って……唯一の肉親であるはずの母親から育児放棄を受けていたことは芽生も京介自身から聞いて何となく知っていたけれど、陽だまりにいたことがあるなんて知らなかった。
自分たちがここで何不自由なく暮らしてこられたのは京介のお陰だったんだと知って……京介が自分と同じようにここにいたことがあったのだと知って……芽生の中で色んな気持ちがぐるぐると交錯する。
沢山思うことがありすぎて、逆に言葉が出てこなくて……芽生は「京ちゃん……」と彼の名を呼ぶことしか出来なかった。
「もちろん、長谷川さんからも沢山ご支援いただいているのよ?」
あえて後出しのようにそう付け加えてきた比田先生は、結構な策士だな、と思う。
「私のは相良のに比べたら足元にも及ばない額ですけどね」
クスッと笑ってそんな比田の言を軽く受け流す長谷川社長をみて、芽生は二人が自分たちにとって本当の意味での恩人だったんだと、改めて実感した。
***
「それにしても京くんと芽生ちゃんがねぇ」
しみじみとつぶやきながら、比田が婚姻届の証人欄を埋めていく。二人に、こういう欄を埋めてくれる代表格のような両親がいないのは先刻承知だからだろうか。割とすんなり証人になってくれた比田に、芽生はじんわり心が温かくなる。
世間一般的な〝家族〟というものは知らない芽生だけれど、陽だまりでの十八年間はとても幸せだった。赤子のときからここにいて、それ以外の環境を知らないからだと言われればそれまでだが、少なくとも芽生にとって陽だまりのみんなは、温かい家庭の象徴そのものだった。
そんな比田に、京介は始終ムスッとして無言だ。先ほど長谷川社長に散々揶揄われた後味の悪さもあるのだろうが、芽生は京介がこの婚姻自体を遺憾に思っているのではないかと段々不安になってきてしまう。
比田に続いて長谷川社長が嬉し気に残りの証人欄を埋めてくれるのをぼんやり眺めながら、芽生はこのままこの紙を市役所に提出してもいいのかな? と思い始めていた。
京介と夫婦になれることは芽生にとってこの上ない喜びだが、京介にとってはどうだろう? 長谷川社長の言うように京介は義理堅い。芽生に対する妙な義務感から、変な重荷を背負わせてしまっているんじゃないだろうか。
心許なさに瞳を揺らせる芽生の手を握ると、京介が出来上がったばかりの婚姻届を懐へ仕舞いながら「行くぞ」と立ち上がった。
「あの……京ちゃん」
芽生はそんな京介を戸惑いに揺れる瞳で見上げながら、蚊の鳴くような声で大好きな男の名をつぶやいた。だが京介は芽生の心の機微に気付けないまま――。一刻も早くこの場を立ち去りたいみたいに「世話になりました」と頭を下げるなり、長谷川社長や比田先生が止めるのも聞かず、芽生の手を引いてさっさと施設長室をあとにしてしまった。
***
石矢の待つ車へ向かいながら、こちらを見ないままに京介が言う。
「知っての通り、俺はまともな家庭ってやつを知らねぇ。芽生、お前もそうだろ?」
そこで、まるで迷いを体現したみたいに不意に立ち止まって言い淀んだ京介の背中を、芽生は無言で見詰め続けた。
「細波鳴矢を牽制するつもりで一気にことを推し進めちまったが……お前は……本当にそれでいいのか?」
その言葉は京介の躊躇いそのものを表しているみたいで、芽生が彼に握られたままの手をギュッと握り返したら、やっと京介がこちらを向いてくれた。
「私、何年も前からずっと京ちゃんと家族になりたいって言ってるよ? だから京ちゃんが私をお嫁さんにしてくれるって言ってくれて本当に嬉しかった。……けど、京ちゃんはどうなの? 私と結婚するの、イヤ?」
もしも芽生と夫婦になることが、それこそ先ほどの細波同様〝不本意〟なのだとしたら、芽生はすごく悲しい。
何故京介が急に芽生と結婚するなんて言い出してくれたのかも分からないから、その思いは一入だ。
芽生は、京介が無理をしているのならば、無理に結婚してくれなくてもいいと思い始めている。好きな人に我慢を強いてまで、自分が幸せになりたいとは思わない。
「京ちゃんが、もし私のために無理をしてくれているんだとしたら……私……」
そこまで言ったところでゆらりと京介の顔が歪んで見えて、芽生は(なんで?)と思ったのだけれど。
ツツッと頬を温かな涙が伝って、芽生はいつの間にか自分が泣いてしまっていたのだと気が付いた。
途端京介にグッと抱き寄せられて、「無理なんかしてねぇわ」と不機嫌そうに吐き捨てられた。
「京、ちゃ……?」
強く京介の厚い胸板に顔を押し付けられたまま、芽生がくぐもった声で京介の名を呼べば、
「俺は……お前が佐山とデキてんじゃねぇかと思った時、腸が煮えくり返るんじゃねぇかってくらい腹が立った」
京介が胸の内を吐露するみたいに低い声音でつぶやく。押し当てられた芽生の額を、京介の声がビリビリと震わせた。
「細波のヤローがお前と婚姻届を出そうとしてるって知った時も、なんでもっと早く俺がお前と結婚してなかったんだろうって思っちまった」
「京ちゃん……?」
「今までずっと……俺なんかが未来あるお前の想いに応えるなんて事は、あっちゃーいけねぇと思ってたんだがな」
そこまで言って芽生を抱く腕の力を緩めると、京介が芽生をじっと見下ろしてくる。
「芽生。お前にゃ悪ぃーが俺はお前を誰かに掻っ攫われるのが我慢ならねぇらしい」
「えっ?」
「俺みてぇな男がお前を欲しいなんて言っちゃいけねぇのは分かってる。けど……もしお前が俺に付いてきてくれる覚悟があるってんなら……、俺と……えっと、その……あれだ。か、家族になってくれる、か?」
「京ちゃんと……家族? そ、そんなのっ。そんなのもちろん『はい!』に決まってる! 私、京ちゃんのこと、大好きだもん!」
「そうか……」
京介が芽生の告白に素っ気なく応じるのはきっと、照れ隠しだ。長年の付き合いでそれが分かっている芽生は、前のめりになりながら京介の言葉に食らいついた。
「ねぇ、京ちゃん。京ちゃんは私のこと、どう思ってる?」
「お、俺はお前のこと……その、お前が思ってる以上に、気に入ってっから。だから……まぁ、あれだ。義務とか仕方なくってんじゃねぇ。そこだけは勘違いすんな」
「京ちゃん、それって……私のこと、好きだと思ってくれているって解釈したんで、いい?」
煮え切らない京介の言葉に、芽生は思わずそう問い掛けずにはいられなかったのだけれど。
「……好きにしろ」
京介にしては珍しく歯切れが悪いつっけんどんな物言いに、「うん、好きにするね」と頷いて、芽生は幸せ一杯な笑みを浮かべた。
コメント
2件
京ちゃんが陽だまりに来てた理由、そうだったんだ!(○︎´Δ`人)
ああああもうっ!!😭💕 陽だまり編の伏線回収エモすぎるよ〜!! 京ちゃんがあの施設にいたこと、ずっと支援してたこと、長谷川社長とのコンビはそういうことだったのか…って鳥肌立った! そして婚姻届のシーン…京ちゃんが「腸煮えくり返った」とか「誰かに掻っ攫われるのが我慢ならねぇ」って本音ポロリしたとこ、声出たわマジで!😳💗 素直じゃないのに必死な京ちゃんと、不安になりながらもまっすぐ想いを伝える芽生ちゃんのやりとりに涙腺崩壊…!次も絶対読むよ!🔥