好きだと伝えたら貴方はどんな顔をするだろう。
うん、僕も好きだよ、と笑ってみせるかも。
でも、その「好き」の意味は僕と貴方できっとずっと違う。
僕はこれから先もずっとこの「好き」に苦しめられるのかな。
でも、僕の本当の意味の「好き」に貴方が苦しめられるくらいなら、苦しむのは僕でいい。
いつか貴方が誰かを好きになったとき、大丈夫と背中を押してみせるから。
僕はそれだけ貴方を「愛してる」。
あっという間に時間は過ぎ、気づけば「BFF」のレコーディングは今日になっていた。
あの日、僕が元貴の部屋を飛び出してしまったことで、違和感に気づいた元貴がこの曲をしまいこんだりはしないだろうかと思ったりもしたが、そんなことはなく順調に今日を迎えた。それだけ、元貴にとってこの曲が大事なものだということだ。その事実がさらに僕の心の暗い部分を増長させた。
あの日以来、元貴が僕に抱きついてくることはなくなった。部屋に呼び出すことはもちろん、楽屋などでたまにふたりきりになる瞬間があっても、元貴はけっして「甘え」をみせなくなっていた。当然だ。彼は鈍い方ではなく、むしろ人の心の動きに対しての勘は鋭すぎるくらいだ。あの日、僕が隠しきれなかった醜い嫉妬は彼に伝わってしまったはずだ。もしかしたら、好きだという気持ちももうとっくにバレているのかもしれない。それもあって彼に距離を置かれているのかもしれない。真意を尋ねることなど、おそろしくて考えたくもなかった。ふと口に出せば簡単に崩れてしまいそうな、そんな脆さだけがいまの僕たちを繋いでいる。
「行きたくないなぁ〜……」
天井に向かってぽつりとぼやくも、虚しさだけが宙に残る。あの曲が嫌いな訳では無い。むしろ音楽としては好きだ。元貴の作る音楽が僕は大好きなのだ。彼に声をかけられて、彼の音楽を聴かされたあの日、僕の世界は変わった。ただ、あの美しい音が、彼が丁寧に紡いだ詞が、僕以外に向けられたものであることに愚かしくも嫉妬してしまう、そんな自分と向き合わされるのが嫌なのだ。
そんなことを考えていても時間は止まってくれる訳では無い。遅刻だけは避けねばと、自分を鼓舞するように勢いよくベッドから飛び起きた。
レコーディングは問題なく終わった。しかし、問題はその後だった。元貴がボーカル収録をする際、僕らに席を外すよう要請したこともあり、僕と若井は先に控え室に戻ってきた。今度出すアルバムに収録するためのこの曲は、レコーディングの様子やその前後の様子なども映像特典の為に撮影する。この後、「レコーディング後の様子」を撮影予定だったが、その前にちょっと出てくると言って席を外した若井よりも先に元貴が戻ってきた。
「あれ?若井は?このあと撮影だよね」
「うん、なんかちょっと出てくるって。さっき行ったばかりだし、もう少ししたら戻ってくるんじゃないかな」
どことなく気まずい沈黙の時間が二人の間に流れる。
「あのさー、涼ちゃん」
元貴が何かいいたげな目をしてこちらを見据えた。
「最近SNS更新してないでしょ、FCの方もさ、そういうところ疎かにしちゃうとダメだよねって話は前に3人で話したじゃん」
SNSを開くと、嫌でも僕らに関する臆測、評価が目に入る。いま、元貴と若井の仲の良さを強調するような投稿や、僕に対するマイナスな書き込みをみたら、ぎりぎりのところで耐えている心が簡単に折れてしまうような気がして、それが嫌で、どうしてもSNSに触れるのが億劫になってしまっていた。
「……ごめん」
「何か言いたいことがあるなら言いなよ、僕にも若井にも。そういうの溜め込まないようにしようって最初に言ったの涼ちゃんだよ」
「ごめん、別に何も無いよ。ただ最近ちょっと忙しくて疲れてたから疎かになっちゃっただけで……」
「謝ってなんていってないよ、何か隠してるの分かるからそれを話してよってこっちは言ってんの!」
苛つきをあらわにして語気を強める元貴に、こちらの感情もささくれ立つ。
「別に何も隠してないよ、なんでそんなふうに思うわけ」
「そんなの……ずっと見てるから分かるに決まってるじゃん」
ずっと見てる?分かる?僕のことが?何を言ってるんだ、何も分かってないくせに。思わず血がのぼり、顔が熱くなるのが分かる。
「別に元貴は僕のことみてないでしょ、全然わかってないよ僕のことなんか」
「は?なにそれ」
冷たさを含んだ声。怒りで少し声が震えている。
「全然分かってないのなんか涼ちゃんの方じゃん!自己肯定感低くってさぁ!無駄にマイナスな意見ばかり拾って、こっちの声なんか全然届きやしない!」
「仕方ないじゃん!僕は二人みたいに器用に物事をこなせないし、歳だって違うし、共有する思い出の量だって違う!所詮僕は後からなんだって思い知らされる!二人をみてると辛くなるんだよ!そんな劣等感、元貴には分かんないでしょ!」
サァッと元貴の顔から血の気が引くのが分かった。目には怒りの色が色濃く映し出される。と同時に、
「涼ちゃん!元貴!」
いつの間に戻ってきていたのだろう。若井が部屋の入り口に、焦りを表情にあらわにして立っていた。その瞬間にようやく僕は、しまった、と我に返った。
「今日の撮影は中止だ」
元貴の静かな声が部屋に冷たく響いた。
※※※
すれ違いシチュ好きですがしんどい……
息抜きに甘々もりょきを書きたくなって下書きがどんどんたまっていきます。そのうち短編集の方に更新するのでよければそちらも読んでみてください〜
リクエストとかも大歓迎です!
コメント
4件
またまたコメント失礼します! いろはさんの小説はその人物の気持ちがこっちまで伝わってきて自分も楽しませてもらっています!しかもほんとに読みやすくて他の方も言っている事に同意です!文才が大ありすぎてほんとに尊敬です!💕今後もお体にお気をつけてください!応援してます!❤️🔥
初コメ失礼致します🙇♀️ 主様の小説が好きでこっそり見させてもらってる者です👀🫣 言い回し文が素敵で、難しい言葉もちゃんと使っていて読みやすくて、感情移入もしっかり出来て、それでいてちゃんと🍏さん達のキャラクターも解釈一致で... すごいです✨もうなんと言ったらいいかわかりませんがすごいです😳これからも楽しく読ませてもらいます📖長文失礼致しました🙇♂️