リリアーナは、あふれ出る緊張に深く深呼吸をした。
彼女は今、眩いばかりの純白のドレスを身にまとい、腰の下まである長い亜麻色の髪を背に流し、頭の上から真っ白なベールを被せていた。
その美しいかんばせにも、彼女の専属侍女とっておきの化粧がのせられている。
そんな彼女の佇まいは、まるで天使に扮した春の妖精のよう。
そう、今日は、彼女の結婚式なのである。
「リリアーナ」
静かに、彼女の名前が呼ばれた。
彼女はゆるりと後ろを振り返る。
そこには、彼女の夫となる男が立っていた。
今日の男は、属する組織の正装を身にまとっている。
リリアーナは男に満面の笑みを向けた。
「ルウィルク様」
その男……、ルウィルクは、彼女の花嫁姿に、目を見開いた。
かと思うと、かつかつと足音をさせ、リリアーナの前に来ると、彼女をぎゅうっと抱きしめる。
「ルウィルク様?」
彼女はことり、と小首を傾げた。
そんな些細な仕草ですら愛らしい。
「……………………………………………………………………お前、その姿で誰にでも笑顔を向けるなよ」
たっぷりの沈黙を置いて、彼はそう言う。
その言葉に、彼女はますます首を傾げた。
「はい?どうして?」
「……変な虫がつくかもしれないだろ」
彼のその拗ねたような声音に、リリアーナは、あらあらと苦笑する。
「それは杞憂ですわ。だって、私はもう既にあなたのものですもの」
彼女のその言葉に、彼は目を瞬かせ……、彼女を抱きしめる力を強めた。
リリアーナは目を丸くする。
「……お前、式を挙げる前からそんなかわいいことを言うな。今この場で食べるぞ」
彼女はそれを聞いて、かあっとその白皙を赤らめた。
「……そ、それはやめてください」
そう言ってますます赤くなる彼女の髪をルウィルクは撫で、もう離すまいと彼女の細い身体をきつく、きつく抱きしめる。
と、部屋の扉がコンコン、とノックされた。
「お嬢様、ルウィルク様、お時間でございます」
扉の向こう側から、リリアーナの専属侍女であるリエルの声が聞こえる。
その声に、ルウィルクは彼女の温もりを名残惜しく思いながら、彼女の身体を離した。
そして、自身の手を彼女に差し伸べる。
「リリアーナ、手を」
差し伸べられた大きな手に、きょとんとした顔をしていたリリアーナだが、次の瞬間、穏やかに微笑んだ。花がほころぶように。
そして、自身の華奢な白い手を重ねる。
「はい。行きましょう」
彼は彼女が自分の手を取ったことを確認すると、リリアーナに歩くことを促し、ふたりはゆっくりと歩み始めた。
これからもふたりには、辛いことがたくさん降りかかるだろう。
だが、互いに手を取り合い、信じ合い、愛し合ってその苦難を乗り越えるに違いない。
そうしてふたりは、光の先へと進んでいったのだった。
ー本編完ー
コメント
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最初から読みましたが面白かったです!今度は別の連載のやつも見てみますね!