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──翌朝クリニックで真梨奈と顔を合わせるなり、「ねぇねぇ…」と、話しかけられた。
きっとあの医師の話に違いないとも思うと、あまり聞きたいような気にもならなかった。
「……昨日ね、先生に付き合ってほしいって誘いかけてみたら、すぐにOKしてくれて、」
やり場のないような気持ちで、「うん……」とだけ、応える。
「今は、特定の恋人はいないからいいですよって」
「……そう」
“特定の恋人はいない”か……と、ぼんやりと思う。だったらあの人にとって、私は一体なんなのだろうと感じた……。
「それで、さっそくデートに連れて行ってもらったんだけどね……」
真梨奈が喋るのを、半ば上の空で聞き流していると、
「……先生ったらホント紳士で、思った通りの人だった」
そんな風にあの男のことを言うのが耳に入って、
「えっ…!?」
と、信じられない思いで、彼女へ聞き返した。
「えっ…て、何が?」
私の反応に、怪訝そうな顔つきで、真梨奈が首を傾げる。
「紳士って……あの先生が…?」
「そう。すっごく優しかったし、エスコートも上手くて最高だった」
昨日のことを思い出してか、顔を仄かに赤らめる真梨奈に、
「嘘…そんなの……」
思わず、口から一言がこぼれた。
「嘘って、どうしてよ?」
真梨奈が、じっと私を見つめ、
「ねぇ智香、こないだアプローチしていいのか聞いた時から、なんだか変だよ?」
探るような上目遣いの視線を、こちらへ寄越してきた。
「あっ…なんか…そんなイメージじゃなかったから、それで……」
しどろもどろになり、その場を取り繕って答えた矢先に、
「ふぅ~ん……そうなの? ……本当は、先生のことが好きで、そっちも嫉妬とかしてるんじゃないの?」
真梨奈が、そう疑わしげに話した刹那──
「違う! 絶対に、違うから!」
今度は、大きな声が自らの口をついて迸り出た──。