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유리
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午後の授業が始まっても、木兎光太郎のテンションは一切落ちていなかった。
「だから! つまり! この場合の答えは“気合い”です!!」
自信満々に放たれた答えに、一瞬の静寂が教室を包む。
次の瞬間――。
「んなわけあるか!!」
担当教師の鋭いツッコミが飛び、クラス中がどっと笑いに包まれた。
机を叩いて笑う者、涙を浮かべる者、隣同士で「意味わかんねぇ」と肩を揺らす者までいる。
教師も呆れた顔をしながら、口元は完全に緩んでいた。
「木兎、お前はどうして毎回そこまで自信満々なんだ……」
「え? 合ってる顔してました!?」
「してねぇよ!」
また笑いが起こる。
騒がしくて、馬鹿みたいで、いつも通りの梟谷の午後。
けれど、その空気をまるで別世界のものみたいに眺めている生徒が一人だけいた。
窓側、一番後ろの席。
男子生徒は頬杖をつきながら、ぼんやりと校庭の方を見ていた。
風に揺れる木々。体育の授業をしている下級生。遠くで鳴るホイッスル。
教室の笑い声は、どこか遠くの雑音みたいにしか聞こえていない。
誰もその存在を気に留めない。
皆の視線は、騒ぎの中心にいる木兎へ向いている。
男子生徒――月城玲央は、小さく欠伸を漏らした。
黒縁メガネの奥の目は眠たげで、生気が薄い。
制服もどこか着崩れていて、机には開いたままの教科書。だが視線は一度もそこへ落ちない。
「月城ー、ノート取ってるかー?」
教師が適当に声を掛ける。
玲央は窓の外を見たまま、間を置いてから小さく返事をした。
「……はい」
やる気のない声。
教師も「ならいい」とそれ以上は追及しない。
クラスメイトも興味を示さない。
木兎が騒ぎ、皆が笑う。
その賑やかな空間の隅で、月城玲央だけが静かに切り離されていた。
そして今日もまた、昼休みに聞こえていたあの馬鹿みたいにでかい声が、授業中ですら教室を満たしていた。