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第6話:最初の衝突:グルッペンの問い
登場人物
グルッペン:WrWrd軍総統
トントン:書記長
ひとらんらん:一般兵
オスマン:外交官
本文
翌朝、グルッペンはトントンを伴い、ひとらんらんとオスマンの二人を総統執務室に呼び出した。部屋には四人しかいないにも関わらず、空気が重く、鋭利な刃物のように張り詰めていた。
グルッペンは机に両肘を突き、静かに笑みを浮かべた。その眼差しは、獲物を追い詰める猛禽類そのものだ。
グルッペン「ひとらんらん、オスマン。お前たちに聞きたいことがある」
オスマン「グルッペン、一体どうしたメウ? そんなに改まって」
オスマンは努めて明るく振る舞ったが、グルッペンの視線から逃れられずにいた。
グルッペン「隠し事だ」
たった一言。その言葉で、二人の顔から血の気が引いた。
ひとらんらん「……隠し事、ですか? 僕たちに、何かありますか」
グルッペン「あるだろう? ひとらんらん。お前が深夜にこっそり書いているという、他国語の暗号文書。ゾムが見た、お前の手首のナイフの古傷と、プロの処置技術。そして、**『ラン』**という奇妙なコードネーム」
ひとらんらんの身体が微かに震えた。自分の秘密が、バラバラに、しかし確実に収集されていたことに戦慄したのだ。
次に、グルッペンはオスマンに視線を移した。
グルッペン「オスマン。お前が常に身につけているW国軍に関わる装飾品。そして、お前が守りたいと願う家族の存在。家族がW国の支配下にいるために、お前が我が軍の動向を監視しているという、真の目的」
トントンは、グルッペンが秘密を全て把握していることを示すため、二人の前に、暗号を解読した報告書(実際はまだ解読途中だが)と、W国の機密データの一部を叩きつけた。
トントン「言い訳は聞きたくありません。我々だのメンバーにスパイ行為を働いたのか、それとも、個人的な目的を隠して我々を利用しようとしたのか。正直に答えろ」
ひとらんらんは、深く頭を下げた。
ひとらんらん「申し訳ありません、グルッペン。……僕は、何も隠していません。暗号文書は、故郷で使っていた趣味の文字です。傷は、本当に昔の作業中のものです」
オスマンは震えながらも顔を上げた。
オスマン「僕だって、何も隠していないメウ! 確かに、家族は大切だ。だけど、僕の忠誠心はWrWrd軍にある! あのブローチは、亡くなった母の形見だ!」
二人は、秘密がどれだけバラバラに暴かれても、最後の最後までスパイ行為や裏の目的を認めようとはしなかった。彼らの頑なな態度は、グルッペンをさらに冷酷な決断へと導いた。
グルッペン「……そうか」
グルッペンは立ち上がり、大きく息を吐いた。
グルッペン「ならば、信じよう。私の勘違い、トントンの深読み、ゾムの早とちりだったのだろう」
二人は顔を上げ、安堵の表情を見せた。
グルッペン「だが、聞け。ひとらんらん。オスマン」
グルッペンの声は、優しかったが、その内容は氷のように冷たかった。
グルッペン「お前たちが私を裏切る理由は揃った。家族、トラウマ、そして故郷。これらは全て、我が軍の敵国に繋がっている」
グルッペン「私がお前たちを『信じる』のは、お前たちが**『裏切る証拠』**を見つけるまでの猶予だと思え」
グルッペン「これより、お前たちの行動は常時監視下に置かれる。そして、お前たちが関わるすべての作戦には、偽の情報が紛れ込むことになる」
グルッペンは微笑んだ。
グルッペン「もし、その偽の情報をW国に流し、我が軍に損害が出た場合。その時こそ、お前たちの**隠し事の『過去』**を全て話してもらうことになる。そして、WrWrd軍からの永久追放だ」
グルッペンの言葉は、二人に**「信じられているが、試されている」**という、極限の緊張感を与えた。二人は、笑顔の下で、裏切り者としての道を、意識せざるを得なくなった。
二人が総統室を後にした後、トントンが静かに口を開いた。
トントン「グルッペン、彼らに偽の情報を渡すのは、あまりにも危険では?」
グルッペン「危険を犯さなければ、奴らの本心は見抜けん。我々だの規律は一つ。裏切り者は、容赦なく斬る。だが、その前に、彼らの家族という人質を解放する唯一の方法を、示してやろう」
グルッペンは、二人をWrWrd軍とW国の間の平和のための駒として利用することを決意したのだ。