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第四章・苦しい日々にサヨナラを
空花先輩と話した日から二日が経った月曜日。今日は戌亥葛葉と春風美桜は大人しかった。そのおかげか久しぶりに学校にきた果南は過ごしやすそうだった。今日も能代さんと一緒に果南と話した。〝そう言えば〟と能代さんが話を切り出した。
「私達名前であまり呼ばないよね。」
「ダッシュ・スティムツゥ。」
「言われてみれば。というか果南、それもドイツ語?」
そう私が聞くと彼女は微笑み
「うん。意味は、確かにそうだね。だよ。」
「ふむふむ。」
そう感心していると、能代さんがわざとらしく咳払いをして
「話戻そうか。それでね、皆で名前呼びしたいと思うのだけれど、いいかな?」
そう言われ私はすぐに頷いた。果南も
「名案!流石朱鷺!」
と、早速使っている。
「改めて宜しくね。果南ちゃん、棗ちゃん。」
「うん。ゼーア・アンゲネーム。棗、朱鷺!」
「ええ。朱鷺ちゃん、果南。」
そうこうしている間に昼休みが終わった。
放課後、帰る前にトイレに行こうと歩いていた。
「ふざけないで欲しいのですッ‼」という怒鳴り声が聞こえた。この声は明らかに春風美桜だ。息をひそめてトイレの中入口から中を覗く。すると戌亥葛葉、春風美桜を含む女子五人組が果南を囲んでいた。
「ふざけてなんてない。私は、本気」
そう強く立ち向かっているのは果南だった。
「だったら、棗がどうなってもいいの?」
そう追い打ちをかけるように葛葉が冷たく言った。
「それは…」
その言葉を聞き彼女は困ったように顔をしかめた。それを見た美桜は溜息を吐くと
「貴方に意見する権利はありません。言う通りにしてればいいのです。大丈夫ですよ。反抗さえしなければこれ以上酷いことにはなりません。」
そう言った。私は足がすくんだ。私が居たら余計足手まといではないかと。
「ねえ、この水かけたほうがいい?」
「いいね。そしたら少なからず今は反抗せずに黙ってくれるはずだよね。」
「いいと思うけど。葛葉と美桜はどうする。」
そう相談し始めた。すると葛葉はにっこり笑って
「名案ね。」
と、答えた。美桜も賛成の様で、先ほど話していた三人は水を汲み始めた。
「そんなことしても私諦めないから。」
そう言っている果南の事を無視して黙々と水をくんだ。
「この位でいい?」
と三人の中の一人が葛葉に聞いた。
「お!いいんじゃない?」
そう言いバケツを果南の目の前まで持ってきた。
「じゃあ、行きますよ。」
そう声が聞こえた時、私は居ても立っても居られなくなった。バシャァーン‼そう聞こえた音と同時に冷たい水が全身にかかった。
「つめたっ‼」
果南の方をチラッと見ると、何が起こったかわからず固まっている。水はかかっていない様で少し安心した。
「何?棗。何してんの?」
そう冷たい目で私を見る。
「それを言うなら君たちもじゃない?何果南に水かけようとしてんの?」
私はもう恐れない。これまで言いたかったことを全部言ってやろう。そう思い葛葉達をにらみ続けた。
「何なのですか。黙ってないでさっさと言うのです。」
いつもと違うことが分かったのか美桜がそういう。
「なら言わせてもらうけど、何くだらないことしてるの?そんなことして楽しい?私には理解できない。というか理解する気がない。だってこんな事やっても時間の無駄だし、人を傷つけるなんて可笑しいと思うよ?先生とかにバレて、おおやけになってもしらないよ?」
そういうと葛葉がハッと笑った。
「だから?バレなきゃいいじゃん。」
言われてみればそうだ。先生に言ったって証拠がないんじゃ…。そう黙り込んでいると
「先生こっちです。」
そう聞き覚えのある声が聞こえた。それを聞いた葛葉達はぎょっとした。そして外から声が聞こえた。
「おい出てこい。」
「やばいよ。この声古川じゃん。」
「ひどく怒られないうちに出よう。」
「待ってよ。」
そう言い三人は葛葉と美桜を置いて出ていった。美桜は少し残念そうに葛葉に
「行きましょう。」
と優しく声をかけた。すると葛葉は私達の方を睨んでから外に出た。
「大丈夫⁉」
そう一目散に飛び込んできたのは朱鷺ちゃんだった。朱鷺ちゃんの顔は焦っていて、汗で髪が張り付いていた。急いでいたという事が分かる。
「キャー!棗ちゃんびしょ濡れ⁉どうしよう。取り敢えずタオルと棗ちゃんのロッカーから体操服持ってくる。待ってて!」
そう言い嵐のように去っていった。そして私は果南に聞いた。
「なんで果南がこんな目に合わなくちゃいけなかったの?」
そう聞くと果南は少し顔を伏せながら
「実は私、棗と仲良くなりたかったんだ。だから仲良くするために私が棗の代わりに…そしたら棗の事は虐めないって言ったから。」
そういうと、彼女は私の顔をまっすぐに見た。そして
「エントシュルディグング。棗の事巻き込んじゃった。」
といい頭を下げた。多分ごめんなさいという意味なのだろう。でも私は少し悲しかった。
「謝らないで。結局私のせいじゃない。そのせいでつらい思いをした。なら私にも謝る権利はある。だから、ごめんなさい。」
そう言い頭を下げた。シーンと時が止まった様に思えた。私が頭を上げると果南と目が合った。その瞬間二人揃ってふきだしてしまった。
「なんで笑うの、果南」
「そっちだって」
そんな事を言いながら笑いあった。
「お待たせ。タオル借りてきたから拭いて着替えて‼」
そう、良いタイミングで朱鷺ちゃんがやって来た。私たちが笑っているのに気付き
「え、何笑ってたの?」
と聞いてきた。私と果南は顔を見合わせ
「さーね。」
と、曖昧な答え方をした。朱鷺ちゃんが怒って
「なにそれ、私にも教えてよー。」
そう言い私と果南を追いかけ回した。やっぱりこういう時間が一番好きだと実感したのだった。