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「アックさん、本当にごめんね~! 悪気なんて無かったんだよ。本当だよ!」
「イデアベルク公国のアック・イスティ様。リリーナに罪はありませぬ。此度のこと、どうか穏やかに……」
ルティの伯母であるリリーナさんは、お騒がせなことをしたことを素直に謝ってきた。この人の素の部分も知っているだけにこの言葉も嘘っぽく感じられたが、今回は村の偉い人もきちんと出て来てくれたので信じるしかなくなった。
「ま、まぁ、得られたものもあるのでそこはいいんですが……あなたは――?」
「わたしはネーヴェル村の長である、ネローマ・アウリーンと申します」
ハーフエルフでは無く、この人は正真正銘のエルフのようだ。金髪に金色の瞳と細長の耳、どこか儚げないで立ちを見せている。長といっても老齢な感じには見えない。
確かここはドワーフが認めないと入れない村だったはず。しかし村民を見る限り、ここに暮らしているのはドワーフとエルフが半々といったところ。
そうなるとここは、ロキュンテに深い関わりがある村ってことか。
「アウリーン? その名はもしかして?」
「ええ。リリーナとは血縁になります。そしてルティシアの母とも関わりがあります」
「そうなんだよ~! アックさん、驚いた~?」
「いや、雰囲気が似てるんで何となくは……」
「む~!! つまんない男の子だ~!」
幼さを出してるのは絶対わざとだろ。
ルティと並んでも分からないくらい若いがそういえば――。
「ルティは今……?」
「あの子、そして虎の娘は眠っています。エルフの娘は訓練で忙しくしていますよ」
「訓練……ですか?」
おれについて来ることを決めたサンフィアだったが、彼女はつくづくついていない。村に来た時点で彼女の実力が未熟なことを知られていたんだろうか。
試練が終わったと同時に村の全景を隠すような霧は取り払われたが、村の住人が暮らしているような家はどこにも見当たらない。そうなると村入り口の小屋も幻だったということになるが。
あの人垣は幻には見えなかったが、一体どこに本当の家があるんだ?
「アックさま、あたしがあの娘たちの様子を見に行きますか?」
「……いや、君はここに」
「かしこまりましたわ」
さすがに村の長が出て来た以上、信用するしか無いだろう。サンフィアだけ別の扱い、それも訓練をさせるなんて一体どういう狙いがあるのか。
「その、サンフィアだけが手ほどきをうけているわけですか?」
「ええ、そうです。お気づきでしょうけれど、彼女……サンフィアはまだ外の世界に出て間もない」
「確かにそうですが、それにしたって訓練って」
「彼女は以前、イデアベルクによって外界から守られていたはずです」
「――! まぁ、そうですが」
サンフィアだけでなく、イデアベルクにいるエルフたちは今の外を知らない。つまり外界に慣れていないわけだが、それが関係して力を発揮出来ていないという意味のようにも聞こえる。
「それから……長らくエンシェントエリアにいたことで、年を重ねていないと思われます。外見は確かに成人していますが……」
イデアベルクにそんな場所があっただろうか。まさかと思うがグルートが現れたあそこのことでは?
「エンシェント? エルフの森域のことですか?」
「はい。あの場所は古くから定められた聖域。あの場所に留まっている限り、年を重ねません。もちろん種族によってはいい場所にはなりませんが」
そう言うと、ネローマさんはミルシェを見た。
「な、何です? あたしに何か?」
「……ミルシェ様も以前、似た場所にいましたね?」
「――! 水棲怪物の頃のことでしたら、あの海域は確かにそうですわね」
怪物として長らく海底神殿に居着いていたとはいえ、姿が全く変わらないまま保っていたのはそういう意味があったのか。
「エンシェントエリアっていうのは、他にも?」
「あります。それに気付いたのが薬師イルジナなのです。力は大したことが無くとも年は重ねることがありませんから、それがいかに脅威となるか……」
ザーム共和国で出会った妙な薬師のことだな。その女が率いる集団がイデアベルクに攻めて来る……。何とも厄介な奴に目をつけられたものだ。
「――つまり、ルティたちを魔石ごと覚醒させたのもそれに備える必要があったからですか?」
「その通りです。ですが、エルフであるサンフィアは魔石の影響を受けません。自らの力で示すしか無いのです」
「……なるほど。それで面倒な試練を課したと。おれには何を示してくれるんです?」
「アック様には伝授を……」