この感情を自覚したのはいつだったろう。
いつの間にか芽生えたそれはだんだんと膨らんで、あっという間に僕の心をいっぱいにした。
いつの間にか、かけがえのない「大切」になっていた。
今でも確かに思い出せる、僕らが出会ったあの日。
僕らの目が合った瞬間、
僕の中で何かが弾ける音がしたんだ。
撮影スケジュールをあまり崩すわけにもいかず、「僕と若井が今回のアルバム収録曲について語り合うシーン」は、翌日予定通りに撮影することになった。昨日の元貴との言い合いをみられていた気まずさもあり、どことなく居心地の悪さを感じながら撮影が続いた。「BFF」の話題にさしかかり、
「これ、1番が俺で、2番が涼ちゃんって感じだよね、歌詞」
若井のその言葉に思わず動きがとまった。
「え……?」
頭が真っ白になる。
「嘘、ずっと若井だと思ってた」
はぁ?と呆れたように若井が笑う。
「そんな訳ねーだろ」
「ずっと、若井ソングだと思ってた」
「ちげぇよ、2番の歌詞、こういうの話するの元貴は涼ちゃんとじゃん」
嘘、嘘だ。頭が回らない。
「だって、元貴はいつも若井のこと心配して……」
2番の歌詞が本当に僕に向けてのものなら。昨日、元貴に向かって放った言葉は、とんでもなく取り返しのつかないくらい、彼の気持ちを踏みにじったことになる。カメラも回っていたのに、その後若井が何を言っていたのか、自分はそれになんと応えたのか、上手く思い出せない。気がつくと撮影は終わっており、僕はスタジオを飛び出して、元貴の家に向かっていた。
元貴の住むマンションに着き、インターホンを押す。応答を待っている間の1秒1秒がひどく長い時間のように感じられる。
「はい……えっ、涼ちゃん?」
スピーカーから元貴の声が聞こえたと思うと、少しの間があって、がちゃりと勢いよくドアが開いた。
「えっ……なんで、涼ちゃん……どうしたの?」
焦りと戸惑いを隠せずにいる元貴の顔をみた瞬間に、ぼろぼろと涙が溢れた。
「えっ、涼ちゃん、ちょっ、だ、大丈夫?」
とりあえず中入って、と背中をさすられながら促されるままに部屋に入る。
「昨日のこと、謝らなきゃって思って、それで……」
ちゃんと思いを伝えなきゃと思うのに、涙がどんどんと溢れてくるせいで上手く息ができず、しゃくり上げるような形になってしまう。
「若井との撮影終わってすぐ来てくれたの?」
元貴は変わらずに落ち着かせようと背中をさすりつづけてくれている。胸が詰まったように声が出なくなってしまって、必死に何度も頷いた。そっか、ありがとね。元貴の優しい声が、腕が、僕をあたたかく包み込む。
「ごめん、ごめんなさい。分かってなかったのは僕の方だ。元貴はちゃんと、僕のことも見てくれていたのに……」
ぽんぽん、と軽く頭を撫でられる。
「分かってもらえたなら、嬉しい。僕の方こそごめんね?涼ちゃんが人の意見を真摯に受け止めてることも分かってたのにそれまで否定するようなこと言っちゃって……でも良かった。涼ちゃんがさ、いなくなっちゃったらどうしようって、あれからずっと考えてた」
語尾が微かに震えていた。はっとして顔をあげようとすると、元貴にぎゅっと抱きしめられて阻止される。
「ごめん、いま見ちゃダメ。すげぇかっこ悪い俺」
「そんなこと言ったら僕どうなるの」
「涼ちゃんはいいの、いっつも泣いてんじゃん」
泣き虫なんだからーと頭をグシャグシャと荒っぽく撫でられた。それからまた、ぎゅ、と抱きしめる力を強めてしばらくそのままでいた。
「ずっとそばに居てくれるでしょ?いなくならないよね?」
か細い声が静寂を少しだけ切りとる。
「当たり前じゃん、僕、元貴のこと大好きなんだよ」
「えー、俺も涼ちゃんのこと大好きー」
そう言いおえると元貴はパッと身体を離した。目線を合わせると、その口元が綻ぶ。一人称が俺になっているのは、強がって照れくささを隠している証拠だ。大好きの意味が違ったっていい。この笑顔をそばでみれるなら。つまらない嫉妬も今度は綺麗に隠しきってみせる。そんな決意を抱き、彼の笑顔につられるように僕も笑ってみせた。
「言ってるでしょ、俺藤澤涼架ファンなんだから。出会った時に一目惚れなんだからね」
そう言って彼は再び僕を強く抱き締めた。
※※※
余談ですが、BFFに関して涼ちゃんがぜんぶ若井のことだと思ってたと話す動画、見たことある方も多いと思うんですが、あれがかなり好きです。
もっと自信を持っていろんな人からの愛を受け取ってほしいなぁと思ったり……。
あの謙虚さが素敵なポイントのひとつでもあるんですけどね。
4話~5話のあたりのお話は、元貴sideも本編完結後に更新予定です。彼がこの時何を思い、涼ちゃんからは見えないところでどう動いていたか、完結後の楽しみにお待ちいただけると幸いです!
コメント
6件
感動〜!✨あそこのシーンの涼ちゃん自分に自信がないんだろうなって、ファンのみんなも思った所だし涼ちゃんの事を好きになった人が多い思う!自分もその内の一人ですからね〜 その部分があってもそこからストーリーを広げられるのが凄いです! 毎度の如く長文失礼しました!
すごく感動しました! BFFのあのシーン、若井さんの言葉を聞いたあとにすごく安堵したような涼ちゃんが尊すぎて私も大好きです❤️ 素敵な作品をありがとうございます!次も楽しみに待ってます! 長文失礼しました🙂↕️
とっても素敵です🥹わたしも2人のすれ違いネタ好きでちょうどBFFで書いてたのでよけいに嬉しい💕w