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「うわ、びっくりした!」
急にシャワーを捻ったゆうたさんが、俺のリアクションを見てクスクスと笑っている。
「あ! せっかく拭いたのに、また濡れちゃうじゃないですか」
「……僕、濡れてるいつきさん、すごく色気があって大好きなんです」
ゆうたさんが、トロンとした熱い眼差しで俺を見上げてきた。
そんな顔で、そんな声で言われたら、俺のブレーキなんて一瞬で消し飛ぶ。
熱を帯びた唇に、抗う暇もないほど深く、強引に口づけを落とした。
「んっ、……いつきさん、もっと、強く……」
耳元で急かすような甘い声。
俺は彼の身体を引き寄せ、その熱を余すことなく確かめるように、ゆっくりと、けれど確実に距離を詰めていく。
「今日のゆうたさんは、優しくされたいの? それとも、もっと激しくされたい?」
彼の瞳をじっと見つめ、逃げ場を塞ぐ。
本当は知ってる。この人が、実は激しい愛情を求めていることくらい。
でも、言葉にしなきゃ、一番望んでいることはしてやらない。
「……いつきさんの熱で、僕をいっぱいにして!いつきさんに激しくされるのが……一番好き!」
浴室に響き渡る水音と、高鳴る鼓動。
俺は理性のタガを外して、愛おしい恋人のすべてを独占するように、その奥深くへと何度も何度も、情熱のすべてを叩きつけた。
溢れ出した熱量と共に、ふと現実が脳裏をよぎる。
やばい。今、何時だ? まさか遅刻してないよな!?
「……遅刻、してないかな?」
俺が息を切らしながら訊ねると、腕の中のゆうたさんは穏やかに微笑んだ。
「……きっと大丈夫です。僕の腹時計はまだ鳴っていないので、まだ六時にはなっていないはずですよ」
お互いの体を整えてリビングに戻った瞬間、枕元の目覚ましがけたたましく鳴り響いた。
それと同時に、ゆうたさんのお腹が「ぐぅ~」と可愛らしく鳴り、二人で顔を見合わせて爆笑してしまった。
「コーヒー、淹れますね」
「じゃあ、俺もゆうたさんの分淹れます」
「あ、じゃあ僕、朝ごはんも……」
「じゃあ俺は、ゆうたさんの……」
「……どんだけ仲良いんだよ、俺ら」
穏やかすぎる会話に、ゆうたさんがふふっと優しく目を細める。
いつも上品なゆうたさんも好きだけど、本音を隠せない「素」のゆうたさんも、俺はたまらなく大好きなんだ。
「あ、俺、思ったんすけど……。来週、有給取ってゆうたさんの大阪出張、ついて行っていいですか? 荷物持ちでもなんでもしますんで」
名案だと思った。だが、返ってきたのは意外な言葉だった。
「え……。それはダメです」
「え?! なんで!?」
「……嫌なんです。こんなに魅力的な人が僕の周りにいるって分かったら、周りが放っておかないでしょう? 絶対、気が気じゃなくて仕事になりません」
「……断られてショックだったんすけど、なんか……嬉しいです」
「……僕の仕事が終わる日に、休みを取ってください。一緒に遊びに行って、僕たち二人だけの思い出を作りたいです」
「……はい! 喜んで!!」
大喧嘩をしたり、ドラマのような劇的な事件が起こったりしなくても。
こうしてお互いを想い合い、支え合う「普通」の日常こそが、俺たちにとってはかけがえのない愛の日々なんだ。
「いつきさん。いってらっしゃい。……愛してます」
「うぇぇっ!? どうしたんですか、急に!」
「りゅうせいくんが言っていたので、僕も言いたくなっちゃいました」
心臓が、今日一番の大きな音を立てる。
「……俺の方が、愛してますからね。ゆうたさんのこと」
「……んなもん、あんたのこと見てたらわかる」
「うわっ、今の言い方……!」
顔を真っ赤にして、照れ隠しにわざとぶっきらぼうな口調で言ったんだろう。
……よし。長身イケメンの嘘をついたりゅうせいへの怒りは、今回は不問にしてやろう。
だって、俺は今、世界で一番幸せなんだから。
萩原なちち
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